2話

 生まれてきてから今まで、良い事なんてあったためしがなかった。

 いつでも私は女友達の引き立て役であり、面倒なことを押し付けられる損な役回り。

 なぜなら、私の容姿が他者よりも劣っているからだ。

 幼い頃から褒められるのはいつも髪の毛や瞳などの部分であり、容姿全体を褒める言葉をもらったことがない。

 どんなに節制して頑張っていても、少しの気の緩みで口から入った食物の栄養は全て肉となり、身となってしまう。だから私は、いつでも標準よりも少し太っていた。

 努力をしなかったわけじゃない。

 ダイエットだって、化粧だって、ありとあらゆることを容姿に費やした。

 でも、その頑張りを認めてくれる人は少なく、巷にあふれる美しい女性がうらやましく、お前は何の努力もしてないと私の努力を知らない人が言えば言うほど、その言葉は私を苦しめた。

 そしてある日、私は気付く。考えてみれば基が違うではないかと。

 生まれもって出てきてしまったものをどうにかするほどのお金も、勇気も私にはないし、基が違うのに何をしても結局は一緒なのだと気付いたとき私は努力をやめた。

 無駄な足掻きだと諦めたのだ。

 己の容姿の変化を諦めた私も、生きることを諦めたわけじゃない。

 働かなければ生きていけないと、事務員として就職し、毎日嫌な課長から嫌味を言われ続けながらも仕事をこなした。

 課長はあからさまな男という性を持った人。

 容姿の美しい、可愛らしい女子には仕事を極力与えず、お喋りしていようと注意するどころか自分もその中に入っていこうとする。

 でも、容姿の極端に悪い私には必要のない仕事まで与えて、そんなに遅いわけではないのに仕事が遅いと怒鳴りつけ、挙句の果てに先ほど言っていたこととは全く違う内容を言って、私の仕事の内容が悪いかのよう言う。

 なんにつけても文句を言われる私は課長にとって美しくない、人間ではない物なのだ。

 私は何かあればすぐに会社の外に出される。それこそボールペン一本買うだけでも私を使う。私という物を視界に映したくないのだろう。

 課長に限らず会社の人間には不細工、とろい、気持ち悪いと散々なことを言われ続けた。

 普通の人ならきっと耐えられずに会社を辞めてしまっているかもしれない。でも私にはそれくらいのこと、今までの人生で幾度と無く言われた事柄。

 自分の容姿が劣っているのは誰よりも自分が知っている。

 辛くはないとは言わないけれど会社を辞める理由にはならなかった。

 必要あるのか無いのかわからない文房具を買いに出た私は、早く帰らないと、と小走りに店を出る。

 一歩出た瞬間、酷いつむじ風が私を包み込んで、砂埃に私は瞳を閉じた。ビル風というのだろうかこの辺りにはたまにこういう風が吹く。

 体に当たる風が収まり、目を開けた私は目の前の光景に驚いた。

 そこにあったのは石畳の街角。

 自分の知らないその場所に私は一体何が起こったのかわからずただ呆然と立ち尽くした。

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