第25話
「本当に君は変わっているね。だから僕のお眼鏡にかなってしまったのだ。かわいそうに」
かわいそう、その言葉を聞いて俺は妙に納得する。
こんな奴に興味を持ってしまい、足まで運んで俺は何をしているんだとも思う。
こいつは一体何者なのか、俺が大きなため息を吐き出した時、わずかだが目の前の男の輪郭が陽炎が揺らめくように動いたような気がした。目の前の人間の輪郭が揺れ動くなどあるのだろうか。こいつの存在にまた怪しさが加わり、俺はじっと目の前の男の笑っているようで笑っていない瞳を凝視した。
こいつの存在を認め、見つめれば見つめるほど、男と空間の輪郭は曖昧になっていく。
「種明かしをしてほしいな。人外のものだから、なんて理由でもこの状況なら受け入れられる」
俺の言葉に少々瞳を丸くして、男はやれやれといった風に息を一つ吐き出した。
「ばれてしまいましたか。まぁ仕方がありませんね。この姿を保つのもかなり難しくなってきているのも事実ですし、貴方が現れたことで気に緩みが出てしまったのもある。そうですよ、僕達は人間じゃありません」
つくづく、俺は普通では無いのだと自分で自分に嘲笑する。
人間じゃない、その言葉に普通の人であれば何を言っているのかと機嫌を損ねたり驚いたり、茶化したりするだろう。だが俺はなるほど、そうだろうと納得し、どちらかと言うと変なもやもやしたものが消えてよかったと思っていたのだから。
「人間じゃない。なら何なんだ?」
俺の問いかけに男はただ笑顔を向けて答える気はなさそうだ。
「あと、気になるのは『僕達』という言い方だな。ついさっきまでは『僕』だっただろう。なのに正体がバレた途端に『僕達』とは。俺にはどう見ても一人に見えるのだがどうして複数形を使う?」
「やはり、貴方は変わっていますね」
男はそう言って微笑みを絶やさず、なくなりかけた俺のコップにお茶を注ぐ。
「僕達のことについて答える前に少々僕達からも質問があります」
「答える前ということは、答える気はあるんだな」
「それは勿論。僕達の存在を知ってもらわねば僕達が貴方に賭けた意味がなくなりますから」
また妙な言い方をする。賭けたとは一体何のことなのか。疑問は付きないが、とりあえず相手の出方を見ようと質問とは何か聞くことにした。
「貴方は、姿を見せず、人間たちに向かって今現在も課題を出し続けている神様達。あれが本当に神だと思っていますか?」
まるで姉貴のようなことを聞いてくる。
「本当の神、か。何を持って本当とするかに寄るんじゃないのか?」
「と、言いますと?」
「本物というのは比べる対象、本物が在ることで本物であるかを決定できる。だが、神様という本物に俺は巡り合っていない。本物を見ていないのに本物であると比べることは不可能だ」
「ではあれは、偽物だと?」
「それも本物という存在があってこそ偽物がある。だから決定させることは不可能だ。だが、俺自身の答えとしてはあれが神だとは思っていない」
「では何だと?」
「神様だろうな」
「おや、それでは矛盾していませんか? 貴方は神とは思っていないのでしょう?」
「思ってはいない。俺は一度としてそういう存在に会って居ないのだから、そうだといえることも、そうだと思うこともない。だが、連中は自ら神と名乗ったんだ。連中が何ものであろうと『神』と言う名称の存在であるのは確かだろう? それに、普通の現実ではあり得ない『不思議なこと』をやってのける存在でもあるからな、神を名乗ってしまっているのも当然かもしれないとは思っている」
俺の話を聞いていた男は何度か頷いた後、少し困った表情で俺を見つめた。
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