第29話
「僕たちはそれぞれ小さな神様で名前もろくに覚えてもらっていないような連中ばかり。ゲームなんかでも雑魚の扱いをされることが多い。もとはバラバラ、同じような立場であっても生まれも由来もすべてがバラバラの集まり。そんな連中がまとまるためには何かしら結びつけるための力が必要なのだ」
「結びつける力って、神様同士神通力とかでどうにかなるもんじゃないのか?」
「僕達は多種多様すぎてね、同系統であればそんな必要もないのだけど。だから僕達は皆で考えて一つの結論に至った。それがここの学園ができる前から存在しているこの樹だ」
少し開けた場所に見た目から神聖な感じが湧き出している、空気が冷たく澄んだ場所にあったのは幾つもの木が重なり、うねりながら大きくなったであろう大木。見上げてもその樹木の先端は見えないほどに高く、幹の太さも何人もの大人が必要だろうと思わせるほどに太い。
「こんな木があったなんて知らなかったな」
「立入禁止だったし、外側から見れば小さな山があるようにしか見えないだろうからね」
ゆっくり近づいて、幹に手を当てればほんのりと温かいような気がした。
「ご神木っていうらしいね、この土地の持ち主が君たちの高校ができたとき絶対に売らないと言い張って、結局ここだけは高校の土地ではないらしいよ」
こんなところにこんな大きな樹があることも、そんないきさつがあることも知らない。確かにここは私有地だから入るなと言われていたし、真面目な連中が集まる進学校、規則を破るやつは少ないうえに、私有地に興味を持つやつもいなかった。
樹の幹に当てている俺の手の上に、男は手を重ねて微笑む。
「知っているかい? 樹というのはすべてとつながることのできる存在なのだよ。だから僕たちもこの樹の力を借りることでこうして一つに成っている」
「全てとつながる」
「大地と空をつなぎ、動物とすべてをつないで成り立っているのが樹なのだ。だからこそ、多種多様な僕達もつながることが出来て一つになれた」 言われてみればそんな気がしないでもないが、それが俺と何の関係があるのか。そう思っていると男は重ねている手を木に向かって押し込んだ。
「おい、何をするんだ!」
突然の出来事に、手を引き抜こうとしたがすでに手首まで木の中に入り込んでいる。
「君にはこの樹になってもらう」
「はぁ? 何を言っている。意味がわからないぞ!」
「さっきちゃんと説明しただろ。君には僕達の願いを叶えてもらわないといけない」
「自分勝手な言い分だ。俺は叶えるとも言っていないし、叶えられるとも限らない」
「僕達は神様だからね、自分勝手なのは当然。それに、君は叶えてくれる、僕達が選んだ人間だからね」
会話をしているうちに俺の腕は肩まで引きこまれている。男の抑えこむ手に加えて、木の中からも引っ張り込まれているようで、すでに俺自身の力で抵抗することは無理な状態になっていた。
「どうして俺なんだ!」
「それもちゃんと言ったけど。君は決して人のためになることはやらないし、自分のためになることもしない。自分勝手で残酷ではあるが人間としての情を持ち合わせている。連中に対抗するには連中に近くありながらも人間でなくてはならないからね」
「それなら俺じゃなくても適任がいる。基本的な性格は俺と変わらないが姉貴は俺よりも頭脳明晰だ」
「それは駄目。彼女は快楽を追求しすぎるし、彼らは非常に狡猾で慎重。彼女にこの役目は向かないのだよ」
「しかし! どうしてこんな状況にならなきゃいけないんだ」
「君は僕らが選んだ人間。奴らのお遊びに付き合ってもらっては困るのだ。消える可能性を低くしておきたいのだよ、色々と面倒になってきた彼らはきっと馬鹿馬鹿しい手段を実行するだろうからね」
同じ仲間だからなのだろうか。先程からまるで未来が見えるように話し、そして「困る」という言葉はこれから先、今まで通りに過ごしてしまえば俺が生きていてはいけないということなのか。
しかし、こんな一方的なやり方はいけ好かない。
「貴様らの希望通りにはならないかもしれないぞ」
「……それでも構わないよ。君の応えが僕達の答えだ」
少し寂しげな微笑みを見せた男は、俺の体を最後のひと押しとばかりに体全体で押し入れる。すでに抵抗できない俺は、なされるがまま木の中へと入り込み、体全体が優しく包み込まれ暖かさが伝わってきた。ガラスケースの中にいるように、外の様子は透けて見える。外からは一切見えなくなるのか、男は少し額を幹につけ、何かをささやいてきた道を帰っていった。
「くそっ、身動きがとれない上に、考えがまとまらない」
体全体から感じている暖かさのせいか、頭の中心がぼんやりして真っ白になっていく。それと同時に周りに無数に浮遊していた選択肢が端からぼろぼろと崩れ去った。今までは何をしても存在し続けたそれらが消えていくさまを閉じかけた瞼から覗き見る。
「頭が、動いていないからか?」
徐々に頭の真っ白な部分は広がりを見せ、最終的に目の前の景色すら真っ白になって、俺は眠るようにゆっくりと意識を失っていった。
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