あるネックレスのお話

@KEN15

あるネックレスのお話

忘れもしない。

とてもとても笑顔が綺麗な人だった。笑うと木琴のような歯が見えてそこからコロコロと音が聞こえるような、そんな笑顔の人だった。そんな綺麗な人へ、素敵な人から私はプレゼントされた。

私のことを少し話すとする。わたしのチェーン部分は18Kでできており、肝心のチャームはハートの形をしているピンクゴールド、ハートの真ん中には0.3カラットのダイヤモンドだ。私は、この人がコロコロと笑うたびにダイヤモンドが落ちないかとヒヤヒヤしたもんだ。それから私は一年、二年、三年とかなりの月日をこの人の首元で過ごした。たまに他のネックレスに浮気をされたが、大きな問題ではなかった。この人は、1人きりではコロコロ笑わず決まってあの人がいる時だけコロコロと笑っていた。

そしてある時、この人の頸動脈がやけに早く脈打つのを感じた。それは初めて私を首元へつけてくれた日や、初めてあの人と唇を重ねた日と同じような感じだった。それと同時に地震でも起きたかというほど、大きな衝撃が私を襲った。そのあと、部屋の中だったのにも関わらず大雨が降ってきた。こんな大雨なのに、この人は傘もささずにボーッと立ち尽くしている。いつもならあの人が傘をさしてくれるが、あいにく今日は傘を持ち合わせていないようだ。

それからというもの、私は汚いダンボールでの生活を強制された。周りにはあの人とこの人の写真やら手紙やらがゴチャゴチャとまるでサラダボールのように詰め込まれている。どれぐらい時が経ったかは覚えていないが、ある時古くさいダンボールから私だけが取り出された。とても心踊った、またこの人につけてもらえる。そう信じてやまなかった。

しかし、この人はカバンの中へ乱暴に私を放り込んだ。さらに驚いた事にこの人はカラカラと笑うようになっていた。気づいたら私はどういうわけか小さなショーウィンドウの中に入れられてしまった。そこからはあまり覚えていない。身体がバラバラにされたあと、溶けていくのを静かに感じていた。

そして今日、私はふたたび目覚めた。そこは、あの人が私を買っていったような煌びやかな場所だった。私をじっと幸せそうに眺めている人がいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あるネックレスのお話 @KEN15

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ