22話

 近寄ってきた男性社員が「やってあげるよ」と言えば、奈津紀はそれに対して、少し俯き加減に微笑んで「ありがとう」と言えばいい。

 手伝いと称して変わりにやってくれる男が切れることはない。

 そうして男達が自分の仕事をやってくれている間、そっと男を気遣うそぶりを見せながら頭の中では彼のことを考える。

 そんな自分の行為を理解した時、奈津紀は自分自身に冷笑する。

(本当に見た目って大事なのね。内面や考えていることなんて関係ない、見た目さえつくろっておけばいいんだわ)

 視線を流せば、男のにやけた顔が目に入ってきた。

 少し膝に手を置けば男は興奮した息遣いを奈津紀に返した。

 常日頃、自分を怒鳴りつけて馬鹿にし続けていたあの課長にさえ奈津紀が頭を下げることは無い。微笑み返しと少しのボディタッチ、それだけで奈津紀は男達を手玉に取っていた。

 男性にはそのように接していた奈津紀だったが、女子社員には気遣いを見せる。

 なぜなら敵に回して面倒なのは女子社員のほうだからだ。

 容姿が悪かった頃の自分も歪んだ妬みを持っていたくらいだ、気をつけなければそういう妬みを浴びてしまうかもしれないという感覚があった。

 しかし、女子社員にしても思ったほど苦労はなかった。

 ここまでの容姿の差があればそれに張り合おうとするものなど居らず、どちらかと言えば奈津紀と仲が良い様に振舞う女子社員の方が多い。

 それは奈津紀へのアピールではなく、他の男性へのアピール。

 奈津紀と仲良くし一緒に居ることで男の視界に自分が入りやすくなる。

 奈津紀によって来た男達が、女からのある事ない事の情報等で奈津紀が高嶺の花だと認識すれば、他の女子にとっては自分を売り込むチャンスとなった。

(なるほどね、そういう使い道もあるのね。私)

 女性社員の強かさになるほどと納得しつつも、大変ねとその行為を笑顔で見逃した。

 基本的に周りの人間の顔色を伺って今までやってきた奈津紀。

 恋愛値は低く、男女間の駆け引きはよくわからなかったが、人の思惑は手に取るように分かった。

 ゆえに、容姿を最大の武器にする方法を考えなくても体と頭が実行に移し、それはことごとく成功する。

 いつでも人の中心に居るようになった奈津紀は、笑顔で他愛の無い話をしながら、自分以外の思惑だらけの連中を嘲り笑っていた。

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