第21話

 ステラ達に受け入れられた事で、他の人達にも同じように受け入れて貰えると勝手に思い込んでいた。傍から見ると、突然現れてステラ達をそそのかしたように見えたかもしれない。陽は自分の置かれている現状を客観視する事で、その結論に辿り着いた。


「行動で?なるほど、それで示してくれるなら分かりやすいです。ただ、もし怪しい行動を取った場合は僕の判断で水の中に閉じ込めます。あなたの力がどのようなものかは知りませんが、少なくとも魔法は使えないでしょう」


 陽に対する懸念が消えていないローウェンは、保険として脅しをかける。


「それでいいです、今は先に進みましょう」


 陽は自分の正体を証明出来ない以上、それぐらいのリスクは許容しなければならないと思い、毅然とした態度で返事をする。彼らは周りを警戒しながら空洞の奥へと歩き始める。湿気と薄暗さが不気味な雰囲気を醸し出しているそこには、2人の足音だけが響いていた。


 それから数分後、水路が流れ着いていたのは逆側へと、壁に沿ってしばらく移動した彼らは、小さな扉を発見する。陽がドアノブを回して扉を開けると、そこには上へと伸びている狭い階段があった。


「あった……!きっと出口です!」


 彼はその階段を外に通じているものだと判断し、ローウェンに声を掛け2人でそれを上ってゆく。何度かの折り返しを経た先で階段は終わっており、その場所には先程くぐったものと同じ大きさの扉があった。

 陽はドアノブを回し、それを前に引く。錆びた鉄が軋む音が鳴り、ゆっくりとその扉は開いた。


 ドアをくぐるとそこは小さな小屋のようになっており、開いた入り口の扉から外の様子が垣間見えている。2人は小屋の中を軽く見回し、何も無い事を確認すると、出口へと近づいてゆく。ローウェンが扉から身体を少しだけ外に出し、周りに敵がいないかを確認する。


「今の所敵の姿は見えません。ヨウさん、行きましょう」


 ローウェンが周りの安全を確認すると、彼らは小屋の外へと出る。その小屋は巨大なビルの間にある路地に面しているようで、壁に視界を遮られ周りの様子を知る事は不可能だった。

 ビルの陰から出て周りの景色を見ると、すぐ近くに巨大な塔が見える。彼らは地下の空洞を通り、街の中心へと進んで来ていたようだ。

 これを登り切るのはかなり骨が折れそうだ、と陽は視線の先にそびえ立つ巨大な塔を見ながら考える。


「行きましょう、ここから先は僕が案内します」


 ローウェンの案内でビルの陰に隠れながら街の中を縫うように進んでゆく。彼らが街に侵入した時とは打って変わって街の中はしんと静まり返り、近未来的な街並みが不気味さを生んでいる。

 次に敵と出会ったら俺もちゃんと戦わないといけない。緊張で動きが硬くなる身体を動かしながら、陽は覚悟を決めて表情を引き締める。そして彼らは敵と遭遇する事無く塔の入口が見える位置まで辿り着いた。


「敵が集まっています……どうやら陽動がうまくいかなかったみたいですね……」


 大きく口を開けている塔の入口には、数多くの三日月の兵士達が集合していた。彼らは等しく無表情を崩さず、塔を守るように陣形を組んで守りを固めている。


「入口はこの場所だけなんですか?」


「えぇ、これはあの敵達を突破しないと進めませんね」


 彼らはたった2人で何十、何百といった数の敵を相手にしなければならない。

 戦闘は避けられないと悟り、陽は深呼吸をして身体の動きを確かめる。震える腕をもう一方の腕で掴み、敵が群れる塔の入口を睨みつけた。

 塔の周りは大きな広場のようになっており、隠れるための遮蔽物になるものは存在しなかった。


「ここは正面から攻撃を仕掛けましょう!今いる敵を殲滅しなければ、無理矢理塔に入っても中に敵がいると挟み撃ちになる可能性があります」


 ローウェンの言葉に返事を返し、今から戦闘が始まるという恐怖で陽は鎧の中で震える唇を固く結ぶ。

 2人は顔を見合わせて頷いた。そしてビルの陰から勢いよく飛び出し、塔の入口を守る敵の軍勢の方へ駆け出した。

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