第24話
陽は分厚い壁に覆われた塔の中を進んでゆく。塔の出入口、つまり塔の最下層には窓が無く、天井もあまり高くないために外から見た時よりも狭く感じた。彼はその黒い壁で覆われた空間を見渡す。
内部は円柱型の空間になっており、内側にもう一重壁があった。その壁には両開きのドアが一定間隔ごとに付いており、彼が歩いている場所はその部屋を行き来するための通路になっているようだった。壁に埋め込まれている照明が、外の光の届かないその場所を照らしている。
「とにかく、上に行くための道を探さないと……!」
彼は通路を走り、手当たり次第にドアを開けようとする。しかし、どの扉も開く様子は無く、隙間に指を入れてこじ開けようとしても開くことは出来なかった。
そして通路を半周し、入口と逆側にある扉の目まで来た。先程までの扉よりも一回り大きいドアがその場所にはあった。
陽は扉に近づいてゆく。するとドアの上部にあった四角い箱から、赤い光が彼の身体に向けて照射された。
「うわっ!?」
彼は突然浴びせられた光に驚いて、腕を顔の前にやり光を遮ろうとする。そうこうしている間に彼の頭から足元にかけて通過していった光は消える。
「今の、もしかして見られたのか!?」
先程の光を見て、陽は以前見たSF映画に出てきた光景を思い出した。その映画ではセンサーが発する光に当たってしまった登場人物が、敵に気付かれる描写があったからだ。
ドアの上部にある光を発したものが、同じように侵入を感知するセンサーだった場合は、彼が塔の中にいる事が敵に知られてしまう。陽は敵の襲撃に備えて身体を強張らせるが、何も起こる様子は無かった。
「何も来ない、見つかったわけじゃないのか?じゃあ今のは一体……」
何も起きない事に安心し、彼は自分の身体に異常が無いかを確認する。するとその瞬間、彼の身体に纏っている鎧が粒子状になって剥がれ落ち始めた。
「なっ!?急にどうして!?」
驚きの声を漏らすが、それを止める事は出来ずに、その粒子は彼の身体から完全に離散した。そして一点に集まってドラゴンの形を作る。
そして彼が息をつく間もなく、再び扉の上部から光が放たれ彼の身体を這ってゆく。彼は眩しい光に顔を隠す事も忘れて棒立ちでそれを受ける。
赤い光は彼の身体を通り過ぎたところで消え、黒い光沢を放っていたドアに光の線が何本も走った。少しすると、ガチャリと鍵が開く音がした。
「!!……開いたのか?」
彼の思った通りに、ドアは小さくモーターの音を響かせながら左右に開いてゆく。開くドアの隙間から部屋の中の様子が次第に見え始める。
部屋の中は通路と同じく黒い壁で覆われているようだった。
「鎧が脱げた後光に当たったら鍵が開いた?やっぱり今のってセンサー的な物だったんじゃ……!?」
もし今敵に見付かったら相当まずい。彼はそう考えるが、ドアが開いた事以外は、先程と同じように敵が来る事も無かった。
ドアが完全に開いたところで彼は恐る恐る部屋の中に入ってゆく。ドラゴンも爪の音をたてながらそれに続いてゆく。
部屋に少しだけ入った所で立ち止まり、通路よりもさらに薄暗いその部屋を見渡す。
照明の明るさが足りておらず、部屋の奥の様子は彼の目には見えなかったが、それなりの広さがある部屋のようだった。
「あった、階段だ!」
彼が立っている入口から見て左側に、上階へと伸びている階段が見えた。
「……!あれってもしかしてエレベーター、か?」
階段がある方とは逆側、部屋の入口から見て右側には、透明な壁で中の様子が透けて見えるエレベーターがあった。あれに乗ることが出来ればすぐにでも最上階へ向かえそうだと彼は思った。
「久々に扉が開いたかと思えば、これはこれは珍しいお客さんが来たものだね」
「っ!?」
エレベーターに近づこうとしている彼に、暗い部屋の奥から語り掛ける者がいた。敵か、やっぱり見つかってしまったのか。彼の全身から冷や汗が噴き出す。
それは硬い足音を立て、闇の中から彼らがいる方へ近づいて来る。かすかな光に照らされ、その輪郭が浮かび上がる。
「警報が鳴ったのは、誤作動のせいじゃなかったんだね」
現れたのは、額に三日月模様の入った1人の少年だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます