第36話

 俺も姉貴とは珍しく同意見であり、姉貴のリズムある返しが楽しくて仕方がなかった。

「当たり前、だと?」

「誰かが何かを作り上げる、それは当然のことだわ。でなければ、人間がこの地球でこんな文明を持つことはなかったと思うもの。でもね、別にそれを生み出した人が創造主でありえるわけじゃない。関係ないと思えるものも意外につながっていて、一つの歯車がなくなればそれは動かなくなるのよ」

「例えそうであっても、生み出したのはお前ではないという事実は変わらん」

「本当に馬鹿なのね、これでわからないなんて。貴方達だってこの世界に存在し続けてこられたのは作った人だけじゃない、他のいろんな人が存在を認識していたからでしょ。存在っていうのはね、自身やたった一人では確立できないものなのよ」

「一体何の話だ」

「いやね、とぼけちゃって。貴方達だって同じことをしでかしたそうじゃない。平等の名のもとに余計なお世話をしたって聞いたわよ。そうね、わからないって言うならわかりやすくしてあげましょうか?」

 姉貴は俺の方をむき口の端を引き上げ、悪魔の様な笑みを浮かべて公言する。

「例えば私とこの愚弟がここで貴方達の存在を否定したらどうなるかしらね」

 姉貴の一言に周りの神々がざわつき始めた。

「貴様らが我らの存在を否定したからといって」

「消えるわよ、確実にね」

 ざわつきながらも、威厳を持った声で姉貴の提案を否定しようとしたが、間髪入れずに姉貴が断言する。

「我らは神だ!」

「そう、私達の意識が作った神よ。貴方達はどの時代どんな物語であろうと人間が作ったことには違いない。進化をさせたのも人、こうして神の如き力をもっているのも人がそういう設定にしてあげたから。すでにこの世界に人間は私達しか居ないのでしょう? だって特権は私達だけにあたえられるのだもの。だとすれば私達『人間』に認識してもらえなければ神は消えるわ。なんであれ、信仰ってそんなもんじゃない」

「戯言だ!」

「しつこいわね、戯言のわけないじゃない。この場で冗談なんていう暇あったらとっとと消えているわよ」

「何でも与えようという我らを消すというのか? ふん、強がりはやめておけ」

「そうだ、人間は欲深い、それは我らがよく知っている」

「そりゃそうよ、貴方達が知っていて当然のことだもの。貴方達がこうして形作られたのは欲があったからこそ。言ってみれば欲から生まれた者が欲を知らないなんてあり得ない。当然私も欲深いわよ、だって人間だもの」

「ならば素直に与えられることを喜び、黙って受け取ればよいのだ。我らを消すなど戯言を」

 姉貴は確かに欲が深い。

 だが、欲にも種類がある。姉貴は自らが勝ち取ることに対して貪欲だ。他者から与えられることに欲を出すことは無い。というより、与えてやるというように上からの言い方をすることは姉貴のプライドを傷つけることになり、益々立場が悪くなるのに馬鹿な神様たちだ。

「あら、やらないとでも思っているの? 本当に気楽な神様ね、自分たちは神様だから消えないって? 彼らのように何かにつながることもしてない、何かとつながることを重要と考えていないお前らを消すことなんて楽勝よ。まぁ、この愚弟が微塵も思わないようにしないと駄目なのは難しいかもしれないけどね。こいつは本当に単純なくせに思考家だから」

 ちらりと呆れたような視線を送る姉貴の言いたいことは痛いほどわかる。

 俺は現実にそうなっていることはそのまま現実として受け入れてしまう方だ。だからこの状況も受け入れているし、それはとても単純なこと。さらに色々考えこむたちだから考えないようにしようと思うことも考えてしまっていることになって忘却というのが難しい。神々と名乗るそれなりの力を持った者が居るのだから居るのだろうと思ってしまっている今、それを覆すのは中々難しいことだ。

「彼ら、何のことを言っているのだ」

 今までの声とは違い、一際低く威厳のある声が響き渡り、ざわついていた神々は静かになる。大ボス登場というところだろうか。

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