第22話

 先を走るローウェンは、陽とは比べ物にならない速さで敵達に迫ってゆく。彼はそのまま腕を前に突き出し、息を吸い込む。彼は魔法を使うつもりだ。次の瞬間、彼の腕からは勢いよく水が噴出される。

 流れる水の音に気付いた敵兵士が2人を発見するが、迫り来るローウェンの魔法を回避するのには遅かった。先頭にいた敵に激流が衝突し、その周りにいた兵士を巻き込んで押し流してゆく。

 

 雪崩が起こったかのような勢いで敵達が2人へと迫る。ローウェンは掌を地面に向け、そこから水を噴射する。噴射した勢いで彼の身体は宙に投げ出され、敵の頭上を飛んでいる。


「まとめて吹き飛ばす!」


 ローウェンは空中で体勢を整え、両腕を振り上げ息を吸う。すると彼の頭上には巨大な水の塊が出来あがる。彼は腕を振り下ろし、その振り下ろした腕に合わせて塊は降下してゆく。密集する兵士達の中心にそれは落ち、爆弾のように水が弾ける。

 敵達は吹き飛ばされ、それによって敵達の中心に空間が生まれる。ローウェンはその場所に着地した。足元に流れる水が跳ねて飛ぶ。彼は自身の周りを囲っている敵達を睨みつけた。


 ローウェンの魔法で生み出された水が陽の足元まで流れて来る。彼は足を取られて滑らないよう気を付けながら走る。吹き飛ばされた敵兵士の一人が、彼の目前で立ち上がろうとしている。


「ごめん……なさい!!」


 謝罪を声に出しながら右腕を振り上げ、陽はすれ違いざまに敵を殴りつける。彼に殴られた敵の身体は、再び地面に叩きつけられる。その衝撃によるものなのか、敵は糸が切れたように動かなくなる。


「やっぱり、これを着てると力も強くなるんだな……」


 人を殴りつけた感触が拳に残っている。殺してしまったかもしれない、という事を考え彼の足は止まりそうになってしまう。だが、彼が前を向くと、魔法を使い戦っているローウェンの姿が見える。

 撃ち出される水によって敵を吹き飛ばしているが、じりじりと敵の接近され始めているようにも見えた。今は恐がっている場合じゃない。陽は心の中で自分に言い聞かせ、ローウェンの元へと急いだ。


 近付いて来た陽に何人もの敵が反応し、向かってゆく。彼は足を止め、力を使わず接近戦で迎え撃つ。殴りかかって来る敵を鎧によって強化された身体能力で無理矢理回避し、カウンターを決めてゆく。

 殴られた敵達は突き飛ばされてゆくが、倒す敵の数よりも新たに迫る敵の方が多いため、陽はすぐに周りを囲まれてしまう。何人かの敵の攻撃は上手くひるがえし、攻撃を返してゆくが、敵の数の多さゆえに次第に被弾する回数が増えてゆく。


 陽は敵の攻撃をなんとかといった様子でさばきながら息を吸い込んだ。すると彼の周りの空気が熱を帯び始める。


「さっきとは違う!」


 そう叫んだ彼が腕を左右に振りぬくと同時に、その身体の周りで爆発が巻き起こった。爆風を受け、彼に攻撃を仕掛けていた敵兵士達は大きく吹き飛ばされる。炎が飛び散り、焦げ臭い匂いと煙が舞う。

 陽は前を見据える。敵に囲まれながら戦うローウェンの姿が目に映る。彼は姿勢を低くする。思い浮かべるのは先程ローウェンが見せた魔法を使った跳躍、そしてギブリが使う風の魔法。


 陽はその身体に風を纏う。その周りでは風が渦を巻く。彼は足を蹴り出し上に飛ぶ。その瞬間、彼の腕から強い風が生まれる。その風に巻き上げられ、彼の身体は高く飛び上がる。

 彼は密集する敵の頭上を飛び越え、ローウェンが戦っている場所へと降下してゆく。


 ローウェンの背後、死角から迫る敵の前へと着地する。敵の視点からは、陽が突如眼前に現れたように見えた。彼は着地した体勢のまま顔を上げ、目の前に広がる敵の群れを鎧の奥から睨みつけた。

 陽とローウェンの周りに暴風が吹き荒れた。渦を巻く風を受けて、周りにいた敵兵士達は、宙に投げ出され離れた場所に落下してゆく。


「ローウェンさん、大丈夫ですか?」


 陽は敵を警戒しながら、背後にいるローウェンに声を掛ける。


「ええ、まさかこれ程の力とは思いませんでしたよ」


 ローウェンもまた敵を睨みながら答える。風によって巻き上げられた水が雨のように降り注いでくる。2人は少しずつ後ずさりし、背中合わせになる。


「ヨウさん、そちらの敵は任せましたよ」


「はい、行動で示すって、言いましたから……!」


 2人はそう言葉を交わし、迫り来る敵達に向けて腕を振り上げた。

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