第19話
あの姉貴に振り回され、さらに無理やり起こされたこともあり、酷く疲れている。
今日はぼんやりと過ごすことにしようと思った瞬間だった、家の電話が鳴り響いた。一度は無視したのだが、二度三度とかかってくる電話にきっと姉貴だろうと嫌々ながら起き上がって一階に下りて受話器を取る。
車のある場所がわからないとか、何かしらの姉貴の文句が浴びせられると思ったが、電話の向こうから聞こえた声は姉貴の声では無く、見知らぬ女性の声だった。
少々驚きながら聞いていれば、どうやら高校の時のクラスメイトの様子。俺は基本的にクラスメイトを覚えるのは苦手だった。興味の無いことは覚えないという性格が災いしてのこと。しかし、実際覚えなくてもあまり支障は無かったため、覚えようという努力すらしなかった。
聞けば、一年から三年まで同じクラスだった女子らしい。しかも、彼女はどの学年でもクラス委員長をしたという。覚えてはいなかったが、連絡が来たことよりも、俺はクラス委員をやった女子が消えていないことに驚いた。
どんな場所でどんな年代であろうとクラス委員長なんてものをやる奴は多かれ少なかれ、委員じゃない他の連中からしてみれば鼻持ちならないやつっていうのが定番だろう。彼女がどんな委員長だったかは覚えては居ないが、全ての学年で委員長をやったと俺に言ってくる様子でなんとなくどういう感じかは想像がつく。だとすれば、偽善者的な委員長は最初の段階で消えていると思ったのだ。
残念ながら覚えていない、知らないと電話を切ろうとしたが、待ってくれと懇願されたうえに彼女は会いたいと言ってくる。せっかく面倒が去ったというのにまた面倒が舞い込んできた。当然俺は外出予定は無いと彼女に伝える。
「じゃぁ、あたしが家に行くわ! お願いよ!」
「いや、それも迷惑。っていうかどうしてきたがるわけ?」
「一人が嫌なの、お願いよ」
あまりにも必死にすがってくる声にとうとう折れた俺は、家に来られるのは面倒だからと近くのコンビニ前で待ち合わせることにした。
全く、女と言うのは皆こうなのだろうか、こちらの都合などまるで無視、ろくなものじゃない。せっかく外出するのだからなにか食料でも調達して、本当に暫くは家からでなくていいようにしようと少々大きめの鞄を下げて家を出た。
こんな日に限って日差しは強く、暑さがアスファルトに跳ね返って汗が噴き出る。
コンビニが見えたところでこちらに向かって手を降ってくる女が一人。ぱっちりとした瞳に体のラインははっきりとした凸凹を表している、いわゆる美人の類に入るだろう女だった。俺の記憶をたどってみたがそんな女は一つも引っかからない。つまり、この女はたった数年で劇的に変化したということだろう。
見た目がいいから中身がいいとは限らない。俺はそれを姉貴で経験している。第一、今消えていない時点でそれだけの女ということが証明されている。それでも、おそらく大半の男はこの外見に騙されるだろう。
俺が元委員長に向かって近づいて行けば、彼女は怪訝な表情をし、眉間には沢山の皺が現れた。
「わざわざ来てやったのに、何、その顔」
「来てやったって、相変わらずね貴方。それにこんな顔になって当然でしょ、何よそれ。どうしてそんなに浮かんじゃっているの?」
俺の周りに浮遊する選択肢を指さしていってくる元委員長。
「どうしようと俺の勝手だ。迷惑かけてないんだから気にする必要はないだろ」
全く選択肢が浮かんでいない委員長からすれば、選択肢だらけの俺の姿は異様に映るらしい。
面倒くさい女だと思いながら、元委員長の横を通り、コンビニに入る。すると慌てたように俺の後ろをついて元委員長もコンビニに入ってきた。
「ごめんなさい。ちょっと気になっちゃっただけだから」
「別に、気にしてないけど」
「そ、そう?」
自分の都合で態度をころころ変える。人を気遣っているように見えるが、実際はそうではなく、自分の都合、相手のことなどまるで考えていない。食料を袋に詰める俺の後ろをついて回ってくる元委員長に鬱陶しさが増していく。神も人を消す際にまず女を消せばよかったのじゃないのかと思ってしまうほど、俺には女運が無いとため息をついた。
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