エピソード 4ー1 友人達の行く末

 アリス達との式を挙げると決めてから三ヶ月。そして、式を数日後に控えたその日、俺達の新しいお屋敷が完成した。

 そのあらたな屋敷を、俺とアリスとクレアねぇとソフィアの四人で見て回っていた。


「ここが、あたし達と弟くんの愛の巣なのね」

「愛の巣って言うな」

「あら、でも、この部屋は……そうでしょ?」

 クレアねぇが部屋の内装を見てそんな風にいう。


「まあ……否定はしないけど」

 ここは、俺達の部屋。四人が余裕で寝られるキングサイズのベッドが設置されており、部屋の隅には足湯やお風呂まで揃えられている。

 なお、部屋には最新式の紋様魔術が使用されており、空調も完璧だ。お風呂や足湯が部屋にあっても、室温や湿度は快適なレベルに保たれている。

 もちろん、上下水道も完備で、照明も紋様魔術が使われている。今までと比べものにならないほど快適な暮らしが出来るだろう。


「自分で作っておいてなんだけど、さすがに自重しなさすぎだったかな?」

 アリスはちょっぴりやりすぎに感じているらしい。いままで散々革命を起こしてきたのにいまさらだと思う。それとも、そんなアリスがそう思うほど、自重のない部屋だということか。

 ……そうかもしれない。だけど――

「良いんじゃないか? 今までずっと頑張ってきたんだ」

「そう、だね。色々と大変だったもんね」

 アリスは感慨深そうだ。グランシェス家で大変だった日々に加えて、アリスはそれまでにもあれこれ苦労してたみたいだしな。感動もひとしおなんだろう。


「ねぇねぇ、リオンお兄ちゃん。えっと……聞いても良いかな?」

 ソフィアがもじもじとしている。

 最初に出会った頃は引っ込み思案で、今みたいな表情を見せることもを多かったけど、最近はずっと自信を持って行動している。こんな風なソフィアは久しぶりに見た。

「なにを聞きたいんだ?」

「えっと、ね。この部屋って、ソフィア達四人で寝るための部屋、なんだよね?」

「そうだな。それぞれの部屋も用意してあるから、毎日って訳じゃないと思うけど、一緒に寝る機会は増えると思う」

「だよね。それはつまり、その……四人で、エッチなこと、するの?」

「――ぶっ!?」


 想像もしていなかった――とは言わない。必ずしもそういう行為に走るつもりはないけれど、部屋にお風呂があるのはそういう意味だって含まれている。

 けれど、だからこそ、知識と追体験による経験も豊富なソフィアが、そんな風にもじもじとした態度で聞いてくると思わなくて驚いたのだ。

「えっと……どうしてそんなことを聞くんだ?」

「え? それは、その……えっとぉ……」

 もじもじするソフィアが可愛い……けど、なぜそんな風になってるんだろうか。助けを求めてクレアねぇを見ると、なぜかソフィア以上に真っ赤になっていた。


 ……ホントになんだろう? なんて思っていたら、アリスが俺の袖を引っ張ってきた。

「……なんだ?」

 部屋に並んで四人という状況なので、耳打ちもない気はするのだけど……アリスに手招きされたので耳を寄せる。

「ソフィアちゃんは照れてるんだよ」

「……照れる?」

 アリスと俺の行為を追体験していたソフィアが? いまさら? なんて思っていたら、アリスに耳を引っ張られた。


「あのね、追体験していたとは言え、ソフィアちゃん自体は無垢なままだったでしょ? それに、追体験は私とリオンの行為だけ。初めてが三人で刺激が強かったんだよ」

「おぉ……なるほど」

 たしかに、俺もいつもとは違うあれこれに、色々と衝撃を受けた。経験豊富なお姉ちゃんぶってる乙女ねぇはもちろん、追体験だけ豊富だったソフィアも衝撃だった訳か。

 ……そう考えて二人を見ると、うん。なかなかに興奮する。


「~~~っ。リオンお兄ちゃんが、ソフィア達を見てエッチなこと考えてるよぅ」

 恩恵の力で俺の心を読んだんだろう。ソフィアは顔を真っ赤にして、クレアねぇの後ろに隠れてしまった。顔だけ出して、コッソリ俺の様子をうかがっている姿が可愛い。

 そしてクレアねぇも、俺達のやりとりが聞こえていたんだろう。両腕をスカートの前で合わせて、もじもじと身体を揺すっている。

 豊かな胸が両腕に揺すられて……うん、なかなかに眼福である。

 なんか興奮してきたけど――と、アリスを見る。身重なアリスは参加できないだろうし、かといって横で見てろなんて鬼畜なことは言えない。

 今回はお預けだな。そう思ったのだけど――


「じゃーん、これ、なーんだ」

 アリスが取り出して見せたのは……ゴム? もしかして――通称でもゴムなアレ?

「どうしたんだ、それ」

「もちろん、作ったんだよ」

「いや、それはまぁ、そうだろうけど」

 この世界、色々と技術津革命が起きて、俺達が関わっていない新技術も生まれつつあるけれど、さすがにそんな薄いゴムを作る人は現れないだろう。たぶん。

 なので、俺が聞いているのは、どうしてそんな物を作ったのかと言うことだ。


「あのね。だいたい5~6ヶ月から安定期だから、そろそろ大丈夫な時期なんだよ。でも、あれには陣痛を促進させるのに似た成分が含まれてたりするし、雑菌を防ぐって意味もあるから、ゴムをした方が良いって知識を思い出したの」

「……そうなのか」

 前世で亡くなったときはまだ中学生だったアリスが、なんでそんな知識を……って言うのはいまさらだな。俺は知らなかったけど、アリスが言うのならそうなんだろう。

 しかし……そうか。可能なのか。……ふむ。




 ――という訳で、一刻ほど過ぎた後。俺達は新しいお屋敷にある足湯メイド食堂にやって来た。ソフィアやクレアねぇがのぼせてしまったので、冷たい飲み物を飲みに来たのだ。

 ちなみに、のぼせたのはお風呂に入ったからである。……たぶん。


「お帰りなさい、リオンお兄様方。ご注文はなににいたしますか?」

 グランシェス家のメイド――ではなく、メイド服姿のリズがなぜか注文を取りに来た。

「……リズ、どうしたんだ?」

「紋様魔術冷蔵庫が実用化されて、わたくしのお仕事が減ったので、新しいバイトですわ」

「新しいバイト……?」

「ええ。わたくしも晴れて、リオンお兄様の妾になりましたから。どうせなら、このお屋敷の食堂で働かせていただこうと思いまして」

「……別に良いけど」

 リズはこの国のお姫様で、民から絶大な支持を得ている歌姫。でもって、今ではこの国で一番豊かなグランシェス家当主のお妾さん。

 なぜ食堂でバイトなんて――と思ったら、メニューを手渡された。そこには、前のお屋敷にあったメニューに加えて、メイドによる足湯でご奉仕コースなどが書かれていた。


「……これは?」

「リオン様限定のコースですわ。シスターズであれば、誰でもご指名していただけます」

「……なるほど」

 俺限定という時点ではまさかと思ったけど、指名相手がシスターズだけと聞いて確信した。俺が以前、他領の視察に行ったとき、うちの足湯メイドカフェを模倣したメイドカフェがおこなっていた、特別メニューと同じタイプである。


 あのときは、ミューレの街のメイドカフェでも、姉妹ハーレム伯爵がしていると言われて、そんなことはしてないとキレたんだけど……

 うん、まぁ……ここはお店じゃないしな。注文するかどうかはともかく、取り敢えずとやかく言わなくても良いだろう、うん。


「ところで、リズの部屋はどうだ? なにか足りないものとかはないか?」

「ありがとうございます。おかげさまでとても快適ですわ。他の皆さんも、凄くこの家が気に入ったみたいで、どんどん引っ越しを始めています」

「そっか……それなら安心だな」

 王族のリズが満足できているのなら、他のみんなも大丈夫だろう。

 ――という訳で、俺達は五人分のアイスクリームを注文。リズを加えて、五人で世間話に花を咲かせているとほどなく、アカネとセルジオが訪ねてきたと連絡が入った。



「アカネとセルジオが? そうだな……なら、応接間に通してくれ」

 メイドに伝言を頼み、俺はみんなに視線を向ける。

「そんな訳だから、少し話を聞いてくる。そうだな……クレアねぇ、付いてきてくれ」

 なんの話かは分からないけど、大所帯で話を聞くわけにもいかない。なので、なんの話でも対応できそうなクレアねぇを連れて行くことにする。



 そうしてやって来た応接間――に広がる独特の空気。それに気付いた俺は、クレアねぇだけじゃなくて、みんなを連れてきても大丈夫だったな、なんて思った。

 アカネとセルジオの距離が、今までよりぐっと近い。いわゆるパーソナルスペースが三十センチほど。恋人達の距離にまで入り込んでいるのだ。


「今日は、にーさんに頼みがあってきたんや。じつは、にーさん達の結婚式の前に……」

「良いよ。二人の結婚式を挙げたいって言うんだろ?」

「なっ、なんでわかるん!?」

 アカネが目を見開いて俺を見た。そんなアカネを見て、俺は思わず笑ってしまう。


「ちょっと、どうして笑うんよ」

「すまんすまん。ただ、初めて会ったときのことを思いだしてな」

 ミューレ学園の入学式。平民の子供として潜り込んでいた俺は、アカネに貴族だと看破されて驚いた。あのときはバレバレだってアカネに言われたけど……


「今の二人を見てると、あのときの俺以上に分かりやすいって思ってな」

「そ、そんなに分かりやすいか?」

「まあ、相談を受けたから、かもしれないけどな」

 そうじゃなかったら、すぐに確信は出来なかったかもしれない。けどまぁ……今の二人が思い合っているのは一目瞭然だ。


「リオンさん、僕達がリオン様達の前座として結婚式を行いたいと言ってるのは……」

「分かってるよ。グランシェス家とアカネ商会が蜜月関係にあるんだって内外に示したいんだろ? 別にかまわないよ。なぁ、クレアねぇ」

 俺は頷き、隣の席に座っているクレアねぇに同意を求める。これが俺の独断ではないと、アカネたちに安心してもらうためである。


「ええ、もちろんかまわないわ。その方が式も盛り上がると思うし、蜜月関係にあるのは事実。そして、アカネたちにはこれからも協力してもらいたいからね」

「クレア様……」

「弟くんをにーさんと呼ぶのだから、あたしのことはねーさんで良いわよ」

「それは、ちょっと恐れ多いというか……なんというか。せやけど、そのお気持ちはありがたく頂いておきます」

 クレアねぇはちょっぴり残念そうだけど、無理もないと思う。

 バレバレとはいえ、俺は平民としてアカネと接していた時期があるけど、クレアねぇは最初から貴族で、学園の理事長だったからな。


「なにはともあれ、二人とも結婚おめでとう」

 とまぁ、互いの幸福を祝いあい、その後は結婚式の段取りを決めて解散となった。



「……しかし、あの二人が結婚するとはなぁ」

 アカネとセルジオが退出して、二人っきりになった応接間。俺は二人が出て行った扉を見つめながら、ぽつりとそんなことを呟いた。


「あら、弟くんには意外だったの? あたしは、順当だと思ったのだけど」

「いや、二人はお似合いだと思ってるよ。ただなんとなく、アカネはトレバーとくっつくと思ってたから、さ」

「あぁ、あの二人、ミューレ学園では仲が良かったものね。ただ、その後は何度か商談で会う程度で、特に交流もなかったみたいだから」

「それもそうか……」

 あれからもう何年も経っている。お互いの関係が変わるのも無理はない、か。

 むしろ、変わらない俺達が珍しいのだろう。小さな時からずっと一緒にいてくれる、クレアねぇ達みんなに感謝だ――なんて感傷に浸っていたから、


「それにトレバーは最近、姉や妹に追いかけ回されてるそうよ」


 言われた言葉の意味が理解できなかった。

「……はい?」

「だから、ね。トレバーの姉と、妹に、わたくしと一緒にレリック領を統治いたしましょうって、追いかけ回されているの」

「あ、あぁ……当主に推されてるのか」

 トレバーは次男で、次期当主は兄が引き継ぐはずだったのだけれど、俺に評価されたことで、その株が上昇して次期当主になる可能性が出てきたと言うことだろう。

 トレバー自身は、当主になるつもりはなさそうだったので、わりと大変だろうなと、人ごとのように思ったのだけれど――


「いいえ、当主は代わらず長男が引き継ぐ予定よ。ミューレ学園にも一年通ったし、レリック領の将来は安泰でしょうね」

「……は? えっと……なら、トレバーには補佐として――という話か?」

「そうだけど、そうじゃないわ。言ったでしょ、姉や妹に追いかけられているって」

「それは聞いたけど……まさか!?」

「ええ。わたくしたちと結婚して、一緒に兄を支えていきましょう――という話らしいわ」

「……はあ?」


 前世の妹に、実の姉や義妹と結婚する俺が言うのもなんだけど、近親婚はあまりいい顔をされない。姉妹のうち片方とかならともかく、姉と妹の両方に迫られるなんて、どんな確率なんだと突っ込みたい。……いや、俺みたいな例外はあるけど、普通はないだろ。


「なんでそんな話になってるんだ?」

「実は、ね。トレバーが何年か前に、ミューレの街で開催されたお祭りに、家族を招待したそうなのよ。それで、ね。どうやら彼の姉妹は、流行に捲かれるタイプだったみたいで……」

 なにやら、クレアねぇに意味深な視線を向けられる。

「まさ、か……」

「ええ、最近流行の家族婚に惹かれたみたいね」

「最近流行の家族婚……」

 そう言えば、前世でも家族婚が流行ってたなぁ。あっちは、家族だけで挙げる結婚式のことだったけれども。……と言うか、これって、もしかして俺のせい?

 ……う、うんまあ、受けるかどうかはトレバー次第だしな。迫り来る姉妹から逃げるのは大変だと思うけど、頑張れ。

 俺は友人の幸せな未来を願ってエールを送った。

 

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