第8話
「ステラさん達が住んでいる街……ですか?」
「あぁ、見たところ荷物も何も持っていないようだし、このままこの場所に置いて行くのは良くないと思ってな」
ステラの言葉を聞き、陽は今自身が置かれている状況を整理する。確かに、彼女が言うように彼には行く宛は無く、この場所に関する情報も何も持っていなかった。
彼自身にとっても、それは都合の良い提案だった。疲れもあり、彼はステラの提案をありがたく受け入れることにした。
「はい、ぜひお願いしたいです。とても助かります」
2人は握手を交わした。
「少し離れたところに野営地があるんだ、まずはそこに行って荷物を回収しよう」
ステラはそう言うと周りに声を掛けながら歩き始めた。
*
少し歩くと野営地に到着し、グロムや他の隊員たちがテントなどを解体し、荷物を馬車に積んでゆく。
陽も荷物運びを手伝い、短時間で出発の準備は整った。
「今出発すれば夜までには着くだろう。出よう」
ステラがそう言うと馬車に乗り込んでゆく。陽も荷物用の馬車に乗り込む。
ドラゴンも後ろから馬車の荷台に乗ってくる。
「すいませんねぇ、その子はこの馬車にしか乗れないみたいで。ステラ様達と同じ馬車の方が安心でしょうに」
前に座っている御者が陽に声を掛けてくる。
「いえいえ、乗せて頂けるだけでありがたいですよ!」
彼がそう答えると御者はそれは良かったと言い、馬車を走らせ始めた。
彼は床に座り込み、ドラゴンの方を見る。手を伸ばし、頭を撫でてみる。
他の人から触れられそうになったら激しく威嚇するドラゴンだが、彼が触っても大人しくしていた。
目覚めた後の事を思い出す。死の危険を感じた時、粒子状に分裂し纏わりついてきた事、自然現象のようなものを起こし、巨大なロボットを殴り飛ばすほどの力を発揮した事。
「あれは、お前の力なのか?」
問いかけるが、ドラゴンは彼の方を見つめるだけだった。
その後、何度か休憩を挟みながら馬車は進んでゆき、夕焼けが広がる頃、御者が陽に声を掛けた。
「見えてきましたよ。あれが、マーレの街です」
「おぉ……!すごい!」
陽は馬車の中で立ち上がり、御者と馬の背越しに前を見る。森を抜けた先、草原が広がる平地に出ていた。
そこには大小様々な建物が建ち並ぶ、夕日に照らされた街が見えていた。
街の中には川や畑も見え、中央付近には大きな城のような建物も見えた。
「ん?何だあれ……」
陽が感動しながら街を見ていた時、違和感を覚えた彼は、城の上空に黒いモヤのようなものを見つける。
「すみません、あの城みたいな建物の上にあるモヤみたいなのは何ですか?」
陽はそう指さしながら御者に尋ねると、彼はこう答えた。
「あぁ、あれは神界への門ですよ、我々はあの門から神に祈ったり、貢物を捧げるんですよ」
「神……」
神、そして貢物。最早何でもありだな、と陽は思っていると、石で舗装された道を通り、馬車は街の中へと入ってゆく。
そして街の中を少し進んだところで、広場のようになっている場所に停車した。
「着きましたよ、降りましょうか」
陽は御者の言葉に頷き、ドラゴンと共に場所を降りる。そして、ステラがいる場所へ歩いて行った。
彼女は隊員達に指示を出したりしていたが、陽が近付いて来たことに気が付くと彼の方へ顔を向け、声を掛ける。
「ヨウ、長旅で疲れただろう?お互い分からない事だらけだと思うが、また明日、ゆっくりと話そう」
と、言った後、広場に面した大きな1軒の家を指さしながら話を続ける。
「ひとまずはあの家を使って欲しい、必要な物は揃っているし、後ほど食事も持って行って貰うから、ゆっくり休んでくれ」
「はい、色々と助けて貰って、ありがとうございます!」
「それじゃあ、また明日呼びに行くよ」
陽はステラと別れの挨拶を済ませた後、ドラゴンと一緒に、使ってくれと言われた家に入り、ゆっくりと休んだ。
*
マーレの街の中心、城の廊下にある窓から、ステラは険しい表情で頭上に浮かぶ、黒いモヤを見ていた。
そこへ、後ろからやって来たグロムが声を掛ける。
「ステラ、良かったのか?あんな得体の知らない奴招き入れて」
話し掛けられた彼女は険しい表情を止め、グロムの方を振り返る。
「あぁ、いいんだ。それに、グロムも見ただろう?あの凄まじい力を。彼はもしかすると、私達の力になってくれるかもしれない」
彼女は陽と出会った時の事を思い出しながらそう言って、広場の方を見る。月明かりが、彼女の顔を照らしていた。
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