第14話
「何?」
「決まっているでしょ。鍵よ、鍵」
「キャンピングカーなんて持ちだしてどうするつもりなんだ?」
「こんなことになったしさ、一つの場所にいてもつまんないでしょ? 旅行もいいかと思ったのだけど旅館とかやっているわけがないじゃない、人が居ないのだもの。で、そういえば親父様がとってもいいもの持っていたなぁって思いだしたの。あとお金も頂戴ね。セルフのガソリンスタンドってお金がないとガソリン入れられないんだもん」
ちゃっかりしていると姉貴に感心しながら玄関から一歩家の中に入って俺は唖然とした。まるで泥棒でも入ってきたように家の中がめちゃくちゃになっている。俺は隣で素知らぬ顔をしている姉貴に視線を送った。
「何、これ」
「仕方ないでしょ。久しぶりだから色々わかんないことだらけだったんだもの。あんたが私に会いたくないのは分かっていたし、鍵とお金だけもらってさっさと出て行くつもりだったのよ。でも鍵どころか車も車庫には無いし。仕方ないから町を見学しながらあんたを探していたの」
やることなすこと、がさつすぎる。身近な女がこれと親父に怯える母親だけなのだから、女性不信になって当たり前だ。
「ちゃんと片付けていってくれよ。一人でもゴミ屋敷に済むのはごめんだ」
「あんたがやればいいじゃない。得意でしょ、こういうの」
「ふざけんな。自分の始末は自分でつける、が主義じゃなかったのか」
「はぁ、頭が回るようになっちゃって、可愛さすらも無くなったわね」
よく言うよ。姉貴にとっての「可愛い」は自分の言う通りに動くこと。何も分かってなかった昔ならいざしらず、今もそうだと思っている事自体が間違っている。
ため息を付きながら姉貴に指示を出して片付けをさせ、片付け終わってから親父の部屋に向った。
親父の部屋は二階の一番奥。親父の部屋に用事がなければ、誰も部屋の前を歩くこともない場所。親父はこの家をたてるとき、誰かがドアの前までくればすぐに分かるようにそういう間取りにしたのだと自慢していた。俺にしてみれば、そんなことをしなくても人感センサーを取り付けて部屋に受信させれば済む話だと思うのだが、親父にその発想はなかったのだろう。
自分の許しなく、入ってくる事のないように設けられた部屋には勿論鍵がかかっているのだが、見事に鍵がドアノブごと壊されている状況に呆れ果ててため息すら出てこない。
「姉貴は一応女だろ? 何、この乱暴極まりない開け方」
「しかたないじゃない、鍵がかかっていたんだもの」
「それじゃ、まず鍵を探せば?」
「だから、あんたが会いたくないと思ったからさっさとことを済ませてあげようとしていたんじゃない。それに面倒だし、鍵を探す手間と時間を考えれば、こっちのほうが手っ取り早いわ」
やれやれと、姉貴の言い分を聞きつつ、それならきっとこの部屋もと覚悟をして開けてみれば、案の定、散乱した非常に荒らされた状態だった。姉貴に黙って視線を送る。
「なによ、もう一度言わせる気? それにここは別に片付けなくてもいいでしょ。あんたが使うわけでもないし、目に入る場所じゃないじゃない。それにしても、どうしてここに来るのよ」
「片付けなくても良いけど、もう少しやり方があるだろ、全く。それに鍵はこの部屋にあるんだよ」
「嘘! だって結構隅々までひっくり返してみたけど無かったわよ?」
姉貴は自分が誰の娘であるかをわかっていない。誰の血筋として生まれてきたのか、それを考えれば自ずと分かりそうなものだが、自分がそうであると他者のことはわからなくなるのかもしれない。
親父の本質はとても子供っぽいのだ。
「姉貴はそのガサツで注意力がない所が欠点だよな」
「何よ、いきなり」
「少し考えれば分かることなんだよ。俺より姉貴のほうが頭がいいんだから」
そう言って俺は部屋を入ってすぐ右の本棚に向かい、そこにある如何にも作り物な本を引き出す。すると錠が外れるような音が響いてドアが出現した。俺の様子をただ黙ってみていた姉貴は隠し部屋が現れて大きな声を出す。
「何これ! こんなの物語の中だけで存在すると思っていたわ!」
「親父、こういうの結構好きなんだよ。秘密基地とか作るのも好きなんだぜ。自宅以外に三つほど秘密基地を持っているからな」
「へぇ、知らなかった。あの偏屈にそんな子供っぽい面があったのね。でも、あんたよく知っているわね、絶対部屋に入れないし、そういう話はしないでしょ?」
「情報提供者がいるんだよ、外の出来事に関しては。それにこの部屋は一度でも入ったことがあれば疑問に思うだろ?」
「……別に?」
「だから注意力が無いって言っているんだよ。この部屋の広さに対して、外観から見た時のこの場所は大きさが全然違うだろ」
「そうかしら? そんなこと、興味もないから考えたこともなかったわ」
感心しながら隠し部屋に入っていく姉貴。普通にこの家の間取りを考えればここに何かしらの部屋があるだろうということは誰だって想像がつくはず。加えて親父の性格を考慮すればこういう仕掛けがあることはなんとなく感じ取ることだ。
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