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こうして創立五十周年記念誌制作プロジェクトが発足した。記念誌のタイトルは「緑樹」。OBのさるお偉いさんが名付けたのそうだ。ま、可もなく不可もなし、というところか。
編集委員のメンバーは、この俺、安井正明。以上。
編集長にして唯一の編集委員だ。いや、俺も手伝ってくれそうな人間を探したんだが……俺の親しい同級生はみな都会の大学に進学しており、そこで就職してしまっている。地元に残っている数少ない知り合いも、忙しくて手伝ってくれそうにない。
俺はまだ1年目なので、校内に手伝いをお願いできるほど親しい人がいない。一人だけ、俺が在校していた当時にもいた先生が残っているが……定年間近のおじいちゃんで、とても手伝いをお願いできるような感じじゃない。そもそも、先生方はみな忙しすぎる。こんなタダ働きができるような余裕は誰にもないのだ。だから俺に話が来たわけだが。
愚痴っていてもしょうがない。早速俺は行動を開始した。とりあえずは原稿を集めなくてはならないが、執筆者のリストは既に出来上がっていた。後はそこに書いてあるメールアドレスに直接執筆要領とテンプレートを送ればいい。
しかし。
メールアドレスの記述がない人が、10人くらいいる。この人たちに対してはどうすればいいのか。俺は校長室に向かった。
「ああ、その方たちはパソコンとか使えないので、手書きの原稿を郵送されるそうです」
校長は至極あっさりと言い放つ。
な、なんだってー!
「ちょっと待ってくださいよ! それ、誰がデータ起こしするんですか?」
「……」
微笑みながら、校長は無言で俺を見つめる。
「……やっぱ、僕ですか」
こくり。
「……」
俺ががっくりと肩を落としたのを見て、校長はまたもなだめるような表情で優しく言う。
「大丈夫ですよ。たかだか10人くらいじゃないですか。それに、手書きで送ってこられる方たちには、早めの〆切を設定すればいいだけです」
声色は優しいが、この人の言葉には無言のプレッシャーがある。やはり逆らえない。
だけど、確かに10人くらいなら何とかなるだろう。それよりも、まずはテンプレートを作成しなくては。俺は物理教員室に戻り、自分のノートPCに向かった。組版はMicrosoft Wordでやることにする。今回の要件ならそれで十分だ。
俺は速攻でテンプレートを作り上げ、Bccにメールアドレスのリストを流し込んで一気に執筆者達に送信する。これで後は原稿が届くのを待つだけだ。その間に沿革や名簿の組版をやらなくては。これもデータがあるのでそんなに難しいことではなかった。しかし、俺がしなければならないのはそれだけじゃない。授業と校務。本来の俺の業務だ。さすがにこれらを蔑ろにはできなかった。
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