第33話

 あんな大きなキャンピングカーで走り回れば標的になるのは必然。姉貴は殺すのは面倒であり、痛くつらいことが最も嫌だと思っているから殺されるのも面倒だと考え身をひそめることにして今ここにいるのだろう。

「でも、まさかあんたが生きているとはね。真っ先に狙われているって思っていたけど。で、あんたを親切にも閉じ込めてくれたのは誰なの? っていうか何処に閉じ込められていたのよ」

「話すと長くなる上に、姉貴は鼻で笑うことだぞ」

「あら、面白そうね、こんなことになって退屈していたのよ。ぜひとも話してもらいたいわ」

 普段なら鼻で笑うようなといえば、つまらないなら言わなくていいと引き下がるのだが、今回は瞳を輝かせてさっさと言えという雰囲気を出している姉貴。こうなると姉貴は喋るまでつきまとう。

 俺は渋々、花岡高校での出来事と自分が今まで気を失っていたことを話した。意外にも姉貴は興味深く聞き入って、話し終わるとじっと俺を見つめてくる。

「あんたの選択肢がなくなっているのはその木の中には入ったせいだったのね。なかなか面白いわ。その男と話がしてみたいのだけど、どこに行ったの?」

「どこって、今話しただろ。目が覚めたらこの状況だぞ、どこにいるのかって聞かれて俺がわかるわけがないだろ」

「使えないわね」

「悪かったな」

 言われなれているセリフだが久々に聞くとため息が出る。

「あんたがやすやすと戻ってきて、この家に入ってきたってことはほかの連中はいなくなったのね」

「死体はあったけどね。人の家を土足で踏み荒らした連中がどうなったかは知らないけど」

「ほんといい迷惑だわ。でも親父様のおかげで助かっちゃった。理性がぶっ飛んだ連中を相手にするのは面倒だもの」

 姉貴はそういって外に出て大きく伸びをし、窓ガラスの無くなった窓から外を見る。

「窓も何も無い隠し部屋って息がつまりそうだったのよ。あら、死体に抜け殻、人の家の前で迷惑ね」

 姉貴は一階に下りて、散らかされたリビングを指さしながら片付けておいてと俺に命令し、自分はさっさと風呂場に向かった。俺はため息をつきつつ、確かにある程度は片付けないと生活が出来ないと片付けを初める。暫くすれば、あの妙な臭いをまとっていた姉貴が、石鹸の香りに包まれて風呂から上がり、片付いたソファに腰を下ろした。

「風呂あがりの一杯、といきたいところだけど、冷蔵庫は壊れているみたいだし、我慢するか」

「買って来いって言われるのかと思ったけど」

「馬鹿ねぇ、このあたりの食料は殆どなくなっているのよ。あんたの買い置きがなかったら私だってさっさと消えていたもの」

「え? ということは食料残ってないとか?」

「殆どね。ちょうどいいからこのあと街の見学しながら買い出しに車でいきましょ」

 姉貴の言葉にそうだなと頷いた時、俺と姉貴は妙な青白い光に包まれる。足元からは切りのような靄が沸き立ち、俺と姉貴は黙ってその様子を見つめながらため息をついた。

「今度は何が始まるんだ?」

「さぁね。でもこの唐突で有無をいわさぬ、ありきたりな演出は連中が何かしているのでしょ」

「そうとしか思えないけど、にしてもこのベタな演出はどうにかならないのか」

「ソーシャルゲームの受け売りなのだから仕方ないじゃない? 私は演出はどうでもいいわ。楽しい趣向かどうかが問題よ。楽しくなきゃ許さないわよ」

 そう言って腕を組む姉貴を見て更に俺はため息を漏らす。この女は、どんな状況になろうとも動じない、なんてかわいげのない女だろうと思ったからだ。とはいえ、そういう姿を見せるのは俺の前だけで、ここに別の誰かがいれば悲鳴の一つも上げてうろたえた演技を始めるのだろう。そう思ってもう一つため息をついた瞬間、俺と姉貴は白い靄に完全に包み込まれ、発光する青い光の強さに瞳を閉じた。

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