25話
さらに数ヶ月経てば、奈津紀の贅沢な暮らしはさらに贅沢さを増し、会社の女子社員の間では女王様というあだ名が付くほどとなる。
奈津紀は初めこそ女性というものに気を使っていたが、今では陰口を言われようと何をされようとも高飛車な態度をとっていた。
そんな奈津紀の態度に、奈津紀を利用していた女達は眉間にしわを寄せるようになる。
どんなに贅沢な暮らしになろうとも会社を辞めない奈津紀は、男漁りの為に辞めないんだと女達は噂した。
奈津紀の耳にもその噂は届いていたが、あながち間違いでもないと奈津紀がそれを否定することはない。
奈津紀にとって会社というものは働き賃金を得る場所ではなく、男と出会うための手段の一つとなっていたからだ。
「でも、私は漁って等いないわ。私からいわなくても男のほうから誘ってくるんですもの、漁る必要はないのよ」
女達がする噂の内容が聞こえるたびに、奈津紀は口元に笑みを浮かべて微笑む。
噂をする彼女達の全ての言葉が自分が持っていないものに対しての羨望であり、自分もそうなりたいと思ってのことであることを奈津紀はよく分かっていた。
自分には無いものを持っていて、そしてそれは決して自分には手に入らないものだと知ったとき、人はその人を自分より下に見る為に嘲る。
噂話もその一つであり、共感するものを求め、集団で居ることで自分は一人ではないのだと思いたいのだ。
「自分を保つ為に、自分を守る為に、そして、決して自分は羨ましがってなどいない、そう、自分に呪文をかける。本当に哀れだわ」
大きく真っ白な天蓋付きのダブルベッドで一人、目を覚ました奈津紀は下着を一切着けず、少し透けたベビードールのまま立ち上がり、窓際にたって自分を噂する彼女たちを想像して微笑む。
どのビルよりもひときわ高いマンションの最上階、その全てが奈津紀の持ち物であった。世界の全てが自分のもの、そんな錯覚すら感じてしまうこの場所に男は誰一人として入ったことはない。
奈津紀は決してどんな場所であろうとも男と二人きりになることはなかった。
男は二人きりになれば欲望をむき出しにする。
そうでなくても奈津紀は男達を煽るために擦り寄りながらも、手を伸ばせば逃げるという状況を作り出していた。
そんな男達と二人きりになるなんて自殺行為。例え襲われなかったとしても、この場所に男を入れてしまうと男はきっと、奈津紀を自分のものにしたのだと勘違いしてしまう。
奈津紀には確信があった。
男は一度手に入れて優越感と満足感に満たされれば、次の瞬間には別の快楽を求める、そうなってしまえば二度と奈津紀を欲しがらなくなってしまい、奈津紀の思い通りには行かなくなってしまう。あくまで「もう少しで手に入る」存在でいる必要があった。
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