エピソード 4ー2 俺と異世界姉妹の自重しない物語
そうしてやって来たのは結婚式当日。俺達の人生の節目となるその日は、未来を祝してくれているかのような晴天。ミューレの街は、朝早くから賑わっていた。
そして、王都や各領地から、俺達の門出を祝うために、続々と人々が集まってくる。俺と関わりのあった人達はもちろん、俺の知らない人達もたくさん集まってくる。
そんな中、一台の馬車が式場の前に到着。ソフィアの兄で、スフィール家の現当主であるエリックさんが姿を現した。
「エリックさん、本日はご多忙の折、ご足労いただきまして、ありがとうございます」
「いや、恩人でもあるリオンくんと、我が妹のお祝いに駆けつけるのは当然だ」
「……ありがとうございます」
もともとは、ソフィアと俺が結婚して、両家の関係を強化するという話から始まった。
俺がソフィアだけではなく、三人の女の子と結婚することになにか言われるかもと思ったんだけど……受け入れてくれたみたいだ。
「しかし……あの他人を恐れていたソフィアが、なぁ。今や多くの者達と一緒に過ごしていると考えると、実に感慨深いものだ」
「そう、ですね……」
初めて会ったときは引っ込み思案で、人見知りをする女の子だった。それが……いつの間にか、明るくて可愛い、戦闘狂の女の子に……どうしてこうなった。
そんなソフィアを好きになったのだから、問題はないのだけれど……本当に、どうしてこうなったと思わずにはいられない。
「ところでリオンくん。実は身内を一人、式の見学をさせたいのだが……」
エリックさんが馬車に視線を向けて言葉を濁す。
それで、俺はその相手が誰か察した。今は病気にて離れに幽閉されている――という設定の身内。エリックやソフィアの母、エリーゼさんだろう。
以前――と過去の話にするにはあまりにも深い確執があったため、この祝いの場に連れ出しても良いかと聞いているのだ。
でも――
「かまいませんよ。ソフィアがきっと喜びます」
俺の父や、義理の母。それに腹違いの兄。多くの人間が彼女達に殺された。
だけど――死者は悲しまない。
いや、もしかしたら、悲しむのかもしれないけれど――生きているソフィアは確実に、喜びも、悲しみもする。もちろん、それは俺やクレアねぇにも当てはまるのだけど、俺達は揃って、可愛い妹には甘い――と、そういうことだ。
「……リオンさん、感謝いたします。それと、娘をよろしくお願いします」
馬車から、ぽつりとそんな声が聞こえたような気がした。けれど、それをたしかめることは出来なかった。街の大通りから歓声が上がったからだ。
見れば、街の大通りを通って、こちらに馬車が走ってくるところだった。
けど、それはただの馬車ではない。街のど真ん中に敷かれた鉄のレールの上を走っている。今日、この日に合わせて開通した、鉄道馬車である。
鉄道馬車は、そのまわりに煌びやかな騎兵を従えて、悠々と式場の前で止まった。
降りてくるのは、リゼルヘイムの王族。アルベルト殿下にノエル姫殿下だ。俺は慌てて駆け寄り、彼らを出迎える。
「本日はご多忙の折、ご足労いただきまして、ありがとうございます」
「そのような堅苦しい挨拶はいらん。お前とは家族のようなものだからな」
お迎えの言葉は、アルベルト殿下に一蹴されてしまった。けど、そう言ってくれるのならありがたい。少しだけ、俺は緊張を解いた。
「しかし、ずいぶんとお早いお付きで。まだ、わりと時間はありますよ?」
「鉄道馬車が思ったよりも優秀でな。少し早く着きすぎてしまったようだ」
「……そうですか」
鉄道馬車が優秀なのは事実だけど、それでもリゼルヘイムから一日で着くわけじゃない。道中でペースが分かっているはずなので、それが理由なのはちょっと引っかかる。
「アルベルトお兄様、素直にリオンの新しい屋敷を見たいと言えば良いじゃありませんか」
「おい、ノエルっ」
アルベルト殿下が慌てたように制するが、既に聞いてしまった後だった。なるほど。最新技術って聞けば、それは気になるよなぁと、ニヤニヤしていたら怒られた。
二人の案内はリズ達に任せて、俺は次々にやってくる者達と挨拶を交わしていく。そんな中、グランプ侯爵の紋章を掲げた鉄道馬車が到着した。
「ようこそいらっしゃいました、グランプ侯爵」
「おい、リオン……?」
「冗談です、お義父さん」
「なんだ、照れ隠しか」
バレバレである。
「ところで、リオン。今は時間があるか?」
「えっと……」
出迎えをする必要はあるのだけど、主要な人達は既に挨拶を得ている。シスターズのみんなも頑張ってくれてるし、残りの人達には結婚式の後で挨拶しても問題はないだろう。
「少しなら大丈夫ですが、なんでしょう?」
「いやなに、お前が新しく建てたという屋敷を見せてもらいたくてな」
「あぁ……そういうことですか。分かりました」
新しい物好き筆頭。今にして思えば、俺と良く似ている気がする。とまあそんなわけで、俺はお義父さんに新しいお屋敷の案内をした。
その後、アカネとセルジオの結婚式が始まり、多くの参加者達に祝われていた。
アカネはミューレの街で商売を始め、その頂点にまで上り詰めた。だけど、俺の理念を理解して、他の商会にも多くの仕事を回していたからだろう。
驚くほど、色々な方面から祝福を受けている。
よく考えると……前世と今世を合わせても、俺の友人が結婚するのはこれが初めてだ。なかなかに感慨深い……って思ったけど、ミシェルはどうなったんだろうか?
一回りは軽く年の離れた教え子と結ばれたはずだけど……と、ミシェルを捕まえて尋ねると、式は身内だけで式を挙げて、既にお腹の中には子供もいるという。
いつの間に……と言うか、俺、結婚式に呼ばれてないんですけど! って思ったら、俺がザッカニア帝国に行っていたあいだの話らしい。……残念。
ともあれ、他人のことにばっかり気をとられてもいられない。そろそろ自分の結婚式の準備をしなければ――と、俺は会場に向かった。ちなみに、女の子達の準備はなにかと時間が掛かる――と言うことで、わりと前の時間から開場入りを果たしている。
身重なアリスが少し心配だけど、クレアねぇやソフィア、それに使用人が何人かついてくれているので大丈夫だろう。
俺は自分のために用意された部屋で、アリスブランドに用意してもらったタキシードを着用、結婚式が始まる少し前になってアリス達の様子を見に行くことにした。
「……はい、どちら様でしょう? あら、リオン様」
出迎えてくれたのは――マリー。懐かしすぎて忘れている人も多いと思うけど、俺が離れで幽閉されていた頃、ミリィ母さんの後釜として俺の世話係をしていた無口なメイドである。
その後は、リズの世話係やらなんやらしているんだけど……どうやら今日は、アリス達の世話係を引き受けてくれているみたいだ。
ちなみに、マリーは最近になってようやく、俺とも口を利いてくれるようになった。あっちこっち見境なく手を出す鬼畜ではなく、ちゃんと誠意を持ってあっちこっちに手を出す鬼畜だと分かりましたので――とは、マリーのセリフである。
まあ……否定は出来ない。
「アリス達に会いたいんだけど……今は大丈夫か?」
「ええ、着付けも終わっているので、問題ありませんよ。どうぞ、お入りください」
「ありがとう」
マリーにお礼を言って、彼女達の控え室へと足を踏み入れる。そこには……純白のドレスに身を包む、三人の美しい女性がいた。
純白のドレスを身に纏うアリスに、金糸の刺繍を施された純白のドレスを身に纏うクレアねぇ。そして、銀糸の刺繍を施された純白のドレスを身に纏うソフィア。
三人が三様に美しい。俺は思わず息をするのも忘れて見とれてしまった。そして、そんな俺に気付いた三人が、俺の名前を呼んで小走りに駆け寄ってくる。
「三人とも綺麗だよ」
俺がぽつりと呟くと、三人はぽっと頬を染めた。なんと言うか……新鮮で可愛いな。思わず抱きしめたくなってしまう。
前世の妹に、今世の姉。
そして、義妹であり、俺の父を殺したスフィール家の娘。
関係だけを並べると、どうしてこうなったと言わざるを得ない。
だけど、後悔はない。欠片もない。最初は流されていただけだったけど、今の俺は望んでこの場所にいる。だから、胸を張って言うことが出来る。
前世では決して手に入れられなかった幸せな日々を、俺は手に入れたのだと。
だから、今日、この瞬間が裕弥としての俺のゴール。
そして……ここからが、リオンである俺にとってのスタートライン。
俺と、みんなの、誰も自重しない日々が始まる。
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