突然、起こった停電は原因不明。

 復旧もできず結局ファミレスは営業を見送り客たちは店を出されるはめになった。

 お代は結構だと言うことで不満を言う客も出ず、みなが店を後にする。

 誰もがこんなこと初めてと、怒るでもなくレアな出来事に面白がっている。

 俺たちを覗いて。


「あれは何だ。どういうことなんだ、なあ、小川! 別府の母ちゃん、どうなっちまったんだよ」


 答えを求めようとする曲沢に俺は無視を決め込む。俺だってわかるものか!

 俺たちは帰路を歩いている。

 何回も動画を再生するように同じ行動をとった別府の母親。

 百歩譲って、通夜が終わり、息抜きにファミレスに訪れたのかもしれない。

 一人で喪服姿でファミレスに訪れるまでは理解できる。

 でもあんな行動取れるはずがない。

 それに突然、俺たちの席に座り込むなんて。

 その間も彼女は自分のいた席で、同じ動作を繰り返していたのだ。

 常識を超えている。常軌を逸している。

 お手上げだ。わけがわからない。

 

 夜のしじまに携帯音が轟いた。曲沢のガラケーの着信音。

 俺に相手にされない曲沢が携帯をとった。通話をはじめる。


「え、どうして」曲沢が声を荒げた「そんないきなり」声がしぼんでいく。最後は消え入りそうな声で通話を終えると曲沢は、


「姉が、二番目の姉が死んだって親から」


「はぁ! どういうことだよ、それ」今度は俺は声を荒げた。


「二番目って琴音さんだろ、どうして急に……」


  曲沢の姉にしてはやけに美人な人で、学生時代、一時、何とかお近づきになれないかと本気で考えていたこともあった。その琴音さんが……。


「ああ、あああああああ」


 曲沢がしゃがみ込み頭を抱える。頭を掻きむしり呻きつづける。

 置いて帰るわけにもいかない。立ち止まったまま曲沢が動き出すのを待つ。夜風が生ぬるかった。着慣れぬワイシャツの襟元が気持ちわるい。


「別府のお母さん、言ってたよな。肝試しがどうとか、神社がどうとか」


 今度は曲沢が俺の言葉を無視する。うずくまったまま、ああ、ああ、呻くばかり。


「あれって何のことだ。俺たちそんなことしたことあったっけ」


 俺はかまわずつづける。曲沢の言葉は期待しない。自問自答だ。

 遠くの方で救急車のサイレンが聞こえる。


「そうだ……」曲沢が立ち上がる。「そうだ、そうだ、そうだ!」曲沢が頬を両手で叩きだした。


「思い出した。肝試し、神社……。一週間前にしたぞ、俺たち」


 俺は首をかしげる。あの時は俺と曲沢がワインをかぶ飲みした。

 一件目の洋風の居酒屋で。

別府は次の日が仕事だとかでワインは控えていた。その分、俺たちにどんどん勧めてきたっけ。覚えているのはその辺で正直、二件目以降の記憶はない。

 晴れ晴れした曲沢は何も覚えていない俺に語りはじめる。

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