27話
「この体を与えたのは確かに俺だけど、使っているのは君だろう。君がこの体をすごく気に入ってくれて、それを利用しているのは知っているし、君の楽しみを今更奪おうなんて非情な事しないよ」
「知っている?」
「あれ、わからない? ここに来た人なら分かるはずなんだけど、この前も説明したし。仕方ないな、じゃ、見せてあげるよ」
青年は奈津紀の顎を持っている手とは反対側の手の指を鳴らし、奈津紀の顎を持ってぐるりと無理やり辺りを見渡させる。先ほどまで二人きりだった灰色の世界には無数の人影がうごめき、ひしめき合っていた。
「これ、全部私」
ひしめき合う自分を見つめながら、そういえばこの体をもらったときも自分が沢山居たと思い出す。
(でも、これは今の私じゃない、鏡の世界のありとあらゆる世界の私)
そう心の中で思った奈津紀に青年は息を漏らして笑い、再び自分のほうに奈津紀の顔を向けた。
「以前はね、そうだった。けど今回は違うよ。ここにいる君は、君とは全く関係のない別の時空、別の時間軸でもない。容姿をここで変えてから、今ここに来るまでの君。前も言ったでしょ、君が鏡に姿を映せばこの世界にその時点での君が記憶されるって」
顎から手がはずれ、奈津紀は改めて辺りを見渡す。
青年の言う通り、どの自分も見覚えのある自分。
しかし、それは以前よりもずっとひしめき合っていて、その人数に驚いて奈津紀は思わず呟く。
「私、こんなに」
「うん、本当『こんなに』だよね。前は少なすぎて俺が別の次元や空間から呼んできたくらいだけど、それよりもずっと多いもの。まぁ、それだけ君が自分の姿を鏡に映した証拠でもあり、その体を楽しんでいる証拠だけどね」
青年は奈津紀の後ろに回りこみ、優しく抱きしめるように奈津紀を後ろから羽交い絞めにしそっと耳元で囁いた。
「だからね、俺は君が楽しんでいるを知っているし、気に入っているのを知っているんだ。そんな君から今の君を取り上げて、再び前のような生活に戻って悲しむのを望んでいるわけじゃない」
「じゃぁ、どうして私を?」
「一応ね、現時点での君の意思確認。それと前言い忘れていた事があってね、それをついでに伝えようと思って」
青年はそう言って、奈津紀を逃がさないようにするかのように体に腕を絡みつける。
あまりにきつく締め上げるので思わず痛さに奈津紀は顔をゆがめた。そんな奈津紀の様子を分かっていながら、青年はかまう事無く奈津紀の耳元で囁いた。
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