第6話
轟音を響かせながら、黒い塊は部屋の奥の壁へと激突し、動かなくなる。壁に衝突する衝撃で、部屋が大きく揺れる。
「おお!?」
陽は、自分がしたことに理解が追い付かず、驚きの声を上げた。身体の力が抜け、そのままドサリと地面に落下する。
鉄の塊を殴り飛ばしたにもかかわらず、彼は身体に少しの痛みすら感じていなかった。彼は腕を床に突いて顔を上げ、部屋の奥を見る。
「機械……ロボットなのか?」
陽が殴り飛ばした人型の黒い塊は、胴体部分に大きく亀裂が走り、その中から切れた電線のようなものが飛び出し、端から火花を散らしていた。
彼はそれを殴り飛ばした時に感じた固い感触と合わせて、薄々気付いてはいたが、それを生物ではなく、ロボットのようなものだと判断する。
それを見ながら呆然と立ち尽くしている彼に、ステラが駆け寄ってくる。
「ヨウ、なのか? その姿は一体……」
「はい、でも俺も何が何だかわからなくて……」
自分の手を見ながら陽はそう答えた。彼の全身を覆っている鱗のようなものは、手足には鋭い爪が、背中には翼のようなものを形作り、頭部からは角が後ろ向きに生え、眼の部分が青く発光していた。全身を覆う鱗のようなそれは、鎧のようにも見えた。
「しかし驚いた、私達の攻撃が全く通用していなかった相手を倒すとは」
陽に顔を近づけてステラが言う。彼は何故か照れ臭くなり、避けるように一歩後ろに下がってしまう。
そしてその時、手の先から鱗が剥がれてゆき、光る粒子となって散ってゆく。その粒子は彼の足元に集合し、何かを形作っている。
やがてそれは、黒い鱗を持ったドラゴンの姿を形成した。完全に元の姿に戻ったそれは、青い眼で陽の顔をじっと見つめていた。
ロボットやドラゴン、そして自分とは少し違った身体の特徴を持った人達、ファンタジーやSFの世界のような光景を目にして、陽は幻覚でも見ているのかと内心呟いていた。
と、その時、再び建物が大きく揺れ、2人は大きくよろめいた。陽は揺れに対して、またあのロボットが出て来るかもしれないと思い慌てふためく。
揺れの正体は、ロボットが這い出てきた亀裂と、壁に叩きつけられた衝撃によって、建物が崩れかける事によって起こっているものだった。
「此処に居ては危険かもしれない、外に出よう」
それを直感的に感じ取ったステラがそう呼び掛ける。
「グロム、立てるか!?ここから脱出しよう!」
「イテテ、お、おう……何とかな」
2人は弾き飛ばされていたグロムへと駆け寄り、その安否を確認する。身体にダメージがあり、苦痛に顔を歪めてはいるが、動くのは問題無いといった様子だった。立ち上がり、身体の調子を確かめている。
「亀裂を飛び越える。ヨウとその生物を抱えて飛べるか?」
返事よりも先に、グロムは陽の身体を持ち上げ、そのまま彼を小脇に抱える。持ち上げられた彼は驚いて声を出すが、グロムはそれを無視してドラゴンへと向き直り、腹の下に手を入れて持ち上げようと試みる。
「おわっ!こいつ、見かけによらず軽いじゃねぇか……」
グロムは、ドラゴンのその見た目からかなりの重さがあるだろうと予想し、持ち上げるときにかなりの力を込めたが、逆にドラゴンの体重が軽すぎて力が行き場所を失い少しよろけてしまう。
「グロム!急ぐんだ!」
体勢を立て直しているグロムにステラが声を飛ばす。2人は走って部屋の出口へと向かい、ロボットが這い出してきた巨大な亀裂を飛び越える。
跳躍したグロムが亀裂の上を通り過ぎる時、その脇に抱えられている陽は、必然的に亀裂の中を見る事になる。彼が目にしたのは、亀裂の先に広がる暗い通路のようなものだった。
2人は亀裂を飛び越えた勢いのまま、その先の階段を全速力で駆け上がってゆく。階段を上り切った先に、微かな光が見える。2人は階段から部屋の中へと飛び出した。
「あ!2人共大丈夫!?さっきから凄い音したり揺れたりしてるけどどうなってるの!?ってなんか知らない人と変な生き物抱えてるし!!」
そこには今の状況が理解出来ていないような顔をしたギブリが待機しており、階段を登ってきたステラ達を見ると更に困惑した表情を強めて声を荒げる。
「ギブリ!此処は崩れるかもしれない!他の隊員たちは?」
「危ないかもと思って外に避難させたよ!」
「いい判断だ、私達も早く脱出しよう!」
3人は部屋を出て建物内を駆け抜け、その外へと飛び出す。外には先に建物から離脱していた隊員達が心配そうにしながら待機していた。
走った3人は乱れた息を整える。するとその後ろから大きな音が鳴り響く。彼らが振り返ると、砂埃を巻き上げながら崩れ去ってゆく建物が目に入った。
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