第12話
「僕は詳しいことは知りませんし、ちらっと多々良さんに聞いたことを考えるとですが」
項垂れていた都筑の顔が僕をじっと見つめ、瞳に何かしらの期待の色をにじませている。
一瞬してやられたと思ったが、悪い気分ではないので言葉を続けた。
「あのコーラルの人、それに商店街の人は都筑先輩にというより、都筑家に何か思うところがあるんじゃないですか?」
「俺の、家に? どうして?」
「コーラルの人は先輩からだったのに結局は都筑の人間として一括りにしていましたし、商店街の人は親子二代と言っていました。つまり都筑先輩と学園長ってことでしょ。だとすれば都筑家が問題なのではないかと思いまして」
「なるほど。あっちゃんって頭いいんだな」
「頭の良し悪しで言えば先輩のほうがずっといいですよ。僕の成績は中の下ですから。僕は状況判断が出来て相手の様子や行動を読み取るのが上手いだけです」
「俺は勉強できるよりそっちの能力の方がいいな」
「何言っているんですか。何でも持っているのにそれ以上何かを欲しがるなんて贅沢ですよ」
僕がため息を付けば、その姿をみて都筑が僕より大きなため息をつく。僕はその姿になんだか苛立ちが生まれてしまった。
「とにかく、解決したいなら学園長を巻き込んでみるのがいいと思いますよ。多々良さんの方はどうしようもないでしょうから」
「親父か。苦手なんだよなあの人」
「何言っているんです、貴方の為に面倒な部活動の仕組みを作った人でしょ。こっちはたまったもんじゃないけど、愛されていていいじゃないですか」
「あぁ、もしかしてあの噂聞いたの? 違うよ、アレは逆」
「逆?」
「一つの部活をおもいっきり打ち込んでやりたいって言ったんだ。そしたら何がしたいのかって聞くから、色々やってこれっていうのを見つけるって言ったらこんなことになったんだよ」
「……十分愛されているじゃないですか」
「俺はね、本来、優等生でもなければ好青年でもないんだ。でも親父は俺を出来た息子と思っているんだ。だから毎日必死なんだよ、期待通りの息子で居るために」
「残念ながら、それに『大変ですね』とは同情しかねますね。大した苦労じゃないです。先輩は本当に幸せですよ。疎ましく思われたことが無いから実際に疎まれるというのがどういうことか分かってないですね」
本当に、この人は。なんて幸せボケしているんだろうか。だから多々良の苦労はわからないんだろうし、多々良も大変だと思った。
「何にしても、原因は学園長だろうから聞いてみたらどうですか? 多々良さんとの関係を良くしたいなら苦手とか言ってられないでしょう?」
苛立ちが通りすぎてあきれ果てた僕はそう言ってその場を後にする。その背中に都筑の声が響いた。
「一回ぐらい幸の連絡に出てやれよ。アイツ、あまり外出させてもらえなくって、友達って言える存在居なくてさ。お前と話したのがかなり楽しかったらしいから」
「また、情に訴えようって腹ですか?」
「本当の事だよ。おばさんに会ったなら分かるだろ? すんごい過保護なんだよあの人」
「まぁ、考えておきます」
なんだかここ最近、面倒事が増えていくような気がしてため息が止まらない。
そんな僕の様子を知哉が見逃すはずもなく、教室に帰れば知哉の質問攻めが待っていた。
都筑に強気に出ていたせいだろうか、珍しく僕は知哉の言葉を流さず、しっかりと目を見て聞く。
「なぁ、どうしてお前は僕に構うんだ?」
唐突な質問に驚いたのか、一瞬瞳を見開いて固まった知哉は「そうだなぁ」といって前の椅子を引いて座った。
「敦巳が羨ましいし妬ましいからかな」
今度は僕が瞳を見開く。
僕がその台詞を言うなら分かる、どうして知哉から僕が聞かなきゃいけないんだろうか。眉間に皺を寄せて怪訝に眺めていれば僕の考えを読んだかのように知哉が続ける。
「俺にはないものを沢山持っているし、何度俺は敦巳になりたいと思ったかしれない。だからかなぁ、ついつい敦巳の事が気になってしかたがないのかも」
「嫌味じゃないよな?」
「当たり前だろ」
理解が出来なかったし、理解しようという思考が働かなかった。逆なら分かる。わかりたくなくても分かること。
「信じられないって感じだね。敦巳はいつも自虐しすぎていて自分の良いところが全然分かってないんだよ。俺だけじゃなくって、敦巳って意外に皆に羨ましがられているんだよ」
「嘘だろ?」
「ね? 自虐の中で酔いしれているから知らないんだよ。なんだったら聞いてあげようか?」
そう言って近くを通りかかったクラスメイトを数人捕まえて僕について聞き出す。目の前に本人がいるというのに、僕について皆好き勝手に話し始めた。
「佐々木くん? 鋭いよね、ちょっとした雰囲気を分かってくれるから良いなって思う」
「そうそう、空気読んでくれる。それに優しいよねぇ」
「あ、それに佐々木って男らしいよな。皆がどうしようかも迷っていてもさっさとやっちゃう感じで」
「見た目とかこだわってないよね。わざとらしくないし、やってやっているって感じも無いからすっごいカッコイイと思う」
「この前、上級生を論破していただろ。嫌な先輩だったからスカッとした」
楽しく笑いを浮かべながら僕を賞賛する様な言葉に、褒め慣れてない僕はどうしたらいいのか戸惑う。
また、出てくる内容が別に意識してやったことでなかったり、ただ、腹がたっただけだったりと結構自分思考で勝手にやってしまっていることだったりするから尚更だ。
「でもどうしたの? 急に」
一人の女子が首を傾げて知哉に聞く。突然聞かれたのだから疑問に思って当然。
「いやさ、敦巳って自己評価が低すぎるから、もう少し評価を上げてもらおうと思って」
「そうなの? まぁ、佐々木くんらしいって言えばらしいかな」
「自分のことって自分ではわかんないよなぁ。特にさ、褒められなかったら自分って駄目なんだって思い込むし」
「え~、あんたの場合は普通に駄目じゃん」
「嘘だろ、俺、結構いい男だと思うんだけど」
「自分で言っちゃ終わりじゃない?」
大声で笑いながら僕について話していたクラスメイトに知哉が「じゃ、俺は? 」と聞けば、口々に話していたクラスメイトは少し考え込んだ。
「正直に言って良いよ」
「そうだなぁ、ちょっと付き合いづらいかなぁ」
男子の一人がぽつりとそういえば、続くように女子が「そうね」と話し始める。
「何考えているのかわかんない時あるよね、それが怖い時もあるかなぁ」
「いっつも笑顔を崩さないのがねぇ。カッコイイし頭もいいのは認めているけど、側に居ると色んな意味で比べられそうで彼女にはなりたくないかな」
「そうそう、男なんか特にだぜ。知哉といると女子が絶対比べるもんな」
「酷いなぁ、俺ってそんな風に思われていたんだ~」
「自分が正直にって言ったんだろ」
「うん、冗談。そう言われるだろうって分かっていたし」
「なぁ、こういう所が嫌味なんだよなぁ~」
大きなため息を周囲がついて、知哉が微笑めばチャイムが鳴り響き、皆は慌てて自分の席に戻っていく。
知哉は微笑みをたたえたまま、僕の肩に手をおき、
「ね? 俺は皆にそんな風に思われている敦巳が妬ましいんだ」
と言って自分の席へ帰っていった。
考えたこともなかったことが起こり、僕は暫く授業の内容が頭に入ってこないまま過ごす。
そうして、ぼんやりしている内に僕は寮に帰宅し、スマホの着信音で我に返った。
「全然返事くれない冷血漢、明日休みでしょ? 例の場所で待っているよ」
いつもながら一方的な多々良からのメッセージ。いつも通りならばそのまま無視して終了だったが、今日は「時間があれば」と返事をした。
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