第10話 旅の前の静けさ

サーナと別れた後、放浪人はベレシートの部屋に戻り旅の準備を済ませると店のカウンターに置かれた朝食に口をつけていた。


朝食内容はヘルシーで健康的なラインナップ。

見慣れない色した肉や卵、光る野菜など含まれていたが気にならない。

味は特に変わらないからだ。


「朝食までいただいてすまない」


放浪人は礼を言うとその開いた口に食べ物を運んでいく。


「気になさらないでどんどん食べてくださいね」


ミストレスは、カウンター棚の酒を並べつつ笑顔で応えた。


朝食!それは旅をする前には必ず済ませておかなければならない!儀式みたいなもの!

特にうまいと力が出る!ミストレスの料理はうまい!

その証拠に放浪人の食事する手は、一切止まらないで進んでいく。


「それで放浪人さんはこの後どうするのですか」


ミストレスの問いに放浪人の手がピタリと止まるとミストレスに顔を向けた。


「とりあえずサーナがいるセインエイツってところまで行く予定だ」

「まあ!それはいいですね!すごくいいと思います」


なぜ嬉しそうな顔をするのか、いまいちわからないという感じで放浪人は首を傾ける。


「では早くお金を作ってテレポートでいけばすぐにあえますね」

「…といっても金を稼ぐ当てはまだないがな」


一文無し!逆さになっても小銭すら落ちない。帰る場所すらない!まさに崖っぷち!

こうして食事ができているのも奇跡に近い状態であった。


「わたしの店はこの通り店は一人で切り盛りできますし。うーん」

「いや。こうして食事と泊まる所を用意してくれただけで十分だ。感謝している」


放浪人は、ありがたいと思いつつ食事を口に入れる。


あっそうだ、とミストレスは何かを思い出したように放浪人の腕を指さした。


「ソルシエールからそのジャーバンドに何か情報があるかもしれませんよ。

あの子よくそれをいじって調べてるのをよく見ます」


放浪人は、思い出したように上着のポケットから液晶画面が一面についているバンドを取り出した。


サーナが持っていたジャーバンドより少し年季がかかっている。

試しとばかりに液晶画面に触れると【腕に着けてください】という文字が画面に表示されている。が何が記されているのかよくわかってない放浪人。しかし何となく勘でジャーバンドを左腕に装着した。


【エラー!エラー!認証できませんでした。あなたはマスターではありません】


ジャーバンドの液晶画面が赤く点滅しそれに合わせるように文字が浮かび上がった。


「だめな。全然つかえそうにない」


指で何回もタップするも画面が暗くなり反応がなくなった。見ていたミストレスがあらあらという表情をする。


「あの子ったらマスター変更してなかったみたいね」

「マスター変更?」

「ええ。本来は手放すときに自分の情報を初期化するのだけど……あの子忘れたみたいね。

この状態になると本人以外ロックがはずせないわ」

「そうなのか。じゃあ使えないな」


放浪人はバンドを腕から外すと肩を落とし再びうなだれた。


「すこしお借りしても?」

「どうぞ」


ミストレスはテーブルに置かれたバンドを手に持ち色々いじりまわししまいには分解し始めた。

もしや得意なのでは!期待を込めてミストレスを見つめる放浪人だが


「あら」


手を滑らせいくつか床に落ちるパーツ。それを拾い床にしゃがむミストレス。

ガチガチと機械がこすれる音。


もうだめだぁおしまいだーと放浪人が野菜をフォークに突き刺して口に入れ

どっか適当な店で皿洗いとか品出し程度で細々と稼ぐかと、これからの予定を管変えていた時、


「あの、これで登録できますよ」


ミストレスが声をかけてきた。


「……なんだと!」


あれだけ分解してまだそんなに時間がたっていないあの状況からよく治せたなと驚く

ミストレスの手には先ほどバラバラに分解されていたバンドが綺麗な形となり液晶が点灯していた。


『マスターを登録してください』


なにやら先ほど物静かだったジャーバンドから音声がなっている。


「こう見えてわたし機械に強いんですよ」


ミストレスは胸を張る。豊満


「人は見かけによらないんだな」


釈然としないながらもバンドを受け取った放浪人は試しに液晶に触れてみる。


『腕にお取り付けください』


手の中で聞こえる透き通った音声。


「……このバンド音声機能ついてたか?」


放浪人が指摘する通りサーナが操作していたバンドには一切音声はなっていなかった。


「それはおまけです」

「おまけ?」

「おまけです」


そうなのか。ミストレスの謎の威圧。

これ以上言ってもそれしか応えてくれそうにない

放浪人は言われるがまま腕にバンドを巻き付ける。


「体温、皮膚の感度、血液、DNA認識しましたお名前をお願いします」

「……放浪人」

「放浪人…了解しました。よろしくお願いします。マスター」


バンドは放浪人を登録した。

気を取り直して操作しようと液晶に触るものの出てくるのは複雑な数字と文字一向に進まない画面


「使い方がわからん…」


バンドを眺めながらしかめっ面する放浪人に


「声をかけてみてください」


ミストレスはアドバイスする。


「ええと、仕事の情報」


言われたとおりに放浪人がバンドに質問すると


『了解しました。ここの近辺での仕事を検索します』


バンドからサラーガと明記された地図が表示される。

おおっと少し感動する放浪人。


『検索終了しました。サラーガは残念ながら個人で経営が

多く現在の人員で切り盛りできるので無駄に人を雇うことはありません』


サラーガの町が全てバッテンのマークがつく


「ということはここで金を稼ぐことは無理か」

『いえ、そんなことありません。いくつかクエストを発見しました』

「クエスト?」


放浪人が訪ねると映像が切り替わりクエスト一覧と

明記され事細かく記されたリストを表示し。

討伐、配達、達成、事前報告の有無など書かれている。


『クエストに条件や報酬が明記されています。これらをこなせばローを稼ぐことは可能です』

「ほー自分でクエストを選んで挑戦できるのか」

『もちろんです。この辺りの砂漠でしたらデザートビッグワーム討伐は

事前報告ではなく達成報酬ですので気楽に挑戦できると思います』


面白そうだと放浪人は胸を躍らせる。


「なるほどならこの辺の魔物を討伐して町に戻りその金でテレポートすればいいわけか」

「そうですね。そうすればテレポートを使ってすぐにサーナちゃんのいる

学園の所にいけますものね。よかったですね放浪人さん」


ミストレスは嬉しそうに笑う。


「じゃあさっそく砂漠に出て魔物を討伐してくるか」


意気揚々の放浪人。だが現実はそう甘くない

自分のやった軽率の行いは必ず自分に戻り苦しめるものだ。


「一つよろしいでしょうか」

「なんだ?」


バンドが赤く点滅しながら放浪人に語りかける。


「現在マスターはテレポート施設を利用することは出来ません」


放浪人は瞬きをした。


「どういうことだ」

『どうやらマスターは施設内で迷惑行為を2度行ったことが問題になり、その時の証拠映像と顔写真が

治安維持局に送られた後。テレポート可能な各都市にこの男が現れた時無条件でつまみだせということに

なっております。もしかしたら捕まる可能性がありますね』


ミストレスはあららと言いながら困った顔をしていた。


「リンク内に証拠映像ありますけど拝見しますか」

「いやいい」


どうせ全部アームロックっと放浪人はつぶやいた。


「ということは歩いてセインエイツに行かないといけないのか…」


放浪人は考えながらまた食事を始めた。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


放浪人は食事が終わり席を立ちドアの前に立つとミストレスの方を向き頭を下げた。


「世話になったな」

「いえいえこちらこそ楽しい時間だったわ」


ミストレスは微笑んだ。


「放浪人さんをお願いしますね。ログ」

『了解しましたミストレス様』


放浪人の腕についているバンドが反応する。


「ログ?」

「はい。名前がないと不便ですからわたしがつけました」


放浪人は腕をあげログとなずけられたバンドをみる


「じゃあこれから頼むぞログ」

『改めてこちらこそよろしくお願いします。マスター』


ログに挨拶をしている放浪人を見てミストレスは何か懐かしむような顔でニコニコと眺めていた。


「ん?俺の顔に何かついてるか?」

「いえ、少し思い出しただけです。気にしないでください」

「そうか」


放浪人を頷くと手を上げてまたっと挨拶をする。


「ええ。次来るときは面白い話聞かせてくださいね」


ミストレスの笑顔を背中にうけて放浪人はベレシートから出ていった。

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