第24話

「それに君は僕と二回も会ったでしょう? それも、君にとって僕は色んな意味で印象的だったはず。その時、君は僕という存在を頭のなかに染み込ませていた。染み込んでいてくれればちょっとしたきっかけで君は僕という存在を確実に浮上させるのだよ」

 初めの出会いから完全に仕組んでいたのだ、そのように聞こえて俺の機嫌は更に悪くなった。レールを敷かれるのは一番嫌いなことだ。例えそのレールが至極正しくても俺は反発するだろう。だから、この男の正しく思えないレールをへし曲げたい衝動にも狩られていた。

 そんな俺の様子をわかっているかのように、微笑みを絶やさない男はさらに続ける。

「君は僕が知るかぎり、とても変わった人間だ。決して人のためになることはやらないし、自分のためになることもしない。そのくせ人のことをよく観察しているね。なんて気持ち悪い」

「アンタにだけは言われたくないな。アンタは俺以上に変わった人間だ」

「それはそれは、褒め言葉ですよ」

 嫌味が嫌味にならない相手ほど、胸糞悪いものはない。俺の言葉に笑みをひどくきつくして、人差し指を立てて俺を指差した。

「更に変わっているのは観察した結果を活かそうとしないこと。何のための観察なのか。普通はそういうことをして、弱みを見つけたとすればそれを利用しようとするものですけどね、意味わかりませんよ」

 それは姉貴にも言われたことだ。当然俺だって利用しようとは思っていた、ただその機会がなかったにすぎない。

 だが、こいつはどうして俺のことをここまで知っている。どこかで見ていたのか? 俺と同じように観察していたと? もしそうだとしても、おかしい点がある。俺がこいつと出会ったのはあのスーパーが初めて。

「そうですね、その通り。僕が君の前に形として現れたのはあれが初めてです」

 こいつは。

 ここまでくれば偶然などありえない。

 こいつは俺の考えを読む。俺が考える度、疑問に思う度、俺の周りには選択肢が浮遊した。しかし、こいつは俺の周りに俺の疑問の選択肢が現れるよりも先に俺の考えていることに答えている。そう、まともな神経で考えれば絶対にあり得ないこと。

「くすくす、そうですね、あり得ないこと。では信じませんか?」

「いや、その選択肢は、ない」

 俺は半現実主義者だ。

 自分が体験したものであればどんな理不尽で現実味のない内容でも信じる事が出来る。

 スピリチュアルだとかパワースポット、霊感などというものの存在もはっきりと否定したりはしない。そういう力を持っている奴も居るかもしれないし、そういう存在がないわけではないかもしれないと思っている。ただ、自分がそれを目の当たりにしていないから信じていないだけ。世の中は広いし、宇宙規模で考えれば自分の周りでのあり得ないことは小さな出来事であり、不思議でもなんでもないだろう。

 ただ、こいつはそう言った類のものと一緒にしてはいけないような気がしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る