第14話
城の上階、最奥の部屋。机と椅子が並べられ、奥の壁には地図が貼られているその部屋には、大勢の人が集まっていた。
そして地図の前に立っている銀髪の髪の少女が話し始める。
「今日、皆に集まって貰ったのは、先の見えない戦いに光明が差したことを伝えるためだ。ヨウ、前へ」
ステラは、一番前に座っていた陽に、自分の隣に来るように言う。陽は集中する視線を受け、緊張した面持ちでおずおずと前に出る。
「彼の名前はヨウ、彼の持つ力は、私達では不可能だった三日月の塔を破壊できるかもしれない。よって、次の作戦には彼も参加してもらう」
ひそひそと会話する声が聞こえるが、ステラはそのまま話を続ける。
「作戦の内容は既に決まっており、今からその概要を説明する。……ヨウ、ありがとう、もう戻って大丈夫だ」
陽が着席したことを確認すると、ステラは作戦の内容について話す。
「まず皆には2つの部隊へと分かれてもらう。そしてその2つの部隊は、グロムとギブリの両名にそれぞれ率いてもらう」
グロムとギブリは話を聞きながら頷く。ステラは2人視線を寄こしながら話を続ける。
「グロムの部隊は50人ほど、ギブリの部隊は10人ほどになるだろう。そして、私とヨウはギブリの部隊と行動を共にする」
少ない、人数を聞いて陽はそう感じた。そんな人数で大丈夫なのか、と不安が芽生えるが、周りから声が上がることもなく、淡々とステラの口から作戦について語られてゆく。
「塔の破壊を最終目標とし、それぞれの部隊は夜明けと共に行動を開始、対になる位置から街の中へ進軍してもらう。
グロムの部隊は陽動だ。太陽を背に広範囲に散開して出来るだけ目立つように建物を破壊しろ。敵を出来るだけ多く街の片側に誘導するんだ。」
グロムは任せろ、と言い放つ。その様子を見てステラは頷き、今度は視線をギブリに向ける。
「ギブリの部隊は塔までの道の安全確保。私達が塔までたどり着くまでの間、出来るだけ敵と遭遇しないように案内するという役割だ。
今言った通り敵との戦闘は極力避け、もし会敵した場合は逃走、もしくは迅速に処理すること。そして私達が塔へと到着したらすぐに離脱しろ」
説明に対して、ギブリは歯を見せて笑いながら返事をする。そしてステラは、陽へと視線を移した。
「ヨウ、塔に入った後は私が案内する。目指すは最上階、そこに壁を発生させていると思われるものがある。塔の中のルートは以前攻め入った際に把握している。
中の構造が変わっていなければ迷わずに辿り着ける筈だ。そして、最上階に辿り着いたら君の出番だ。思い切りやってくれ」
と、微笑みながら陽に語るステラ。陽は手汗をズボンで拭いつつ、強張った顔で何度もうなずく。そしてステラは陽から視線を外し、前を向き集まっている者達を見回す。
「塔の破壊が完了したら私が魔法で合図を送る!確認次第、各自で街の外まで脱出するんだ。彼らは街の外までは追って来ない」
ステラが作戦の最終段階について話し終える。そして、もう1つ、と前置きをして話始める。
「巨人についてだ。巨人が出現した際は武器での攻撃はせずに魔法でのみ攻撃するように。危険だと感じたら各々の判断で撤退しても構わない。自分の命を最優先で考えるように。
そして最後に、この作戦の決行は出来るだけ早くが良いと判断した。よって2日後の朝に出発し、その日の内に目標の街近くの森の中に拠点を作る。急な決定によって時間は少ないが、準備を怠らないように」
以上だ。というステラの言葉と同時に話を聞いていたいた者達は立ち上がり、作戦の準備を始めるために足早に部屋を出て行った。
部屋に残ったのは、陽とステラ、グロムとギブリの4人だった。
「ヨウ、お疲れさま。作戦については理解出来ただろうか」
ステラが座ったままの陽に声を掛ける。
「え、ええ。なんとか」
そう返事をしたものの、実際のところ陽は作戦についてほとんど理解することが出来なかった。見た事が無く、想像することも出来ない敵、そして場所。
ステラに付いて行けばいい事くらいしか、彼は考えることが出来なかった。作戦を聞いている間も、彼の中では不安がどんどん大きくなっていた。
「まぁ、ステラが付いて居れば大丈夫だよ!怖がること無いって!!」
「そうそう、それに、あんな力を持ってんだ、仮にお前1人でも、三日月の連中なんかに遅れは取らねぇだろうよ」
そんな不安が顔に出ていた陽は、ギブリとグロムから両肩を叩かれて励まされる。そんな2人に、陽はぎこちなく笑って礼を言う。
「そんじゃ、俺らも色々と準備しねぇと。行くぞ、ギブリ」
「はーい。ステラ、また後でね~」
部屋から出て行く2人をステラは手を上げて見送る。そして、部屋には陽とステラの2人だけになった。
「ヨウ、急なことですまないが、よろしく頼むよ」
「はい。でも、実はかなり不安なんです。俺はちゃんと、言われたとおりに出来るのか……ちゃんと力を使えるのか……」
「でも、糸口は掴めたんだろう?今朝、君はそう語ってくれた」
「まぁ、なんとなくですけど……」
「なら心配ないさ」
ステラは微笑んで言う。陽が未だ多くの不安を抱えたまま、見えない壁を作り出している塔を破壊するための作戦が始まろうとしていた。
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