エピソード 3ー5 ドジっ子ロリ巨乳認定

 結果から言うと、リズは本当に護身術が使えた。少なくとも、ちょっと力の強いだけの大人には勝てるほどには習熟している。

 正直、その光景を目の当たりにしても信じられなかったくらいだ。


 とは言え、突発的な状況に弱い性格は変わらない。そしてそれは、護衛としてあまり役に立たないって意味でもある。

 けど本人はやる気だったので、護衛は引き受けることにした。大事なのはリズが一生懸命だと知って貰うことだからな。


 だけど、だ。

 それだけでリズが皆に認めて貰えるとは思えない。根本的な問題は、貴族と平民の間にある価値観の違い。それを埋めなければ、根本的な解決には至らないだろう。

 という訳で翌日の放課後。俺はトレバーとアカネを足湯メイドカフェに誘った。


「悪いな、急に誘ったりして」

「気にしぃひんでええよ。にーさんの頼みやからね」

「そうだぜ。師匠の頼みなら断れねぇよ」

 二人の優しさが身に染みるなぁ。学校に通ったのは主にアリスのためだったけど、俺自身も学校に通って良かったと心から思える。


「ありがとう、二人とも。今日は俺の奢りだから、好きなモノを頼んでくれよな」

「おぉ、そうか。それじゃお言葉に甘えて、俺は……メイドさんに食べさせて貰う権利付きのパフェで!」

「……え、そんなメニューがあるのか?」

 疑問に思ってメニューを見ると……あったよ。

 平民でも貴族の気分が味わえる――みたいな趣旨だったはずだけど、メイドに食べさせてもらうとか、どう考えても日本のおたく文化的な意味でのメイドだろ。

 ……まあ需要があるなら良いけどさ。


「で、アカネはなにが良いんだ?」

「甘えてもかまわへんの? この店、結構高いと思うよ?」

「ん? 別に問題ないぞ?」

 俺が貴族だって気付いてるのに、なんで今更と首をかしげる。そうしたらアカネはぼそっと、「そう言えばこのお店も、アリスって言うんやね」と呟かれてしまった。

 なんか色々バレバレな気がする。


「と、取り敢えずなにが良いんだ?」

「そうやねぇ。にーさんのお奨めは?」

「イチゴのショート……って言いたいところだけど、足湯に浸かりながらならバニラアイスの乗ったパフェとかかな」

「なら、うちはそれにさせて貰うわ」

 そうして二人の注文を聞き、自分の分と併せて注文をすませる。それから改めて二人へと向き直った。


「今日二人を呼んだのは――」

「リズちゃんのことやろ? にーさん達が頑張ってだいぶマシにはなったみたいやけど、一度刻み込まれた印象はなかなか変わらへんからねぇ」

 俺のセリフに被せるようにアカネが続けた。でもその内容は的確だ。リズのことを心配して気に掛けててくれてたんだろう。


 けど、トレバーはリズの件を知らなかったようで、なんの話だと首をひねっている。

「あのドジっ子ロリ巨乳がどうかしたのか?」

 吹いた。ドジっ子ロリ巨乳って……いや、確かにその通りなんだけどさ。最初に教室で見かけた時は、可愛い女の子とか言ってたのに……凄い評価の変わりっぷりである。

 ともあれ、実は――と、俺はトレバーにリズが親の決めた結婚を嫌がって家出した、我が儘な貴族令嬢だと噂されてることを教えた。


「なにっ、あのドジっ子ロリ巨乳が貴族令嬢だったのか!?」

「気付いてなかったのかよっ!?」

 いやまぁ、正確には貴族令嬢じゃなくてお姫様なんだけどな。

 身分が高いことはクラスメイトも気付いているし、アカネは最初から気付いてた。トレバーも気付いてるモノだと思ってたんだけど……気のせいだったか。


「気づくもなにも、そんなの本人が隠してたら判らないだろ?」

「……それ、俺も初めは思ってたんだけどさ。アカネに言わせると、雰囲気からしてバレバレらしいぞ?」

「……な、に? それじゃ、まさか……?」

「ああ。お前もバレバレだったらしいぞ? ちなみに俺も速攻でバレた」

「なっ!? 師匠も貴族だったのか!?」

 トレバーは嘘だろとばかりに目を見開いた。それも気付いてなかったのかよ。と言うか、俺を平民だと思いながら師匠って呼んでたのかよ。ある意味大物だな。

 そう思っていたら、トレバーが急に深刻そうな表情を浮かべた。


「なぁ……アカネ。お前が俺に近づいたのは、俺が貴族の息子だから、だったのか?」

「急になにを言い出すん? 見くびって貰ったら困るわぁ」

 少し深刻なトレバーの問いかけに、アカネは不敵な笑みを持って答える。

「じゃあ……違うのか?」

「この学園には貴族がそこそこいるけど、みんなに声を掛けてる訳やあらへんよ。トレバーに声を掛けたんは、あんたがトレバーやったからやよ」

「そう、か。俺だから、か。ありがとうアカネ。これからもよろしくなっ!」

 疑念は晴れたようで、トレバーはいつもの調子を取り戻した。

 ――が、お気づきだろうか? アカネは貴族だったからトレバーに声を掛けた訳ではないと、一切否定していない事実に……


 ……いやまぁ、ただ貴族だから声を掛けた訳じゃないってのは事実だと思うし、アカネは平民の子なんかとも普通に仲良くしてるからな。

 口で言うほど、利益ばっかり考えてる訳じゃないみたいだけどな。サラッと騙されるトレバーにはちょっと不安になる。


「まあ話を戻すぞ。リズが我が儘だと思うか?」

 俺は咳払いを一つ。トレバーに向かって尋ねた。

「ん? ロリ巨乳な体型のことか?」

「そこから離れろっ! 政略結婚のことだよ」

 我が儘な体型ってなんだよ。いや、分かるけど。サラッとそんな発想が出てくるとは恐ろしいヤツめ。

「あぁ……そうだなぁ。ある程度は仕方がないと思うが、望まない相手だとどうしようもないからな。詳細を知らないことにはどちらとも言えないって言うのが俺の本音だな」

「おぉ、さすがトレバーだな」


 味方をしてくれた訳じゃないけど、政略結婚に従うのが当たり前だって答えが返ってくる可能性も考えていた。中立に立ってくれたのはありがたい。

 俺は実は――と、貴族と平民の間にある価値観の違いについて話した。


「価値観の違いねぇ。それは言われてみれば思い当たる節はあるが……師匠はそれを俺に話して、どうして欲しいんだ?」

「難しいことは頼まないよ。ただ、価値観は人によって違うんだって、みんなに教えて欲しいんだ。リズがちゃんと努力したら、認めて貰えるようにさ」

「……努力をしたら認めて貰えるように、か」

 トレバーは一瞬だけ物憂げな表情を浮かべた。貴族の息子が平民向けの学園に来るくらいだし、もしかしたらトレバーにも色々事情があるのかもな。

 だとしたら、こんな風に頼むのは迷惑だろうか? なんて思ったんだけど、次の瞬間、トレバーはニヤリっと笑って見せた。


「良いぜ。そう言う理由なら、手伝ってやる」

「おぉ、マジで?」

「マジもマジ、大マジだ。それに、師匠の頼みだからな」

「ありがとな」

 俺は感謝と、頼むという二つの理由を込めて頭を下げた。そうしてひとしきり感謝の気持ちを伝えてから、改めてアカネへと視線を向ける。


「アカネも、頼んで良いか?」

「もちろんやよ。にーさんもリズちゃんも、恩を売って損はないはずやからね」

「相変わらずだな。でも、だからこそ頼もしいよ。ありがと」

 その後、メイドさんが運んできたパフェやらを食べながら、俺達は今後の計画を立てるべく話し合った。

 

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