第2話
木々が生い茂る森の中、かすかに残る獣道の先、わざと深く入り込まなければ辿り着けないような場所にその朽ちた建物はあった。
レンガでできている壁には火災によって刻み込まれたような傷跡があり、崩れている箇所もある。
崩れた箇所から建物の内側に光が差し込んでいる。その光の先、蜘蛛の巣が張り巡らされ、長い年月をかけて朽ち果てたような景色の中で、いくつもの足音や、何かを話している声が聞こえる。
その薄暗い建物の中では、鉄の鎧を身に着けた、兵士のような装いの者たちが忙しなく動き回っていた。
「おーいステラ、何か見つかったか?」
その中の1人、赤髪の大男が、少し離れた場所にいる、ステラと呼ばれた、銀色の髪を頭の後ろで1本に括り上げている少女に話しかける。
「グロムか、何も見つからないな。そっちはどうだ?」
「こっちも同じだ、何もない」
グロムと呼ばれた大男がため息を吐きながらそう答えた。
「しかしここは一体何なんだ?ボロボロだし、三日月の奴らがいるわけでもねぇしよ」
グロムが建物内を見回しながら、「暗くて転びそうだ」と悪態を着く。
「このような場所は始めて見る。過去に何かがあったことは間違い無いんだ、何か残っていないかくまなく探そう」
ステラ達は、森の奥地で新たに発見された謎の建造物の調査に、総勢10名ほど調査隊を連れて訪れていた。
「ステラ様!グロム様!奥の部屋でギブリ様が隠し階段と思われるものを発見されました!」
隊員の1人が、彼女達に駆け寄って、建物の奥を指さしながら報告する。2人は顔を見合わせ頷き、隊員が指さしたほうへ進む。
入口の大きな部屋から、奥へと少し狭い通路を通った先にその部屋はあるようだ。ステラが部屋から漏れる明かりに気づく。
誰かが魔法で照らしているようだと彼女は考える。
部屋に入った彼女達の方へ黄緑色の髪をした少女が駆け寄ってくる。
「ステラ!地下への入口みたいなの見つけたよ?ねぇ、アタシってすごい?」
「あぁ、よくやったぞギブリ」
ツインテールを揺らし、得意げな顔をしながらギブリと呼ばれた少女が質問を投げ、それにステラが答える。彼女は答えを聞くと嬉しそうに笑い部屋の中を飛び跳ねていた。
隊員の1人の手の上に炎が揺れている。その炎に照らされた部屋の中央を見ると、床板が外され、そこには大きな穴が開いていた。穴の中には下へと伸びる階段が見える。
「これがその階段だな?」
隊員から肯定の返事を聞くと、ステラはグロムの方を見る。
「グロム、私達2人で下に降りてみよう」
「おう」
暗く、先の様子が全く見る事の出来ない階段に、ステラとグロムの2人は降りる事になった。
「よし、じゃあギブリ、私達が下に降りている間、他に何かないか、建物内の調査を進めておいてくれ」
「はーい!まかせてー」
ステラは指示を出し、グロムと共に階段を降りる。階段を何段も降りた先に、大きな扉が出現する。
「扉か」
ステラは、何度も力いっぱい扉を押したり引いたりしてみたが、扉は全く動く気配がなかった。
「ぐっ、ダメだ開かない……」
少し息を切らしながらグロムに向かって呟く
「よし、ステラ、扉から離れろ」
そう言うと、彼は息を大きく吸い込み腕を振り上げる。振り上げた彼の腕に、青白い光を放つ電流が迸る。
「な!?グロム、何をするつ……」
「オラァ!!」
ステラが何かを叫び終わる前に、激しい光と轟音と共に扉が吹き飛ばされる。グロムが扉を殴ったのだ。
彼女はは溜め息をつきながら「流石の威力だな」と彼へと皮肉を漏らす。
「へっ!槍を使わなくてもこれくらい余裕だぜ!」
調子に乗る彼を無視して、ステラは部屋の中へと入っていく。部屋は、その大きな入口の扉から想像出来るようにかなり大きな造りになっていた。
部屋の広さは感覚で分かるものの、中は光が無く、先の様子が全く見えなかった。ステラは息を軽く吸い込み、掌を上に向ける。彼女の手の上に小さな音と共に炎が灯った。
その炎に照らされ、真っ暗だった部屋の中が少しずつ見えるようになっていく。そして2人は、部屋の中心にある何かを見つける。
「あれは……人?と」
「なんだありゃあ?」
2人の目に飛び込んできたのは、安らかな顔で眠っている赤茶色の髪をした青年と、それに寄り添って眠る、2人が見た事も無い姿をした生物であった。
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