第27話 [シオ]鮮やかな夢
僕は夢を見ていた。妙に鮮やかな夢だった。
陽気なテニスプレーヤーが、僕をバイクか自転車のような乗り物に乗せて薄暗い教室から連れ去った。彼は以前、オンライン上で調べものをしているときに見た、歴史的に有名な人物だった。
着いたところは、これも昔のコメディアンたちが営業する高級なバーで、僕はそのひとりに案内され、中に入った。
そのバーは、狭い敷地ながら3階(あるいはそれ以上?)まである店で、僕は2階に通された。
そこには芸能人たちがたくさんいて、一角のソファでクナフか何かの麻薬をやっている。僕はその席に加わることになり、成り行きで薬をやることになった。
すると極彩色のカクテルがいくつか並ぶ場面に切り替わった。そのカクテル以降、夢は一段と鮮やかになった。彩度をこれでもかと上げ、アンシャープマスクをかけた写真のように、ピシッとしていた。
僕は夢の中で幻覚を見たのか、視界一面がターコイズブルーで覆われた。正確には、そのターコイズブルーに、サンスクリット語のような文字が規則正しく並んでいた。
その規則正しさと言うのは、経本に並んだ漢字とか、魚偏の漢字が並んだ寿司屋の湯呑みとか、そういう感じだった(どちらもオンラインでしか見たことないのだけど)。
僕はそのターコイズブルーとサンスクリット語を、「なんて美しいんだ。幻覚とはこのことか」と思ってしばしうっとり眺めた。
すると向こうから、女性のアナウンサーがやってきた。彼女も昔の有名人だ。
(ちなみにこの夢に登場するのは、誰もかれも以前オンライン上を探索しているときに見た人たちだ。教室やバーも実際には見たことがない。)
彼女はエプロンをしていた。そして野菜炒めの入った皿を傾け、そのエプロンの上にざっと流し込んだ。その上にポテトチップスを加え、その野菜炒めが乗ったエプロンの下に手を回してエプロンごと握り、ぐちゃぐちゃにした。そしてそれを笑顔で僕に差し出した。
僕は「えっ」と思い、そのまま目を覚ました。僕はしばらく茫然とした。野菜炒めのポテトチップス和え?なぜそんなものを……。なぜ彼女が?
机に向かうカショウの後ろ姿が見えた。彼は何かに集中してるらしい。
僕はカショウの後ろ姿を見ながら、もうしばらく夢の余韻に浸った。
あのサンスクリット語の意味、なんとなく思い出せそうな気がしたが、どうしてもつかみ切ることはできなかった。そもそも僕はサンスクリット語が読めない。しかしあのターコイズブルーと極彩色のカクテルは、今まで見たことのないほど鮮やかで、ピシッと解像度が高かった。色や夢に解像度があるのか知らないけど。
「起きたか?」
カショウの声で、夢の余韻は破られた。サンスクリット語の意味はいよいよあきらめるしかなさそうだ。
あきらめた僕は、カショウの作業を見に行った。紙の資料をひたすらカメラで撮影し、コピーを取っていた。
「何の資料です?」
「オンダたちと頭脳都市を去るとき、オレたちはプロジェクトの資料を持ち出した。その頃はまだ紙のコピーの資料もあってだな。それでその資料のいくらかが、ここに保存されてたわけだ」
「じゃあ、頭脳都市の構造にまつわる資料ですか?」
「これには頭脳都市と、その最寄りのミラー都市の間の地帯について書かれている」
「間ということは、エアーフィルの外ですか?」
「そうだ。頭脳都市の周囲だけは特殊な仕掛けがある」
仕掛け?
「普通ならデータで送ってもらうところだが、めんどうだから取りに来いと。そもそもやつはカメラもスキャナも持ってない。だからわざわざこうやってきた」
なるほど。
資料を覗いてみたが、僕にはよくわからなかった。
「半分手伝ってくれ。後で統合するから、並んだとおりの順番でやってくれ」
「わかりました」
僕は自分の端末を取り出し、順番にコピーしていった。
何かハッとするような情報が見つかるかもと思ったけど、やはり僕には読解不能のようだ。あきらめて淡々と作業を進めた。
「おーい、メシ食うか」
オンダさんの声がした。
「お前らのために用意してやったぞ」
僕たちは作業を中断して部屋を出た。
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