第28話
「僕たちは存在はしていたけれど、元々人間たちの祈りや願いから生まれた存在だから、彼らのようにこの世界に干渉したかったわけではない。どちらかといえばそっとしておいてほしかったのだよ。消えるものは消えるし、残ったものも時にあずけて消えてしまっても文句はなかった。けどね、有名人の彼らは平等と言う名のもとに僕たちを引っ張り出したのさ」
「引っ張りだした?」
「認識があれば僕たちは存在する、だからメジャーな彼らが認識したのさ、僕達をね。それも自分たちの存在以上の存在感は与えないように注意しながら」
まったく、そういうところまでに人間じみているのか。人が何を望んでいるのかを考えることをせず、こうすることが平等であり正しいのだと勝手に判断して巻き込む奴は虫唾が走る。しかも、一番目立っていいのは自分であり、それ以外は引き立て役に徹すればいいと上から目線。
本人が望んでいないことをして本当に正しいといえるのか、平等とはいったい何を基準にして言っているのだ。自身の判断を基準にするのであれば、相手の判断も基準にすべきだろう。それこそが本当の平等だ。
俺はどうしてこいつらがほかの誰でもない俺に接触してきたのかがよくわかった。
そして、こいつらが俺に望んでいるものがなんなのかも理解する。だが、理解したところでそれは俺がこいつらに与えられるわけはない。俺は何の変哲もないただの人間なのだから。
「悪いが、俺はアンタ達の望みは叶えられないぞ」
「おやおや、貴方ともあろう人が気の弱いことを」
「そうは言うが、貴様らの望みは連中からの開放だろう? それは連中に合う位置まで俺が行かないとどうにもならないじゃないか」
俺が脱力のまま言えば、男は首を軽く横に振ってにっこり微笑む。
「言ったでしょう? 彼らは神でありながら人そのもの。僕達のような気持ちは持ち合わせていないのです」
「どういうことだ?」
「僕達は誕生してから悠久の時を存在してきました。故に時の流れは長くも短くもない。しかし、彼らはそうではないのです」
「人間臭いからな」
連中は人間臭い上に思考が非常に幼く自分勝手だ。人間でも長い時間待たされるのは非常に嫌であるし苛立つ。彼らは人間以上に我儘で自分勝手、俺よりももっと気が短いだろう。
「そんな彼らがこんな選定方法でじっくり待つということをすると思いますか?」
「無いな」
「そうでしょう。やがて彼らは現在の選択方式による選別がなかなか進まないことに苛立ち、手っ取り早い方法をとるはずです。早くて明日、遅くても二、三日中には」
「そうだとしても、俺がアンタ達の希望を叶えられるかどうかは別だろう」
「いいえ、彼らの次の集団はおそらく強硬なものになる。僕達は君がここに来なければ、こちらから君を迎えに出向くつもりでした。君をあの場所に連れて行くために」
「連れて行く?」
そういって目の前の男は俺について来いと言わんばかりの態度でクラブハウスを出て歩き出す。俺が学生のころから立ち入り禁止とされていた区画に足を踏み入れさらに奥へと歩いていった。
「ここは立入禁止だろう」
「どうして禁止なのか考えたことはないのかい?」
「無いな、別に不便は無かったから考える必要もないことだ」
「ふふっ、君らしいね。僕達はこんな姿になっちゃってからは人間のように生活するしか無くなっちゃってね。仕方なくこうしてこの場所に住んでいるのだ。ここは全部揃っていて便利だからね、でも実は便利っていうだけが理由じゃないのだよ」
都会の真ん中の高校のはずだが、道を進むにつれてまるで深い森の中を歩いているような、木々が生い茂って辺りは薄暗い。道らしきものはあるが獣道に近く、足元を確認しながら慎重に付いていく。
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