第8話 [サタ]世界を創る/並行世界/ジャンプの法則
私ね、その子のために新しい世界を創ることにしたの。
それはこんな世界なの。
まず、学校はオンライン教育ね。たまに体育や音楽を一緒にやる以外は、おうちで授業が受けられるの。
あとはPTAの廃止ね。私、ママ友とか公園デビューとかPTAとか、そういうママ社会?そういうのに耐えられる自信なかったの!そんなの、消耗しかないと思わない?まあこれは、あかちゃんのためじゃなく、自分がイヤだっただけだけどね、ふふ。
あとはそうね、働かなくても生きていける世界。そういうの。
だって働いてたら、あかちゃんと遊べないじゃない?まあちょっとくらいは働いてもいいんだけど、せめておうちにいる時間が今よりずっと長くないとね。
あとは……、そうね、その子の得意を伸ばせる環境ね。得意やクリエイティブなこと?興味のないこと勉強したって仕方ないじゃない?まあ、算数とか、小学校で習うくらいのごく基本的なことだけ学んだら、後はその子の興味とか、向き不向きで学ぶ内容が変わってもいいじゃない?興味や得意なことを追求できる時間が多いほうがいいと思わない?せっかくAIとか(当時ね、AIって人工知能とやらがもてはやされてたの)が出てきたんだから、ひとりひとり細かく違うカリキュラム、作ろうと思えば作れるんじゃないかしら?途中で何かに興味が出たら、大人になってからでも勉強したらいいじゃない?
みんなが同じって言うのは、昔の社会では必要だったかもしれないけど、これからはいろんな人が、いろんな個性を発揮したほうが、より速く、より快適に社会が発達する、そんな気がしたの。あなたもそう思わない?だって、大勢の人員をつぎ込んで、工場とかオフィスでみんな同じ作業をする光景って、なんだか産業革命とか、高度経済成長期とか、そんな時代のイメージじゃない?人間が発想したことを、ロボットや機械が量産したり、自動化してくれるんだったら、発想の数を増やしたほうが、発達のスピードが速くなると思うの。
だけど私、特別な技術を持ってるわけじゃないから、若い頃に少しウェブ制作のお仕事はがんばったけど、もう私の知ってる技術は古くなっちゃってるし……。だから自分では何もできないの。
だからスキルのあるカショウとアイデアをシェアしたり、インターネットで自分の考えを発信したり、そんなことから始めたの。
でもね、私にもできることがあるの。それにとても効果的なの。それはね、そうなると決めて、理想をイメージしつづけて、そうなった後の世界を感じるの。いわゆるジャンプの法則ね。祈りや願いに近いけど、それよりもう少し実用的ね。
ジャンプの法則、興味ある?じゃあもうちょっと教えてあげるわね。
それはね、たとえばこういうことなの。
ここにたくさんのカードがあるの。そうイメージして。
で、そのカードにはね、それぞれ、すべての並行世界の、すべての瞬間が描かれてるの。
たとえばそうね、あそこにカショウさんが寝てるわね。でも、あそこでお茶を飲んでるカショウさんも、まだシロでお酒を飲んでるカショウさんも、すべてのパターンのカショウさんが、すべての並行世界うちのどれかに必ず存在しているの。そう、必ず。どれひとつとしてもれなく。
それが、すべての瞬間ごとにあるの。全ての瞬間の、すべてのパターンがあるの。“すべての並行世界×すべての瞬間”。もう膨大な、数えきれない数よね。だから、あなたや私にイメージできることは、必ずどこかのカードに描かれてるのよ。
で、シオ、あなたならね。あなたは、お母さんに会いたいのよね。
今あなたは、お母さんと離れて暮らすカードの上にいるの。でもあなたは、お母さんと一緒にいるカードの上に移動したいのよね。そこにジャンプしたいのよね。けっして、おかあさんと会えないカードにジャンプしたいわけじゃないわよね。あなたは必ず、お母さんと会えるカードに飛ばなきゃならないの。
必ずそこへ飛ぶ方法。知りたいわよね?
それはさっき言った通り、そうなると決めて、イメージすることなの。うーん、イメージともちょっと違うかな?そうなった世界を感じる。そっちのほうが正解に近いわね。つまり、お母さんに会えた自分、お母さんに会えた世界を“感じる”の。そのカードにジャンプした喜びを感じるの。先に、今ここで。
あと大事なのは呼吸。呼吸が大事なの。ゆったり呼吸して、リラックスできてないとそれを感じることができないの。
ゆっくり呼吸すると、アドレナリンのような、交感神経優位のときに出る物質が抑えられるの。どちらかというと、セロトニンとかオキシトシンとか、幸せホルモンと言われる物質が出てる状態が好ましいわね。ゆったり呼吸すると、脳をその状態に持っていきやすくなるの。
アドレナリンも使いどころはあるんだけど、出し過ぎると問題があるし、使うとしてもごく一瞬ね。ゾーンとかフローって言葉を聞いたことあるかしら?よくスポーツ選手なんかが最高のパフォーマンスを発揮するとき、緊張とリラックスが共存した状態にあるっていう、あれね。そのゾーンに至る過程のどこかで、アドレナリンも分泌されてるはずよ。
ちょっと脱線したけど、理屈はそんな感じ?でもね、これ、実践するとなかなか難しいのよ。なぜかというと、人によってその内面?精神の構造って全く違うの。しかもそれって人の内側にあるブラックボックスだから、構造の違いを人と比較したり、同じかどうかを検証することが難しいのよ。
たとえばね、ここにりんごがあるじゃない。このりんごの赤、私が見る赤と、シオが見る赤、同じ赤とは限らないのよね。違う色を同じ赤と呼んでいる可能性があるの。
だからさっき言ったリラックスにしてもね、私の思うリラックスと、シオが思うリラックスが、微妙にずれてる可能性があるの。
生まれてからこっち、みんな違う経験をしてきて、生まれる前からも人それぞれ違う特性を持ってこの世界にやってくるわけだから、みんな精神構造が違って当たり前よね。だから、こういったジャンプの法則があったとしても、言葉に起こされたとおりに実践しても、なかなか上手くいかないのよ。再現性がないの。言ってる意味わかるかしら?
つまり、教科書どおりにやるんじゃなく、そのセオリーを、自分の精神構造に合わせて調整していく、アレンジしていく。その作業を飛ばしてしまうと、なかなか結果が出ないし、逆効果になる場合もあるの。
うーん、説明が難しいんだけど……。そんな感じ?ともかく、練習するしかないの!
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