第38話 [カショウ]中庭

オンダは中庭にぼーっと立っていた。


「あの子さぁ、昔のスムに似てるんだなぁ」


オレたちが近づくと、オンダはぼそっとそう言った。


「自身なさげでさぁ、謙虚でさぁ、化粧っけもなくてさぁ」


「スムさんって昔そんな感じだったんですか?」

シオが興味を示す。


「それが今じゃ、あんなキビキビしちゃって」


「人って変わるもんなんですね」


「それがそうでもないんだなぁ」


どっちだよ!オレは心の中でオンダに突っ込んだ。


「外側は変わっても、中側は変わらんのよなぁ~……」


そう言って歩き出した。


「ところでどう思う?スムさんのプラン」

何となくもやっとするので、シオに訊ねてみた。


「うーん、そんなに予定通りに行くかなーって心配はありますけどね」


「そうなんだよなぁ~。オレなんか、ほっときゃいいって思うけどなぁ、人のことなんて」


「オンダさんはどう思います?」


「俺もようわからんが、もう後に引けない感じはするね」


この三人は概ね同じ意見だった。オレたちは唸るしかなかった。


「女って、なんかめんどいよね」

さっきのスムがサタと重なり、オレは思わず本音を言った。


「そんなレッテルは良くありませんよ。ひとそれぞれだと思います、性別じゃなく」


「じゃあスムさんがめんどくさいってことだな」

シオが生意気なことを言うので、オレは言い返した。


「いや、そういう意味じゃなくて!」


「まあそういうのもあって、なんやかんやで世の中回ってんじゃない?しらんけど」


オンダ。こいつはいつもタバコの煙ようなふわっとしたことを言う。そして他人事だ。


「あー……」

シオが締まりのない声を出す。


そこでオレたちの会話は終わった。


「ところで、時間あいちゃいましたね。夜までどうしますか?」


「寝る」


「俺も」


「えー、せっかくなんだから外見て回りませんか」


「無理」


「いいねぇ若いって。おじさんたち、もう体力ないのよ」


「とか言って、昨日スムさんとよろしくやってたんじゃないの?」


「いやらしい想像しちゃって。そんなんじゃねぇよ」


「いやー、オレも見習いたいもんだね」


「何がだ。お前こそサタさんと──」


「僕、ちょっと外見てきます!」


「おう!気をつけてな!」


オンダとオレはソファやベッドに寝転がりながら、シオを見送った。


「いいやねぇ、若いって」


中身のない話をするうちにオレたちは2、3時間寝てたらしい。目が覚めたちょうどそのとき、スムの従者が訊ねてきた。


「お食事、どうなさいますか?お部屋にお持ちすることも可能です」


スムは何やら忙しいらしく、晩餐には不在とのこと。


「じゃあ持ってきてもらえるかな」


「承知しました。あと2時間ほどしたら準備できますので、できましたらまたお声掛けいたします」


「ありがとう」


夕刻というにはまだ早く、白昼夢のようなゆるい空気が漂っていた。


「ここはまるでリゾート地だね」

オンダも起きたらしい。


「良かったねぇ昔は。リゾートとか休暇って概念があって」


「今は毎日リゾートでホリデーじゃねえか?」


「そうだな。無くなったのはキツい労働のほうだ」


結局オレたちは、他愛のない話でやり過ごした。オンダとオレは、あのとき一緒に戦った仲間だが、いまさらあの話をするのは億劫だった。互いが負った傷を蒸し返すことにもなる。オレたち老人には、そんな面倒なことする気力はなかった。

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