第37話

「またとぼけるの? そういうタイプは嫌いだわ」

「とぼけてはおらぬ」

「そう、じゃぁ何も知らないお馬鹿さんなのね。自分たちのことばかりの連中は大抵そうよ。自己の周りのみを見つめるから、知っていて当たり前の事も知らないし、他者の視点で見ることは決して無い。視野が狭くて目先の利益ばかりを追い求め、『どうなるか』という誰もが考えられる未来すら見えてないのだから始末におえないわ。まぁ、『悪いこと』なんてひっくるめて行ったりはしないけど私は嫌いだしいけ好かないわ」

「貴様の持論を述べよとは言っておらぬ」

「これでわからないなら相当ね。本当にさっきまでの連中と違ってあんたは一番いけ好かない。だから教えてあげないわ」

「ほぉ、ならば消えろ。貴様を必要だとは思わぬ」

「あら、横暴ね。自分が知りたいことを言わなければ消えてなくなれって? 嫌いじゃないけどそれを私に対してやるのはムカつくわ。姿も現さずにこの私に命令するなんてくそったれね」

「消えろ」

 静かな声とともに姉貴の体が足から徐々に消えていく。

 姉貴はそれを見て「あら」と一言言って大きく笑い、俺を見つめて「じゃ! またね」と力強い瞳を向けて消えてしまった。

 全く、最後の最後まで面倒事は俺に放り投げてしまうのだから仕方のない姉貴だ。俺も面倒だと思うが、姉貴がまたねと言った以上、俺は姉貴に命令されたも同じ。

 やれやれとため息をつきつつ、姿を見せない連中の声がする方をしっかりと見据えた。

「さて、貴様はどうする?」

 案の定、聞いてくるだろうなと思った用件で彼らは訪ねてくる。

「それは俺のセリフだな。あんたたちはどうするんだ?」

「なんだと?」

 先ほどまで黙っていた俺が、神様に従順だとでも思っていたのか、酷く驚いた口調で聞き返してきた。

 黙って成り行きを見ていたのは姉貴がしゃべっていたからであって、別に神様の存在に驚き慄いていたからではない。俺にとって、神様と姉貴を比べた方程式を出すならば、神様より大きい姉貴ということになる。さらに言えば自分より小さい神様伴っている。どう比べても、目の前の神様を名乗る神様は誰よりも低い位置にいて、連中とは方程式が若干異なるのだ。

「姉貴も言っていただろう? あんたたちは俺達が認識することで存在していたんだ」

「まだ言うか。貴様も消えたいと申すのだな」

「分かってないのはそっちだよ。と言うよりあんたが分かってないのか。ざわついている神様連中の中ではわかっている奴も居るんじゃないか?」

「何?」

「今、俺達のという人間は俺一人になった。俺があんたたちを否定すれば存在はなくなる、姉貴のように俺を消しても結果は同じ。さて、あんたたちはどうするんだ、いやどうしたい?」

「あんな女の戯言を貴様も信じていると? 姉の言うことは全て正しいか」

「姉貴はあんなやつだし言うこと全てが正しいとは思わないね。あれはメチャクチャだからね、姉貴だからなんて言ってその通りの行動をしていたら俺はとんでもなく最低な人物になっていたと思うよ。ただ、さっきの姉貴の考えは俺の考えと同じ、俺は誰の意見でもない自分の意見を大事にするからね。じゃ、分かってないあんたに質問だ。幾ら自分主義のあんた達でもお仲間の人数ぐらいは知っているだろう? 姉貴が消えてそのお仲間の人数はどうなった?」

「人数が何だというのだ?」

「今こうして俺と話しているあんた達はメジャーでその本質を俺が知らなくても名前は聞いたことがあるから残っているんだ。俺の意識しない部分で記憶となって残っているという感じかな。姉貴はあぁ見えて知らないことがあるのが許せないタイプだったからな、俺以上に神様ってやつを知っていたはずだ。それは俺が知らない神様を姉貴が知っていたということになる。姉貴を消したことで神様の人数も大幅に減ったんじゃないのか?」

 俺の言葉に辺りのざわつきはひどくなった。さんざん人間を間引きしておいて自分が間引かれると騒ぐとは、流石人間の作り上げた出来の悪い神様だ。

「そんなことが? おい、あいつはどうした」

「姿が見えんな、先程までは居たはずじゃが」

「では、あの者が言うことは、本当なのか?」

 口々に生存確認をし始め、実際に存在が確認できない事実が浮かび上がると狼狽え始める。

「先に姉貴を消したのは間違いだったな。俺ならば、ほとんどの神様が残っていただろうに。でもこれでわかっただろう? 俺や姉貴の言うことの真実が。さぁ、どうする?」

「神である我々と取引しようというのか」

 酷く低く、まるで威嚇でもするような声色で言ってくる神に、俺は呆れてため息を吐出した。

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