第11話
それから数日、面倒な事が済み、面倒が起こらなくてホッとしている僕が屋上でくつろいでいると、
「よう、あっちゃん」
頭上から嫌な声が聞こえて僕の眉間にはあっという間に皺が刻まれる。
振り向くことも面倒で、どう考えても厄介な事柄が待ち受けているとしか思えず大きなため息が自然と出てきた。
当然、相手にする気はさらさら無く、立ち上がってドアノブに手をかけてひこうとするとそのドアは反発するように開かない。
僕の頭の上でドアを押さえつけている手があり、仕方なく僕はその手の先の人物の方へ視線を向けた。
「契約違反じゃないですか? 僕はちゃんと荷物を届けました。あの時、僕が届けたら僕のいる間は屋上には来ないという約束でしたよね?」
「確かに。ただちょっと聞きたいことがあって」
「何です?」
「どうして幸と仲良くなっているんだ?」
意味のわからないことを言い出したと僕は首を傾げる。
多々良とはあれ以来会っても居ないし、連絡すら取っていない。確かに何度かスマホのアプリからメッセージが来たが、返事を返したことはない。
「スミマセン、ちょっと意味不明です」
「意味不明だと? とぼける気か?」
僕の言葉に酷く気分を害したのか、目の前で上から睨みつけてきた。しかし、睨み付けられようと凄まれようと、僕には全く身に覚えがないのだから意味不明以外の言葉は無い。
「身に覚えのないことを言われれば、意味不明と言うのが当たり前でしょう」
「身に覚えがない、だと?」
「全くありません」
じっと都筑を見つめながら僕が言えば、睨むように瞳を見返していた都筑の視線は徐々に自信のないものになって来て、等々ため息を一つつく。
「一体どうしてそういう思考になったんです?」
僕が聞けば、都筑は自分のスマートフォンの画面を僕に向かって差し出した。
そこには数日間のアプリでのやり取りが見え、僕はスマホを受け取りながら確認する。
「見ていいんですか?」
都筑は頷き、僕は視線をスマホの画面に移した。流石生徒会長で人気者と言うだけあって、登録人数は僕とは桁が違う。
その中でも開かれているやり取りは例の多々良幸とのもの。
内容を読むと驚きとともに、確かにこれでは都筑が勘違いしてもしかたがないと思うものだった。
「どうだ?」
「確かに、これでは勘違いされても仕方ないですね。でも僕は貴方に頼まれて届けたあの一回きりしかあっていませんし、連絡もとっていませんよ」
「はぁ、幸のやつ何を考えているんだ」
頭を抱えるように座り込んだ都筑の横に腰をおろしてスマホを手渡す。
知哉に聞いた都筑の姿とは全く違う様子に興味がむくむくと湧き出してきて思わず聞いてしまった。
「もしかして、都筑先輩は多々良さんが好きなんですか?」
唐突なことを言ったせいなのか、それとも図星を刺されたからなのか一瞬動きを止めた後、じっとりとした視線で僕を見てくる。
「べ、別に好きとかそういう感じでは」
「そうですか、それは良かった」
「よ、良かったってお前まさか」
「違いますよ。そうではなく、多々良さんが迷惑だと言っていたのでおそらく都筑先輩は好かれては居ないだろうと想いまして。好意を持っているならそういう事実は非情かと。でもそうではないっておっしゃったので良かったという言葉になったんです」
都筑はがくりと力なく崩れて前かがみに地面を見つめ大きなため息をついた。
「やっぱり好きだったんですか? すみません」
「全然悪いと思ってないくせに」
「すみません。でも深手にはなっていないようで良かったじゃないですか」
「まぁな、自分でもちょっと驚いているよ。でも迷惑と言われると、落ち込むことは落ち込む」
大きなため息をつく都筑が少し可哀想に思え、仕方がないと僕もため息をつく。
「何度も言いますが、僕は面倒事が嫌いです」
「……わかっているよ、優しくないな。あっちゃんは」
「ですので、二人の間に何があったとか過去の話などは聞きたくないので言わないでください。ただ、貴方自身薄々わかっていたんじゃないですか? でなきゃ僕にお使いを頼むわけ無いでしょう?」
「優しくない上に勘が鋭いんだな。指名する相手を間違えたかも」
「貴方のことを知らない、ということはあの商店街での貴方や学校の評判も知らないってこと。まさか商店街全体であんなに嫌悪されるとは思っていませんでしたよ。しかも都筑の名前が出ることでね。とんだ道化でしたよ、僕は」
都筑は僕の言葉に少々気まずそうにうなだれ、小さく「すまん」と謝罪の言葉を吐き出した。
「どう考えても多々良さんもそうですが、僕にだって迷惑以外の何者でもないでしょ。迷惑ですんでよかったと思いますよ。分かってやっているんだからたちが悪いし、嫌われてもいいぐらいですよ」
「はっきり言うな」
「すみませんね、そういう性格なんです。ホント、都筑先輩はお坊ちゃんですよね。様々なことに恵まれていながらその恩恵を自分自身にしか使おうとしない。僕の一番嫌いなタイプです」
「……ホント、はっきり言うね」
「嫌いは嫌いですからね。それに都筑先輩みたいなタイプは弱っている時に攻撃しておかないと通常状態での攻撃はダメージが当たらないんですよ」
じっとりとした視線で僕を見つめてくる都筑だったが、その視線はそれほど気にならず、本当のことですからと笑顔を向ければ、都筑は少し口を尖らせて不満そうな表情をみせる。
「別に恵まれてないし、恩恵って言われてもな」
「生徒会長で、学園長の息子で、なんでもかんでも自由じゃないですか。一般生徒を顎で使うぐらいですものね。恵まれてないなんて喧嘩売っているのかと思われて殴られても文句はいえませんよ? でも、価値観なんて人それぞれですからね、僕は僕をもう使わないと約束してくれればそれで良いです」
「そこまで言われて使うと思うか? っていうか、そこまで言わなくて良いだろ。悪かったと思っているよ。でも知っている連中なら絶対に届けてくれないし、俺が行くとどうなるかは分かるだろ?」
大きくため息をついて情けない顔をしている都筑を見ると、なんだか少し勝ったような気がして気分が良くなった現金な僕は、都筑先輩にちょっとアドバイスをしてみることにした。
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