第9話

 翌朝、空がまだ明るくなりかけている時刻に、陽は目を覚ました。彼はまだ重い瞼を手で擦りながら身体を起こし、薄暗い部屋を見渡す。

 夜明け前の空が映る窓、消えたランタンの置かれたテーブルなどが目に入るが、あるはずの何かが視界に入らないことに気付く。

「あれ、あいつが居ない」


 部屋の中には、彼が昨夜眠る前までは居た、ドラゴンの姿が無かった。部屋の出入口を見ると、両開きになっているドアが開いていることに気が付いた。

 外に出たのかと思いながら陽も部屋の扉をくぐる。部屋の外は玄関や他の部屋とつながっている小さなホールのような場所になっており、

 見渡すと玄関の扉が開いている。まだ少し冷たい外の空気を感じながら、陽は玄関へと歩いてゆき、外に出る。


「こんなところに……扉を開けて出たのか?」


 そこには、太陽が昇り始め、朝焼けが広がっている東の空を見つめて座り込んでいるドラゴンが居た。

 ドラゴンは、陽が来たことに気づくと、彼を見た後、大きな欠伸をして眠り始めた。


「おいおい、ここで寝るなよ……」


 かすかに日の光が当たり始めた場所で眠るドラゴンに向かって言葉を投げる。陽は家の中にドラゴンを入れようとするが、全く動く気配はない。

 彼は諦めて、ステラが呼びに来るまで家の中で過ごすことにした。



*


 陽が部屋に戻り、太陽が完全に昇り切った頃、部屋の扉がノックされる。彼が扉を開けると、そこにはステラが立っていた。

 昨日着ていたような鎧とは違い、黒いドレスのような服で、その上からマントを羽織っていた。


「おはよう。昨日はよく眠れたかい?」


「おはようございます。おかげ様で、よく眠れました」


「それは良かった。朝食を持って来たんだ、一緒に食べよう」


 彼女はそう言うと手に持っていたカゴを持ち上げる。中にはパンや飲み物が入っていた。

 2人は椅子に座り、テーブルに置いてあるパンを食べ始める。


「あの、今日は何をするんですか?」


 陽はパンを食べる手を止めて、ステラに尋ねる。


「今日は君に街の中を案内しようと思っている」


「街の中、ですか」


「色々と話すことがあるだろう?そのついでだよ」


「なるほど」


 2人は言葉を交わした後、食べるのを再開する。その後2人は無言で食事を続け、完食する。


「ごちそうさまでした。美味しかったです」


「口に合ったようで良かったよ。そういえば、ドラゴンが外で寝ていたが、あれは何故なんだ?」


 家に入る時に外で眠っているドラゴンを目撃したらしく、ステラが問いかける。


「あぁ、俺が起きた時にはもう外に居たんです。呼びかけても動かなくて」


「そうだったのか。しかし、あの子については何もわからないな」


 納得したような顔をした後、顎に手を当てて考え始める。少し考えた後、彼女は何かを思い出したような顔をして、陽に尋ねる。


「ドラゴンは物語に出てくるような存在だと言っていたな?物語の中では、どのような存在なんだ?」


「はい、俺が見たことのある物だと、火を吐いたり、人を襲ったり……あと空を飛んだりとか、ですかね」


「へぇ、空を……」


 陽の言葉に対して、ステラは興味深そうに返事をする。


「でも、それは全部架空のもので、現実にドラゴンは居ませんでした。なのであいつのことは……」


「謎のまま、というわけか」


 2人の間に沈黙が流れる。家の外で眠っているドラゴンについては、依然として謎のままであった。


「よし!食事も終わったことだし街に出ようか」


 ステラは手を叩きながら少し大きな声を出して言う。彼女はそのまま立ち上がり、カゴと食器を手際よく片付けた後、部屋の出口に向かって歩き始めた。

 陽は置いて行かれないように彼女の後を追ってゆくのだった。

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