第4話
小さな炎に照らされた薄暗い部屋の中に、陽の傍に居る生物から発せられる低いうなり声が響き渡る。
陽はその生物を見て、記憶にあるトカゲの姿によく似ていたように思えた。そしてその生物はステラ達を睨みながら前に出る。
「い、いきなりどうして!?」
彼は先程までは大人しくしていたこの生物が突然威嚇行動を取った事に驚く。
ステラは威嚇され、その生物を刺激しないように注意しながら、まるでそれに庇われるように少し後ろに立っている陽へと言葉を投げる。
「ヨウ、この生物は君が連れていたのではないのか?」
「い、いえ……こいつが何なのか、全く分からないです。それに、この場所も……昨日は部屋で寝たはずなのに……」
陽の回答に、ステラはどうしたものかと自分を威嚇する生物を観察する。すると彼女は、自分達を睨みつけている生物が、時折軽く後ろを振り返り彼へと視線を向けている事に気が付いた。
「ヨウ、この生物は君の事を守ろうとしているみたいだ。私達が君に危害を加える気が無い事を伝えられれば、大人しくなるかもしれない」
ステラの言葉を聞き、彼はステラから生物へと視線を戻す。青い瞳と視線が交差した。そこに敵意は存在せず、この生物は自分から、何か言葉を掛けられるのを待っているのかと彼は考えた。
彼は恐る恐るその生物に近づき、黒い鱗で覆われた背中に手を置いた。固い感触が掌から伝わる。彼はそれと目を合わせ、ゆっくりと語り掛ける。
「お、俺なら大丈夫だから、今は大人しくしててくれ……!」
彼がそう告げると、その生物は大人しくなり、彼の脇へと戻ってゆく。彼の言った言葉が理解出来ているかのような行動だった。
「この生物は君の言葉が分かるのかもしれないな」
大人しくなり、威嚇する様子も全く無くなったのを見て、ステラが感心したように呟いた。
「しっかしスゲェなコイツ、こんな生き物は初めて見たぞ」
グロムの呟きに、陽は確かにそうだと思い、自身を見つめている巨大なトカゲのような生物を詳しく観察してみる。
全身を覆う黒い鱗、鋭い爪、全長の半分ほどを占めている長い尾。そこまではまだ良かった、しかし、口元から見える鋭い牙、頭頂部から後ろに向かって伸びている少し歪曲した2本の角、背中に折りたたまれた翼のようなもの。
もう一度詳しく観察してみると、彼からはどう見てもトカゲには見えなかった。
「これじゃあまるで……」
「まるで?」
陽の呟きにステラが反応する。
彼は、以前プレイしていたようなゲームや、読んでいた漫画などを思い出していた。目の前に居る生物と酷似したものが、それらの中に存在していたからだ。
彼は、その名前を口にする。
「まるで、ドラゴンみたいだ」
ドラゴン。伝承から生まれ、時代が進むにつれて様々な形へと派生していったとされる怪物。それと似た生物が、青い瞳で陽を見つめながら静かに佇んでいた。
「ほう、ドラゴン、か」
「ステラ、知ってんのか?」
納得したような表情になるステラ。その顔を見てグロムが質問する。もしかすると何か知っているのかもしれない、と陽も考えて彼女の方を見た。
「いや、ドラゴンなどという言葉は聞いたことがないな」
「無いのかよ!!」
自慢げに答えるステラをグロムが怒鳴る。陽も愛想笑いをした。
「いやすまない。それはさておき、ヨウ」
彼女は真面目な顔に戻り、陽に向き直る。
「これは一番初めにすべき質問だったんだが」
「は、はい、なんですか?」
「君は何故、この部屋で、そのドラゴンとやらと一緒に眠っていたんだ?」
彼がそれは俺も知りたいですと、答えようとした瞬間にそれは起こった。
突如、炎の明かりだけで薄暗かった部屋が、昼間のように明るくなり、警報のような音が鳴り響いた。
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