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「ごめん、全然、覚えてねえわ」
俺の正直な言葉に、
「何なんだよ、お前は」
曲沢が忌々し気に頭をかき乱した。整髪剤で整えた髪はもうめちゃくちゃだ。
「何か、ごめん。ワインのせいだと思う。スイスイ飲めちゃったのは、いいけど。まさか記憶をなくすまでとは……」
こいつの言っていることは事実だろう。
俺たちは肝試しがてらに早朝の寺を訪問した。
こんな時、曲沢が嘘をつくわけもないだろうし。
でも、俺には完全に記憶がない。話を聞いても全く、何も思い出せない。
もう一度、頭を巡らせてみるが……。
「それにしても救急車、うるさいな。さっきから何台、通り過ぎた」
曲沢の言う通りだ。けたたましいサイレンのおかげで集中できない。
道行く人も町の異変に心配げだ。
「この先の葬儀場で何かあったって」
向こうからやってきた二人組の女性の声が耳に飛び込んできた。
俺は思わず曲沢を見る。奴も俺を見た。
「すいません、その話、詳しく聞かせてもらいませんか」
曲沢が二人組に声をかけた。
「何か、食中毒が起きたみたいで、何人もの人が救急搬送されているみたいですよ」
俺たちよりも一回りほど上の中年女性は、喪服二人組の男の様子を察してくれ話してくれた。
「なあ、葬儀場って別府のところだよな。それしかないよなぁ」
曲沢が頼りなさげに言う。奴の言葉を無視し俺は葬儀場へ向け走り出した。
あたりは人だかりができていた。
警察官も数人いて、葬儀場のなかには入れなくなっている。
二台、救急車が停まっている。
会場から担架が運び出される。
その上に載っていたのは、やけに黄色味がかった肌艶で苦悶の表情を浮かべている別府の母親だった。
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