第32話

「ただいま。っていうか、ここがわかるとすれば俺ぐらいなもんだろ」

「まぁそうなんだけど。貧弱なあんたが生きているとは思わなかったから」

「貧弱で悪かったな。っていうより姉貴臭いぞ」

「仕方ないでしょ。三週間ずっとここに閉じこもっていたんだから」

「いったい何があったんだ?」

 あの男が見つからない以上姉貴に聞くのが一番手っ取り早い。

「何って、あんた知らないの? あんな騒ぎになって知らないなんて今まで何処に居たのよ」

「説明しにくいけど、簡単にいえば閉じ込められて気を失っていた。さっき目が覚めた所」

「よくわかんないけど、お気楽に寝ていたのね。まぁいいわ、説明してあげる。神様がね、癇癪を起こしたのよ」

「癇癪って。一体何に」

「一定量から一向に減らない人口に。あの選択方式である程度は減ったけど、そりゃあんな方法だもの、劇的に人減らしするには向いてないでしょ。それを自分でやっておきながら『あの選択肢のシステムはあまり有効でない』って怒っちゃったの」

「それは、見事な癇癪だな」

「それで猛々しい神様がね、手っ取り早く選定しようって言い出して、持ちだした方法が殺し合いだったのよ。ほら、あったじゃないそういう映画。でもさすが神様でね、殺せとは言わなかったのよ」

「殺し合いを提案したんだろ?」

「神様だもの、殺せ! なんて言える訳ないじゃない。遠回しに『人数が減れば早くこのゲームは終了する』とか『一人減ればその分願いを多く叶えられる』とかいつものように雑談をしているように言いながら煽ったのよ。あれを聞けば、精神状態がぎりぎりの人間はこんな状況いち早く抜け出したいから殺しに走るわよね。人数が減ればこの消えるかもしれない恐怖と隣合わせのゲームは終わる、そして終わった時に消えずに自分が残っていればどんなことでも願いを叶えてくれるのだもの。私やあんたは変人だからそんなこと言われても別に何とも思わないでしょうけど、普通の人間はやっちゃうでしょ」

 確かに、俺や姉貴のような変わった人間であれば何とも思わないだろうが、おそらくほとんどの人間は極限状態で過ごしていたはずだ。そこにそんなことを言われれば苦痛と思っているものは逃げ出すために、欲深いものはより多く願いを叶えてもらうために神様の手先としてあくせく働くだろう。

「で、さらにこの仕組の巧妙なところは、人殺しをした人間は自分は悪いことをしたって思うか、自分は良いことをしているんだって思っちゃうところ」

「あぁ、なるほど。その瞬間そいつも消えてしまうという構造か」

「そう。神様的には一石二鳥よね。神様の思惑通り、さくさく間引きは進んでいるはずよ。情報が入ってこないから今どれだけの人間が存在しているのかは知らないけどね」

「姉貴、スマホは? あるなら貸してくれよ」

「無駄よ、もう誰も発言なんてしてないわ。どの国の、何処のサイトも全滅よ」

 姉貴は自分のスマートフォンを俺に向かって投げ渡しながら、大きくため息をついた。

「だけど結構つまんないことしてくれたなぁって私的にはちょっと不満だわ」

「まぁ、それには同意する」

「でしょ~、ほんと、なんの為に生き残っていたと思っているのかしら?」

 確かに姉貴にとっては不満だろうし、俺ももし気を失わずにいたなら落胆していただろう。

 さすが人間が作り出しただけあってつまらない選別をする。

 姉貴は人が少なくなって何もかもやり放題な状態で、いろいろ旅行気分を楽しむつもりだったのだろう。しかし神が妙な提案をし実行されてしまったため、舌打ちをしながらここに帰ってきたのだ。

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