第33話

 色々ありすぎたので念のため、真由美に学校をもう一日休ませていた登紀子だったが、昼食の時には真由美のほうからもう大丈夫だからと明日から学校に行くことを告げられ、登紀子はホッと胸をなでおろす。

 夕方になり、庭に水を撒いていた登紀子の目の端に自分の家に向かって走ってくる制服姿の男子の姿が映りこんだ。

 時間的には学校が終わってすぐ位の時間。

 こんにちはと挨拶をした後、自分の名前を言ってお辞儀をしてくる竜也の姿は登紀子にとって予想外。

 セックスのときだけは人が変わると聞いていたが、こんなに礼儀正しい子だとは思っていなかった。

 それに、中学生の頃は帰宅部だった竜也も高校生になってからクラブ活動をしていると聞いていて、やってきても遅い時間だろうと思っていた、なのにこんなに早くやってくるとは、これまた予想外。

 登紀子は少々面食らったがすぐに家の中に入ってもらいリビングに通した。

 当然のことながら竜也は緊張している。

 真由美に呼び出されたが出迎えたのは母親で真由美は一向にやってこない。自分の目の前にお茶を出した登紀子に真由美のことを聞こうとしたとき、先に登紀子が喋り始めた。

「真由美はね、今お遣いに行ってもらっているから居ないのよ。それに竜也君を呼び出したのは真由美だけど用事があったのは私だから」

 お茶を一口飲んで笑みを浮かべて言う口調はとても静かで、竜也は自分の中にあった不安が膨らんでいくのを感じ、親に呼び出されるということはたぶんあのことだろうと検討をつけ、どんな言い訳をしたものだろうかと考え込む。

「そうそう、先に竜也君の不安をぬぐっておかなきゃね。昨日真由美と産婦人科に行って診てもらったんだけどあの子妊娠はしていませんよ」

 竜也の先手を打つように言った登紀子の言葉にほっとしたが、同時にやっぱり彼女の母親に自分の行為がばれていてそのことについて呼び出されたのだと、心臓がどくりと跳ね上がった。

「まぁ、今日はそのことも含めて竜也君に聞きたいことがあってきてもらったんだけど……」

「すみませんでした!」

 登紀子の静かな物言いは竜也にとっては責められているようで、耐え切れなくなって大きな声で謝りその場に土下座する。

 突然のことに驚いたのは登紀子のほうだった。

 まだ本題にも行っていないのに、突然勝手に自分で終着しようとして謝り、頭を床につけている竜也にため息をつく。

「確かに謝るようなことを貴方はしているけど、たぶんそれは私が謝ってほしいこととは別のことで謝っていると思うのよね。竜也君、貴方はいったい何に対してそうやって謝っているのかしら?」

「それは、えっと。真由美さんにそういうことをしてしまっていることに対して」

「あら、竜也君はいちいち好きな子とセックスするのに親に了解を得るの? それとも真由美のことは好きでもなんでもなくって、ただ性欲の吐き出し口にしちゃったからごめんなさいって言うことかしら?」

「吐き出し口になんかしていません! 真由ちゃんのことは本当に好きです。意地っ張りだし男っぽくて料理とか掃除とかあまり得意じゃないけど、僕には持ってないところをいっぱい持っていて明るくて大好きです」

「あらあら、よく分かっていること。だったら謝らなくて良いわ。私は別にそのことを言おうとしているわけじゃないから。好きになった男女がそういう行為をするのは自然なことだし、何より男はそういうつながりを求めたがるでしょ。だから好きでもないのにやりたいと思ったからやりましたって、繁殖期の動物みたいなことをしでかしたって言うんでなければそこを責めたりなんてしないわ」

 てっきり、高校生という子供の分際でセックスをしたことを怒られるのかと思っていた竜也は、登紀子が意外にもそれに対しては寛容な態度だったことに驚きつつ、ではいったい何の話があるのだろうと床に正座をしたまま顔だけを上げて登紀子を見た。

「話の本題に入る前に、竜也君はセックスの方法をどこでどうやって教わったの?」

「え?」

 唐突な質問に竜也は目をまるくして驚く。

「前の彼女に教わった? それともお父さんとか?」

「そ、そんなこと聞いてどうするんですか」

「とっても大事なことよ。ちゃんと答えて頂戴」

 妙な質問をしてきていたが登紀子の様子は真剣で、茶化しているようには見えない。

 竜也はいったいこの話のどこがどう大事なことで、登紀子が話したいと思っている本題と何の関係があるのだろうと思いながら、少し恥ずかしさもあって下を向いて答えた。

「アダルト系のそういうものみたりとか、男友達から聞いたりですけど」

「……やっぱりね。そうじゃないかとは思っていたんだけど。あのねぇ竜也君、貴方のセックスは間違っているのよ。私はそのことを話したくて貴方を今日ここに呼んでもらったの」

「間違い? そのことをって?」

 登紀子はカーペットに正座したままの竜也にソファーに座るように促し、竜也が座ったのを確認してから一枚の写真をテーブルの上においた。それは全体的に赤く、ところどころに丸印がついている写真。

「これはね、真由美の膣の写真よ」

 そういわれて竜也は一瞬体を引いてしまう。

「何、グロテスクだからって引いてしまったの? いまさらそんな風になることが私にはわからないわ。貴方は真由美とセックスしたんだからこれ以上にいろんなところを見ているでしょ。これはただ中身の写真であって貴方が体をのけぞらせるようなものじゃないわ。セックスをしておいてその反応を娘の母親に対してするのは失礼よ」

 厳しい物言いに思わずすみませんと頭を下げて謝った竜也。

 登紀子はそんな竜也の目の前に写真をおきしっかり見るように言った。

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