第22話 クライアバル王国へようこそ

広い王座の間。赤いカーペットが床に引かれ数段の階段の上に二人分の金の装飾がふんだんに使われた椅子があった。そこにゆったりと腰を置くのはクライアバル王国の王。そしてその妃である。

クライアバル王は顔を上げると階段下にいたエルフの兵士達が一斉に頭を下げた。

そしてその兵士の間を放浪人とディア、そしてクエセレン姫が歩き、王の玉座の階段前で立ち止まった。

クエセレン姫は、放浪人と達の前を歩きクライアバル王に向けてスカートの裾を掴み軽く上げ、それに合わせるように会釈すると放浪人の方に手を向けた。


「お父様紹介します。こちらディア様のお友達の放浪人様です」


クエセレンの紹介で放浪人は軽く会釈した。クライアバル王は頷いてから口を開く


「先ほどは我が騎士ジュゼスが貴殿に無礼なことをしてすまなかった。

わたしはこのクライアバル王国を治めるアルベロ・ルイ・クライアバルだ」

「妃のローレライです。本日は遠路はるばるこのクライアバル王国に訪れてくださりありがとうございます」


ローレライは放浪人に微笑みかけた。クライアバル王は隣に立つ人物に目を向けた。

それは先ほど放浪人に刃を向けたエルフの男。

エルフの男はクライアバル王に一礼すると放浪人の達の前に立ち止まった。


「私の名はジュゼス・マグ・ロードと申します。先ほどは失礼な事をして申し訳ご座いませんでした」


ジュゼスと名乗ったエルフの男は、放浪人に向けて目を閉じ軽く頭を下げ謝罪した。


「おまえあいつと何かあったのか?」


隣に座っていたディアが放浪人に耳打ちをしたが「まあ色々」と放浪人は言葉を濁した。ディアは大体察すると申し訳なさそうに首元をかいた。


「あージュゼス。あたしの友人が何か迷惑かけたみたいだな。申し訳ない」

「おい、なんであやま…」

「いいから黙ってろ」


放浪人とディアのやり取り、しかしジュゼスは気にせずフッと上品な笑顔を向けた。


「ディア様が謝る必要はありません。不祥事の原因は私なのですから、まさかこのやば…ゴホンゴホン。お連れの方がいらしたとはつゆ知らず」


何か言いかけたジュゼスの言葉に放浪人はムッとしたがディアが睨むので押し黙った。


「クライアバル王、突然あたしの友人を連れてきて申し訳ないです」


ディアはクライアバル王に頭を下げるとローレライ妃は優しく微笑んだ。


「ディア様、謝罪する必要はないですよ。確かに外の人間がここを訪れる時は正式な手続きが必要となりますが…ディア様の友人となれば話は別です手厚くおもてなしさせて頂きますわ。ですよねクライアバル王」


クライアバル王は頷いた。


「その通り、歓迎するぞ放浪人殿。報告では怪我をしていると聞いた是非我が城で療養に勤しんでくれ」


寛大なるクライアバル王に放浪人は礼をした。


「お心遣い感謝する」

『お心遣い感謝いたします』


ログが丁寧語に修正するように声をかぶせた。

その後、放浪人とディアは一礼すると前を行くクエセレンを追って王座の間を出て

廊下に出ていった。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


廊下を出るなりクエセレンは放浪人を睨んだ。


「ちょっとあなた。非常識ではなくて!馬車では、人の話中に気絶するわ親切で医務室まで送れば抜け出し挙句の果てには

ジュゼスに謝罪させるなんてーーー!」


最初にあった礼儀正しさとは一変して、放浪人に掴みかかりがくがくと体を揺らす。

いいように揺らされる放浪人にディアは何も文句は言わなかったむしろこの程度で済んで安堵していた。

するとジュゼスはクエセレンの肩に手を置いた。


「クエセレン様、これはわたしが悪いのです。理由はどうあれディア様の友達とは知らずに手を出して手を怪我されてしまったのですから」

「ジュゼスでも…わかりましたわ」


クエセレンは釈然としないながらも放浪人から手を離し肩を落とした。


「随分と態度が違うんだな」


放浪人が挑発するようにいうもジュゼスはそれをあしらうように鼻で笑う


「レディーの前でそんなはしたないことはしたくないだけです」

「キザ野郎」


放浪人は、ジュゼスの嫌味ったらしい言い方にムッとしつつぽつりと返した。


「それよりディア様。それそれお夕食の時間です。是非お食事に招待させてください」


クエセレンの誘いにディアは頷いた。


「そうだな。ありがたく受けるよ」


クエセレンは嬉しそうな顔をするとジュゼスの方を見つめた。


「ジュゼス。貴方も是非」

「もちろんです。クエセレン姫お誘いいただき光栄に思います」


ジュゼスはクエセレンの前に立ちしゃがみクエセレンの手を取るとゆっくり手の甲にキスをした。

その光景に放浪人はなんとも言えない顔しているとディアはニヤリと笑った。


「お前じゃこういうことぜってえにやらなさそうだな」

「うるさい。お前もあんなお姫様の格好しないだろ」


ディアは頷いた。


「まぁ、確かにああいう服を着こなせる自信はねぇな。流石エルフの姫さんだわな」

「お前、血の気多い割にはちゃんとしてるよな」

「あん?なんかいったか」

「なんでもない」


放浪人はため息をついた。


「さぁディア様行きましょう」


クエセレンは上機嫌でダイニングルームがある部屋のほうに歩いていく。それに続くジュゼス、ディア、放浪じ…


「ちょっと待ちなさい。貴方は何故ついてくるんですの」

「何故って夕飯だろ」


と放浪人が言葉を返すとクエセレンは首をかしげた。


「失礼ですが。お夕食に貴方は誘っていませんわ」

「あ?なんだ俺だけ仲間外れか。もしかしてさっきの事を気にしてんのか」

「知っててむしろ何故誘われると思ったのか」


クエセレンは首を横に振り言葉を続ける。


「ですが私はそんな心が狭い事はしませわ。ですが貴方には先約が既にいるではありませんか?」

「先約?」


と突如放浪人の肩がに手を置かれる。振り向くとそこにいたのはさっきほど

放浪人の治療を担当していたレティだった。


「放浪人様はこちらです」


そういうとレティは放浪人の腕を掴むとディア達とは反対方向に引っ張った。


「先ほどジュゼスと争った時また怪我をしたかもしれませんし。父も言っていましたでしょ。また何かあるといけないので放浪人様は旅の疲れと治療に専念してください」


クエセレンはレティに連れていかれる放浪人に笑顔を向けた。


「争った時に怪我しただと?あの野郎」


放浪人はジュゼスに目を向けると


「怪我を負わせてしまい本当に申し訳ございません」


ジュゼスはお辞儀をして見せるもその口元はニヤリと笑っていた。


「大丈夫です。医務室の食べ物も結構美味しいですから」

「医務室って」


レティに連れていかれる放浪人は助けを求めようとチラリとディアを見るも


「ログはあたしが預かっといてやるから」


ログを見せつけて、すまんどうにもならないという感じで手で謝っていた。

もはやこの城に俺の味方はいないということを理解した放浪人は渋々とレティに引っ張られるように医務室まで連行された。

ふとレティは何かに気づき放浪人に声をかける。


「手を強く握られましたね」

「わかるのか?」


レティが頷く。


「ええ。先ほど少し治療したくっつきかけた骨がまた割れています。これは相当負荷をかけないとそうはなりませんよ。というより痛いはずですよね」


そう言いながら放浪人の手の上に自信の手でかざした。

すると放浪人の手を透明で青い光が包みこんだ。


「すり傷ぐらいならすぐに治せるのですが骨は治療に時間がかかるんです。せめて痛みを抑えるくらいはできますが」


放浪人の手にあったかすり傷が少しずつ消えていく。


「どうですか?まだ痛みはありますか?」

「ああ。まぁこれくらいの痛みたいした事はないがな」

「もっと体を大切にしてください」


放浪人は怒られた。

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