第13話

 2人は城へと到着し、正門をくぐり中へと入ってゆく。城に入ってすぐの場所は広い空間になっており、上階へと上る階段が左右から伸びている。

 ステラは陽にこっちだと声を掛け、右側の階段を上ってゆく。階段を上り切った先には廊下が続いており、いくつもの扉が見えている。

 ステラは廊下の奥へと進んでゆき、陽もそれに続く。そして2人は、一番奥の部屋の前まで歩いた。部屋の扉と逆側には窓が付いており、街の様子を見渡すことが出来る。


「この部屋だ、入ってくれ」


 ステラは扉を開け、入室を促した。入室し、部屋の中の様子を見た陽は、大学の講義室を思い出していた。

 部屋の奥に向かって机と椅子が均等に並べられており、部屋の奥には教壇のようなものが置いてあった。そしてその奥の壁面には、大きな地図が貼ってあった。


「この部屋は、私達が作戦会議等に使用する部屋だ。それと罪を犯した者にどのような罰を科すかを話し合う場でもある。正直この城は、この部屋以外ほとんど使われていないな」


 ステラは部屋についての説明をしながら陽の横を通り過ぎ、部屋の奥へと進んでゆく。陽は相槌を打ちながら彼女の後ろに付いて歩き、そして2人は地図がよく見える位置で止まる。


「これは、この辺りの地図ですか?」


「あぁそうだ。今私達が居る街と、敵の拠点が描かれている」


 その地図の左下には、陽も先程目にした城と、その上空に浮かぶ黒い霧のようなものの絵が、そして右上には塔のような絵が4か所に描かれている。

 4つの塔の絵は、大きく描かれているものが1つ、小さく描かれているものが3つある。小さい塔を線で結ぶと3角形のような形になっており、その中心に大きな塔が描かれていた。

 ステラは右上に描かれている4つの塔を指差して、これらが敵の拠点だと語った。


「そして、君を見つけたあの建物はおそらくこの辺りだろう」


 ステラはこの街と敵の拠点の位置を説明した後、地図の右下辺りを示して陽に語る。ステラが示した3つの場所は、全て対角に位置していた。


「ヨウ、実は私達が戦っている敵は、君とよく似た姿をしているんだ。だが、君には彼らと決定的に違うと思える点が2つある」


 ステラは人差し指と中指を立て、そう前置きする。


「それは?」


「それは、私達と会話が成立する所、そして、額に三日月の模様が無い事だ」


「会話と、模様?」


「あぁ、額にある模様から、私達は彼らの事を三日月と、そう呼んでいる。それが、私達が戦っている敵だ」


「三日月……あの、その三日月とは、どうして戦うことになったんですか?」


 敵の容姿や特徴についての情報を聞いた陽は、2つの勢力が何故対立しているのかが気になり、恐る恐るといった様子でステラに質問する。


「あぁ、それは、彼らを滅ぼす事こそが、神が私達に課した使命だからだよ。私達は先祖代々、彼らと戦っている。それが理由さ」


 陽の質問に、ステラは無表情のままで答える。しかし、彼女の声色は少しだけ冷たく感じるものとなっていた。

 陽はそれを感じ取り、この話題にはもう触れない方がいいだろうと判断する。陽が黙っていると、ステラは話を再開した。


「話を戻そうか。三日月の拠点はこの地図に描かれているもので全てだと考えられる。他の拠点は私達や先祖達が潰したからな」


 当然のように敵の拠点を潰した事を語るステラに陽は驚きを隠せずにいた。そして同時に疑問も浮かぶ。

 敵の拠点を潰して回れるほどの実力を持ったステラ達が、何故自分の力など借りたいのだろう、と。彼のその疑問は、ステラが次に語った事によって解消される。


「そしてこの3つの塔の中心にある巨大な搭のある街が彼らの本拠地だと睨んでいる。だが、実のところ、私達は攻めあぐねているんだ」


 一呼吸置き、ステラは地図の方を振り返りながら話を続ける。


「その理由は、見えない壁だ」


「見えない壁?」


「あぁ、物理攻撃も魔法での攻撃も通用しない。そしてその壁は周りにある3つの塔から発生しているように見えたんだ」


「じゃあ、先に周りの塔を壊せば、街の中に入れるんじゃないですか?」


「もちろんそうしようと考えた、でも不可能だった。壁を生み出している塔にすら私達の攻撃は通らなかった。そんな状況の中で君と出会った」


 なるほど、と陽は思う。ステラ達の攻撃が効かないもの、それは出会った時に襲って来たロボットも同じだった。

 それを陽はほとんど一撃で破壊してみせたのだ、ステラ達がその力を欲するのは仕方の無い事だった。


「だから君には、壁を生み出している塔を破壊してほしいんだ」


 ステラは陽と視線を合わせて言った。そして目を合わせたまま、人差し指を顔の横に立て、少し笑いながら話を続ける。


「それに、私達が出会った時に襲って来た……君はロボットだと言っていたな。あれとよく似たものを以前潰した三日月の拠点で見た事があるんだ。それには魔法は効いたんだがね」


 ステラが思い出すように語ったその言葉に、陽は驚きと歓喜の声を上げる。ここにきて、初めて自分の状況を解明するための手掛かりになりそうなことが見つかったのだ。


「……!!それって!!」


「あぁ、三日月の拠点を調べると、君について何か分かるかもしれない」


「おぉ!!」


「乗り気になってくれたみたいで嬉しいよ、敵を倒すことはもちろんだが、君の謎についても、解き明かす手伝いが出来ればいいと思っているよ」


 ステラの言葉に、陽は礼を返す。そして、陽がステラ達に協力することによって、三日月との戦いに光明が差した。

 ステラは陽に、作戦会議をするから午後にまたこの部屋に来るように伝え、この場は解散となった。

 陽は謎の解明に一歩近づいたかもしれない事が嬉しくなり、いつもより足取りも軽やかに帰路に就いたのだった。

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