エピソード 3ー6 一級フラグ建築士
みんなへの根回しは、アカネとトレバーが頑張ってくれている。
だけど、最終的にはリズのがんばり次第。なので俺達は当初の予定通り、護衛の研修という名目で服飾の課外授業に参加することにした。
そんな訳で、俺達はミューレの森を訪れていた。
アリスやエイミーを初めとした服飾班の生徒を率いるのはリアナ先生だ。
リアナ先生……心の中で呟くだけでも違和感がある。まあ違和感は俺よりもリアナの方が感じているだろう。
なにしろ、護衛として同行しているのが雇い主である俺で、教え子の一人はリアナの師匠だからな。……可哀想だから、あとで新作のケーキでも差し入れしておこう。
それはともかく、服飾班の生徒はリアナに連れられて、クワの木から葉っぱを採取している。蚕を繁殖しているので、それの餌とするのだ。
ちなみに、この作業は週に二回くらいのペースで続けている。葉っぱを冷水につけておけば、一週間くらいは保つらしいんだけどな。この地方は暖かいので大変みたいだ。
続いて護衛のメンバーはエルザ隊長と、そのほかの騎士が二名。それに俺とリズが周辺警戒に当たっている。
あと俺の側には、何故か噂を聞きつけてきたソフィアがいる。
「えへっ、リオお兄ちゃんと森のお散歩楽しいなぁ~」
遊びに来たんじゃないんだけどなぁ。まぁ普段は騎士二人が護衛って話だし、騎士達が周囲を警戒してくれてれば――って、子供達と談笑してる!?
「……な、なぁ、周囲警戒とかしなくて大丈夫なのか?」
俺は近くを見回っていたエルザに問いかけた。
「え? あぁリオ――さん。こほんっ、そう緊張しなくても大丈夫ですよ。獣が出ればすぐに分かりますし、この地方で魔物に襲われるなんて話は滅多に聞きませんから」
「でも、この森には魔物がいるんだよな?」
「小型の魔物、ガルフが生息してますね。とは言え、彼らは警戒心の強い魔物ですから。こちらが団体でいる以上、遭遇するなんて年に一回もありません。護衛の訓練中に限って襲われるなんて有り得ませんよ」
「へ、へぇ~、だったら安心だな」
……ダメだ。今回、絶対に襲撃されるって俺は確信した。だって前もエルザがフラグ立てて、見事に山賊に襲われたからな。
――ちなみにあの山賊達は、うちの領で元気に働いている。ギャレット――もと村長にして山賊の親分が、上手く仲間を纏めてくれているようだ。
立場は犯罪奴隷のままなんだけどな。以前より暮らしが良くなったとかで、村に残してきた家族を呼び寄せたり、逆に仕送りをしたりしてるらしい。
山賊に落ちた事情が事情だし、本当は相応の期間を働いたら犯罪奴隷から解放してやりたいんだけどな。うちだけ他と比べて対応を甘くしたら、犯罪者が集まってくるかもしれないし、その辺の対応が難しいのだ。
「ところでソフィアさん。今度はいつにしますか?」
「ん~そうだねぇ。明後日とか、エルザさんの都合はどうかな?」
「明後日なら大丈夫です。では明後日にしましょう」
気が付けば、ソフィアとエルザが親しげに話していた。
「二人はいつの間に親しくなったんだ?」
「エルザさんは、ソフィアが作った部活の顧問の先生なんだよ?」
「部活? そういやそんなことを言ってたな。一体なにの部活を作ったんだ?」
「それはだから――もぅ、秘密って言ったでしょ?」
「むぅ……」
ソフィアがダメならエルザにと、俺は視線を送る。
「な、なんでしょう?」
「じ~~~~」
「えっと、あの……」
「俺は別になにも聞いてないぞ。じぃぃぃぃ」
「わ、私はその、剣術だけが取り柄ですから」
俺の無言の――ではないな。じぃぃと言い続ける攻撃にエルザが屈した。
「剣術ねぇ。と言うことは、戦闘訓練か何かの部活なのか?」
「いえ、正確には――」
「お兄ちゃん? 秘密って言ってるのに、どうして探ろうとするのかな?」
ソフィアのちょっと怒ったような眼差し。俺は思わず一歩後ずさった。
「い、いや、その……そうだ! ほら、一応兄としては、妹がなにをやっているか把握しておく必要があると思って」
「お に い ちゃん?」
「……………ごめんなさい」
俺は海よりも深く反省――したというのに、エルザと打ち合わせがあるから、お兄ちゃんは向こうに行っててと追い払われた。しょんぼりだ。
そんなこんなで手持ちぶさたになった俺は、改めて他のみんなの様子をうかがう。
リズは頑張って服飾班の手伝いをする切っ掛けを伺ってるみたいだけど、今のところ上手くいってないみたいだ。
先生であるリアナに頼むのは簡単だけど、それじゃみんなの理解は得られないし……うぅん。切っ掛けがあればなんとかなると思うんだけどなぁ。
――よし、ちょっとお節介を焼いてみるか。そう決めた俺は、作業をしているエイミーのもとまで歩み寄った。
「エイミー、葉っぱの採取はどんな感じだ?」
「え? あ、リオくん。そうだねぇ……半分くらいじゃないかな?」
「結構採取してるのに、まだ半分なのか?」
「うん。蚕の飼育場が完成して、飼育量が今年から増えたんだって。だから、必要なクワの葉っぱも増えて大変みたいだよ」
「へぇ、そうなのか」
なんてな。俺達が指示してるんだからもちろん知ってる。少し罪悪感があるけど、これもみんなが仲良くするため。俺は予想通りの返答を利用させてもらうことにした。
「大変だって言うなら、リズにも手伝わせてやってくれないか?」
「え、それは……」
迷惑と思っても、本人の前で口にしない優しさはあるんだろう。
エイミーは俺を恨めしげに睨んだ。もしかしたら、俺がそれが目的で話題を振ったことに気付いたのかもしれない。
「頼むよ。迷惑は決して掛けない。もしなんらかの失敗をしても、俺やリズ自身がちゃんと責任を持つから」
「………………はぁ、判ったよ。リオくんの言葉を信じるからね?」
「おう、任せとけ」
って、頑張るのは俺じゃないけど。と言う訳で、俺はリズに目配せ。まだ状況を飲み込めてないリズは目をパチクリとしていた。
「人手が足りないんだってさ。葉っぱを集めるだけだけど、細かいことはエイミーに聞いて、焦らず丁寧にするんだぞ?」
「……あっ、はいですわ!」
リズは嬉しそうに頷き――ツタに足を取られて転けた。
僅かな沈黙。
リズがむくりと起き上がる。そこに浮かんでいるのは――笑顔。
「えへ、えへへ」
……危ない人になってる。
「ま、まぁ、俺は周辺の警備をするから、焦らず手伝うんだぞ?」
そう言い残して、俺は邪魔者は退散とばかりにその場を離れる。
そうして少し離れた場所で周囲の警戒をしつつもリズの様子を伺っていると、不意に脇腹に軽い痛みが走った。
脇をつねられるような感覚。これはまさかと見回せば、アリスが険しい表情を浮かべ、俺に目配せをしてきた。
「……どうかしたのか?」
「気配察知の恩恵に感あり、だよ。囲まれてるみたい」
うわぁ、やっぱりフラグを回収したか。
とは言え、俺達は襲撃を前提に護衛してたからな。戦力は十分だし、ガルフはそんなに危険じゃないって話だし、それほど心配しなくても平気だろう。
そう思っていたから――
「相手は全部で……十二人。囲むように動いてるし、友好的な相手じゃないね」
俺はその言葉を暫く理解出来なかった。
「……は? ま、待ってくれ。ガルフじゃないのか?」
「うん、人だよ。それも悪意のある集団。これは私の予想だけど……生徒の着てる制服か、生徒そのものが目当てじゃないかな」
「――っ」
ここに来て、俺もようやく事態を理解した。
「……アリスの精霊魔術でなんとかなるか?」
「護る対象が多くて視界も悪いから、反対側の敵に射線が通らないと思う。制圧は問題ないと思うけど、相手に攻撃をさせる暇もなくって言うのは無理だと思う」
……それでも勝つのは確定なんだな、相変わらず頼もしい。
「それじゃ、俺はエルザ達に知らせてくる。アリスは生徒達がパニックを起こさないよう、リアナに指示してくれ」
「うん。慌てないでね。私達が気付いてるって知ったら、すぐにでも襲ってくるよ」
「判った」
俺はなんでもない風を装いながらエルザ達のもとに向かった。
「エルザ、ちょっと良いか?」
エルザとソフィアの会話を遮って話し掛ける。
「リオお兄ちゃん? ソフィアはまだお話中だよ?」
「悪い、ソフィア。ちょっと緊急事態だ」
「――ガルフですか?」
エルザがすぐさま気を引き締めた様子で尋ね来る。
「いや、盗賊の類いらしい。全部で十二人、囲まれてるって」
「――なっ! ……判りました、すぐに迎撃態勢を取ります。しかし、相手が十二人となると、我々だけでは護りきれないかもしれません。お力を借りても構いませんか?」
「もちろん。ただ、今回はあの時と違ってアリスの精霊魔術で一撃という訳にはいかないらしい。注意してくれ」
「かしこまりました」
エルザは会釈を一つ、俺達のところから離れていった。
「お兄ちゃん、ソフィアはどうしたら良い?」
「それはもちろん安全な場所に――」
いて欲しいと言うセリフは途中で飲み込んだ。ソフィアがいつの間にか、銀色に輝く短剣を二本、左右の手に握りしめていたからだ。
「……なあソフィア? それはなんのつもりだ?」
「もちろん、ソフィアも戦うつもりだよ? あれからずっと訓練してて、今では恩恵を使わなくても、三回に一回くらいはエルザさんにも勝てるようになったんだよ?」
「マジかよ」
俺やアリスも何度か手ほどきをして貰ったけど、剣術じゃ手も足もでなかったぞ。そのエルザから、三回に一回は勝つとか……
知らないあいだに、ソフィアがまた凄くなってる……
「お兄ちゃん?」
「あぁっと……そうだな。リズを護ってやってくれ。あいつが一番無茶をしそうだから」
リズの側なら基本は安心だし、ソフィアの能力があれば、リズに万が一はないだろうという判断だ。
「ん、判ったよ。それじゃ――お兄ちゃん、怪我しちゃ嫌だからね?」
「ありがと、気を付けるよ」
俺はソフィアにお礼をいってさり気なく迎撃出来る位置へと移動。来るべき瞬間に併せて、盗賊達がいるであろう方向を向いて身構えた。
相手の目的が生徒や制服なら、生徒を傷つけるような攻撃は有り得ない。敵が顔を出したところで、精霊魔術を使っての遠距離攻撃で殲滅。他の場所へ助けに向かう。
そんな風に方針を決定した直後――
一斉に飛び出してきた盗賊達は弓矢を構えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます