第15話
作戦会議の翌日、陽は家の外から聞こえてくる音を聞いて目を覚ました。彼の眠っていた部屋の扉や、家の玄関の扉が開いており、音はそこから入って来ていた。
音はかつかつと馬の
陽は虚ろな目を擦りながら体を揺すり起き上がる。部屋を見渡すと、机の上にパンとスープが置かれていることに気が付く。
誰かが用意してくれたんだなと思い、彼は食事を取ろうと思い、ベッドから立ち上がり椅子に座る。
「いただきます」
小さく呟き、胸の前で手を合わせてから食べ始める。パンは少しだけ固くなり、スープは完全に冷えてしまっていた。
それらのことから彼は、どうやら寝過ごしてしまったようだと考える。彼は昨日のことを回想する。
彼は、昨日行われた作戦会議の後、慌ただしく街を奔走する隊員達の様子を見て、自分も何か出来ることをしなければという考えにに至っていた。
そして、彼は作戦の要は自分であり、自分の行動が作戦の成否を分けるということを理解していた。自分が失敗することで、他の人が犠牲になる可能性があり、怖くもあった。
そのために彼には、まだ自分の持つ力とは到底言い切れない、ドラゴンが持つ力を、きちんと制御出来るようになることが必要だった。
以前部屋で試した時のようにまるで制御で出来ていない状態では、作戦の失敗は濃厚だった。彼は帰宅した後すぐに、ドラゴンの持つ力と、それを自由に使えるように検証を始めたのだった。
「それで、夜遅くまでいろいろやってたから、寝るのが遅くなったんだ……」
陽はそう独り言を漏らす。
「でも、とりあえず装備?するところまではスムーズに出来るようになった」
彼は以前、ドラゴンを鎧のように纏うためには、自身の感情が変化することが必要だという仮説を立てていた。
しかし、それはドラゴンを装備するための方法の1つであって、正攻法は他にあることを突き止めていた。
出会った時や、最初に力を試そうとした時は、感情の変化で装備していた。陽はそれを、ドラゴンが彼の事を守るために行動しているのではないかと考えていた。
強く念じること。呼び掛けること。この2つを組み合わせることで、陽は鱗を纏った姿に成れることを発見した。
「そうだ、あとはあの魔法みたいなのをちゃんと使えるようにしないと……」
陽はそう呟き、急いで食事を食べ進めた。固いパンをスープで流し込んだ彼は、急ぎ足で家の外に出る。
彼が外に出ると、日を浴びながら眠っていたドラゴンが丁度起きてくる所だった。
「……そういえばお前って、餌とか食べてないよな……?」
陽は出会ってからのドラゴンの行動を思い起こす。姿を変え、陽の身体に鎧のように纏わる時、ステラ達を威嚇した時。
そして現在も行っていたように朝、日の光を浴びているような時以外は、陽を見つめているか、どこか遠くを見つめているか、そのどちらかでしかないと考える。
容姿、生態、行動など、ありとあらゆることに生物感が無く、陽はドラゴンに対して謎を深めるばかりだったが、彼は今、それよりも優先しなければならないことを思い出す。
そして、目の前の広場で忙しなく動く人達の中から、話しかけられそうな人物を見つけて歩き出す。ドラゴンも、その後ろに付いて行った。
*
「ほら、ここなら多少暴れても大丈夫だろ」
「ありがとうございます。でも、2人は俺に付き合ってて大丈夫なんですか?準備とかあるんじゃ……」
「大丈夫大丈夫!それに、ヨウがどんな力使うのか気になるし!」
陽は、グロムとギブリの2人と共に、街の外にある平地へと来ていた。2人は初めて会った時の鎧姿ではなく、昨日と同じように動きやすそうな服装をしていた。
陽は広場でグロムを見付け、力について試したいと相談したところ、この場所へと案内してくれることになった。
ギブリは移動する陽達を見つけ、好奇心で着いて来ていた。
「力を上手く使えるようにしたい、だったよなぁ?そんじゃ、早速始めようや!」
陽がどのようにして力を試そうか考えていると、グロムが肩を回し、彼から離れるように歩きながらながらそう告げる。
「え?始めるって、何をですか?」
グロムの言った事が理解できずに、陽は彼に質問を投げる。少し離れた場所で立ち止まったグロムは、振り返り、にやりと笑いながら答える。
「手合わせだよ。明日までには形にしなきゃいけねぇんだろ?なら、チマチマやるより実戦で覚えた方が早いだろ!」
グロムはそう言って、いつでも駆け出せるように片足を前に出し、姿勢を少し低くする。
「え!?いきなりですか!?」
「あ、じゃあアタシは遠くで見てるね~」
驚き、声を上げる陽を尻目に、ギブリはそそくさと離れてゆく。ギブリが充分離れたことを確認し、グロムは声を張り上げる。
「ルールは1つ、どちらかが立てなくなるか、参ったと言うまでだ!!遠慮は要らねぇ、全力で来い!!」
彼の叫ぶ声を聞き、陽は覚悟を決める。両手で頬を叩きいて、よし、と気合を入れる。そして、傍らにいるドラゴンへと目を向ける。
青い瞳が陽を見つめている。
「来い、ドラゴン!!」
心の中で強く、強く念じ、叫ぶように呼び掛ける。彼の呼び掛けに、ドラゴンは咆哮し、応える。その身体は粒子へと溶けてゆき、陽の身体に纏わりつく。
そしてそれは、彼の身体の上に竜の鎧を形作ってゆく。そして彼が胸の痛みを感じると同時に、様々なイメージが浮かび上がる。装備は完了した。彼は大きく息を吸い込み、叫ぶ。
「グロムさん!!お願いします!!」
「おう!!手加減は無しだ!!」
2人の手合わせが始まった。
先に動いたのは陽だった。雄叫びを上げながらグロムが居る方へ駆け出す。鎧を装備する前の何倍もの速度でグロムに接近し、腕を振り上げ腹をめがけて拳を振るう。
グロムはそれを身体を横に捻ることで回避する。そして両手を握り合わせ、両腕を振り上げる。
「オラァ!!」
グロムの拳が、陽の背中へと振り降ろされる。陽はその攻撃を回避することも出来ずに、背中へと強烈な衝撃と共に地面に叩きつけられる。
グロムは攻撃の手を止めることなく、次はその巨体を生かし陽の足を掴み、彼の身体を軽々と振り回し、投げ飛ばす。
陽の視界は上下左右も分からなくなるほどに揺れ、彼はそのまま地面を転がった。よろよろと必死に起き上がった彼が見たのは、雷を纏った腕で自身に殴りかかって来ようとしているグロムの姿だった。
その瞬間、彼は息を吸い込む。そしてイメージする。
轟轟とした音が響き、陽の周りに嵐のように風が吹き荒ぶ。
「チッ……!」
グロムは舌打ちし、後ろに飛び退く。そして腕に纏っていた雷を放とうとする。だが彼は息を吸えないことに気が付く。
彼の身体は陽が作り出した巨大な水の球に閉じ込められていた。グロムはその状況をどうすることも出来ずにもがく。
「はあああっ!!」
陽は作り出したグロムの隙を見逃さず、暴風に乗せて炎を飛ばす。撃ち出された炎はグロムを閉じ込めている水に直撃し、爆発を起こす。辺り一面水蒸気が立ち込める。
陽は風を発生させ、水蒸気を払おうとする。が、その瞬間、彼は後ろで雷鳴のような音が轟くのを聞いた。咄嗟に後ろを振り返る。
彼が最後に見たのは、迫り来る雷を纏った腕だった。
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