第31話
それらはすでに腐敗し、中には一部白骨化しているものも在る。先程感じた異臭はこれも含まれていたのだろう。
「どういうことだ、神の仕業なら死体は出ないはずだろ」
すでに人が減っていたためかそれほど多くないにしても、人間の死体が在るということはあの神々の仕業ではない。奴らの作った妙なシステムであれば身に着けているものが残っても、肉体が残ることはなく、こうして異臭を放つこともなかった。
いったい何が起こったのか。
俺はわけがわからないまま自宅にたどり着く。すると自宅の前には姉貴のキャンピングカーが止められていた。
「帰ってきていたのか。まさか別の人間とか、死体で帰ってきてないだろうな」
窓から車の中を見ても姉貴がいる様子はない。鍵はしっかりかけられてあるが、何かで殴られたのか、車体には凹みが多数あった。
「暴動でも起こったみたいな感じだな」
周りの変わりすぎた雰囲気に少々用心して玄関に向かう。
「なんだよ、これ」
玄関を目の当たりにして思わず息を飲み込んだ。そこには玄関と呼べるものはなくなってしまっている。玄関から横、庭のほうを眺めてみれば玄関同様入り口という入り口は全て破壊されてしまっていた。
庭に散らばるガラスを横目に、すでに扉も無くなって閉まっている玄関を入れば、家の中は土足で踏み荒らしたような跡が多数ある。家具は倒れ、泥棒が入ったと言うよりは大地震でも来たかのように何もかもがめちゃくちゃ。土足の跡を見るに、天災が起こったのではなく、明らかに人間の仕業だろう。
俺が気を失っていた時間がどれほどだったのかはわからないが、その間に神々は人間から「倫理」をなくしたのだろうか。
一階を見まわってみたが、どの部屋も同じような有り様。
「片付ける気も起きないな。俺の部屋は無事だといいが」
そう呟いてふと、姉貴のキャンピングカーが停められていたことが気にかかった。もし、神様の裁定で消えたのなら抜け殻が在るはずだが、この様子ではそれを探すのは難しい。人間にというのであれば、死体があると思うのだが今のところそれらしい物は見つけていなかった。
姉貴が死んでいようと生きていようと別にかまいはしないが、死体をここで見つけるのだけは勘弁してほしい。家に帰るまで何体かの死体を見つけたがどれも腐敗していた。つまり姉貴が死体となっていたとすれば、それはすでに腐敗していて、とても面倒な状態だということだ。
とにかく一階には無いのを確認した俺は、ため息をつきながら二階へと向かう。姉貴の存在の有無を確かめる前にスマートフォンを充電して現在の状況を確認しようと、自分の部屋に向かっていたとき、小さな物音がして俺は足を止めた。
物音の後、辺りは静まり返り一瞬した気配もなりを潜める。
「あぁ、そうか」
俺はそういえば、姉貴はあれを知っていたんだったと思い出し、自室に向かおうとしていた足を親父の部屋へと向けた。親父の書斎に行き、本を傾けて隠し部屋に入れば、姉貴がちらりと視線をこちらに向けて俺を見る。
「あら、あんただったの。お帰り」
覚悟はしていたがあまりの臭さに鼻を指で抑えながら隠し扉を全開にした。部屋の中に溜まりに溜まった蒸れた臭いは一気に外へと放出され、空気の中に拡散していく。
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