第7話
教室に戻って席に着き数分した後、後頭部に人の気配を感じてちらりと視線をそちらに向けた。
そこには相変わらずの笑顔を見せる知哉がいて、どこに行っていたのかと聞いてきたが別にと答える。
知哉は僕がどんな態度をとっても笑顔を崩すことはない。
人当たりが良く温和だと周りには思われているようだが、僕はこの笑顔はあまり好きじゃなかった。
相変わらずの笑顔を向けてくる知哉から、視線をそらしかけてそういえばと思い出したように聞く。
「知哉、都築琢磨って言う三年知っているか?」
「……敦巳、知っているかってレベルじゃないでしょ」
少々驚き呆れたような表情でため息混じりに言ってくる知哉に、首をかしげて見れば知哉はさらにため息を吐き出した。
「都築先輩は現生徒会長でしょ。それにいろんな部活動で活躍していて有名人じゃないか。女子で都築に惚れなかった子は居ない、この学校の女子は都築一目惚れ現象を必ず通るって言われているんだよ」
「……なんだそりゃ」
今度は僕が呆れたような気持ちになった。あれのどこにそんな魅力があるっていうんだろう? ただの自己中男じゃないか。
「その様子じゃ知らなさそうだね」
呆れる僕に知哉は僕以上に呆れた表情を見せて生徒手帳を取り出した。
最後の学園の情報が書かれた場所を開き、僕に向かって突き出しながら指ししめしたのはこの学校の学園長の名前。
「都築重臣学園長。あぁ、もしかしてこれって」
「そう、都築先輩の父親。やっぱり知らなかったの? これだって同じ都築姓だから入学のときに話題になって、本当にそうだったってわかった時はクラス中でちょっとした学園ドラマだ! って騒ぎになったじゃないか」
「そうだったか? 覚えてないけど、そうか、生徒会長だったのか。なんとなく知っているような感じだったんだけど思い出せなくて。全校集会の最後に話していたから少し覚えていたんだな」
「敦巳は本当に自分の興味ないことは、まったくといって良いほど記憶しないね。ある意味うらやましいよ。でも急にどうしたんだい? 都築先輩のことを聞いてくるなんて」
当然のことながら、知哉に屋上のことを知られるわけにはいかない。屋上が出入り禁止だからということもある。が、そんなこと知哉は口止めすれば絶対に教師には言わないだろう。
それよりも教えて唯一の憩いの場にまで知哉が現れるのはごめんだった。加えて都築から受けた依頼は誰にも言わない約束をしている。
「さっき、ホログラ部の嫌味を言われたんだよ。でも、なんか見たことあるような知っているような気がしたけど誰だかわかんなくて」
知哉はホログラ部の名前を聞いて少し空気を唇から漏れ出させながら笑い、「そうだろうね」と言った。
「噂じゃこの学校の部活動が盛んなのは都築先輩が小学生の時、学園長に『僕はいろんな部活動を経験してみたい』って言ったのが始まりだって話だし、何よりあの人は活発な行動をしない人を嫌うから」
「迷惑な話だな」
「嫌ならこの学校、受験しなきゃ良かったのに」
まぁ、もっともな意見だ。
この学校がこんなところだということに僕が気付いたのは入学してからだった。
こんな学校だとあらかじめ知っていたらきっと受験はしなかっただろう。
当時の僕の条件は、僕の偏差値で合格できる圏内の、しかも自宅から離れ寮生活をできる場所。当然のことながらスポーツ推薦のようなものも僕には利用できない。それらの条件を満たした高校がここだけであり、ある意味僕には選択肢がなかったとも言える。
知哉は「科学部」「機械駆動部」「ロボット部」と三つの部活動に参加しており、充実した毎日を送っているようで、そういう面で見てみれば僕はこの学校に来るべきではなかったのかもしれない。
だが、そんな学校にも僕のような人物のための部活動が存在しているのだから、必ずしも知哉や都築のような連中がこの学校を選んでいるというわけでもないのだ。
口元に少し笑みを浮かべてそうでしょう? といってくるような瞳に向かって反論しようと口を開いた瞬間チャイムが鳴り響く。あわただしく皆が席につき、教師が教室に入ってきたので僕はそのまま何もいわずにため息だけ返して前を向いた。
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