第8話 ミストレスの加護
ソルシエールがいなくなり落ち着きを取り戻したサーナは再び興奮しながら
ミストレスに詰め寄っていた。
「ここのお店すごいんですね!超伝説的な方が常連のように来るなんて」
「うーん。そうね。確かにここはそういう人が多いわ」
「そんなお店に来れるなんて夢見たい!」
ミストレスが困った表情を浮かべる一方うっとりした表情を浮かべるサーナ
それにしてもと、放浪人はドアを見た。
あれから少し時が経つもあのドアが開く様子もなくもちろん、客が入ってくる様子もない
「この店全然客こないんだな」
放浪人がつぶやくとミストレスも特に気にすることもなく微笑んだ。
「そうね。ここは滅多にお客なんてこないわ」
「それで店は、大丈夫なのか」
「心配してくれてありがとうございます。でも問題ないんですよ。
わたしうまく店を切り盛りしてますから」
豊満な胸を張りながら応えるミストレスの言葉。
「そんなもんなのか」とりあえず信じるしかなかった放浪人。
「まぁでも、今日はもうお客様は来そうにないし店終いね」
ミストレスは店のドアに向かっていきカギを閉めた。
「いいんですか?もう店を閉じて」
「ええ。今日はとりあえず開けてただけだから」
店ってとりあえずで開けるものだっけ?
そんなミストレスの言葉にサーナは不服そうな顔をする。
「こんなにいい店なのにもったいないなー。ねっ放浪人!」
「確かに菓子のセンスも悪くない」
「あんたは食べ物だけかい!それよりも店の雰囲気よ。綺麗な装飾にリラックスできる明かり!
実家のような安心感」
「俺の後ろに震えてた奴が何を…」
「う、うるさいわね。いいでしょ。もう」
プイっとそっぽ向くサーナ。その様子に放浪人は肩をすくめた。
「それよりミストレス。本当に全部タダでいいのか」
「ええ。構いませんよ」
放浪人が訪ねるとミストレスは首を縦に振り即答。
「あなたたちは私のお客さまだから」
この人天使かな。
その言葉にサーナは慌てて財布を出した。
「払います!少ないけど払わせてください」
有り金すべて(20ロー)を渡そうとする。彼女には貢ぎ癖があるのだろうか…
「たぶん足りないだろそれ」
放浪人がすばやく指摘する。
「うるさいわね!足りないのはあんたが沢山飲み食いするからでしょ
わたしは自分の分を払うだけ!あんたこそ甘えてないでちゃんとお金払いなさいよ」
涙目になりながら怒るサーナに放浪人は見ないふりをした。
ド直球の正論に言い返せない。
「わたしテレポートなんか使わずに責任もって歩いて帰ります!こいつを連れて」
「俺も行くのか…」
サーナのセインエイツまでの同行が決定。
しかしミストレスは「受け取れないわ」と言って首を横に振った。
「でっ、でもー」
「まぁ少し落ち着けよ……」
戸惑うサーナの頭に放浪人が手をやると流れるように
その手をねじりアームロックを決めた。
「がああああああああ!腕が!」
苦の表情を浮かべる放浪人。
「それ以上はいけないわ。折れてしまいます」
ミストレスに止められるまで技は続いた。
二人のやりとりにミストレスは少し考え
「じゃあお願いがあるの」
そういうとカウンターの隣の棚から
黒く分厚く重そうな台帳をとりだしカウンターテーブルに置くと二人に見えやすいよう
ページを開いてみせた。
台帳の中はズラッと色々な名前が記してある
「ここにあなたたちの名前を書いて欲しいの」
その言葉に放浪人は警戒する
「これってまさか未払いリスト…」
「違うわ。これはこの店に来店したお客様の名前よ」
気まずい顔をする放浪人にミストレスは激しく否定した。
「来店客の名前ですか?」
サーナは訪ねながら記された名前を確認する。
「そうなの。わたし趣味でこの台帳に来店したお客様の名前を書いてもらっているの」
ミストレスはニコリと笑う。
「それでまた台帳に書かれている名前のお客様がご来店した時には
素敵な思い出話を聞かせてもらっているのよ」
「なんだか素敵…もしかしてソルシエール様も」
サーナは台帳に羅列された名前を確認し始めた。
しかしどこにもソルシエールという名前は明記していなかった。
「あれ載ってない」
「うーん。あの子は名前を記入するの好きじゃないのよ。なんたって魔女だから」
「そうなんですか…残念」
「それで……二人とも名前を記入してくれる?」
笑顔で言われ放浪人とサーナは迷いなく台帳に自分の名前を記入した。
放浪人という名が名前に入るかわからないが…
「ありがとう」
ミストレスは二人に礼を言うとルンルン気分で台帳を置いてあった棚にもどした。
「礼をいうのは俺たちの方なのにな」
「うん。たしかに」
少し変わったミストレスを二人は眺めた。
その後二人はミストレスに空き部屋に案内された。
もちろん、別々の部屋。サーナと放浪人はミストレスに礼を言いお互い適当に挨拶をして
それぞれの部屋に入っていく。
ちなみにシショウはあのまま立ち寝していたのであのまま放っておくことに
鳥は本当に自由!
部屋の内装も割と広くシャワーなど生活できそうな家具を完備。
早速放浪人はシャワーで体を洗いその後ベッドに寝転がった。
(この世界で、やっと一息がつけるな)
ベットの柔らかさから出た安心感からか睡魔に襲われるように放浪人は目を閉じた。
「まだ起きてる」
すると放浪人の頭上の壁から聞こえるサーナの声。
「ぎりぎり」
放浪人は目を開き天井を見つめ素っ気なくかえした。
「そっ別に聞き流していいけど。早朝わたしはセインエイツ学園に帰るわ」
「そうか」
「そうかって。それだけ」
壁越しから不満気な声。
「ずっと帰りたいって言ってただろ」
「それはそうだけど、なんていうか…その…もうちょっと…ごにょごにょ」
「なんだ聞こえないぞ」
「その…えっと…もういいお休み!」
ポスンと布団を被る音が壁の向こうから振動で伝わる。
その後壁越しから声がしないところをみるともう話すことはないということだろうか
なにが言いたかったんだあいつ…
多分、今日の事を罵倒だろうが…まぁいい、起きた時、サーナがまだいたら見送りぐらいはするか。
そう思いながら放浪人は目を閉じた。
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