第一部 思い出
案内されたのは吹き抜けになっている壁中に棚がある部屋だった。
天井はガラス張りになっていて太陽が差し込んでいた。
陽の光に照らされた棚は円形の部屋を明るく照らしていた。
棚には取っ手が付いてあり深見さんが試しに1つ開けた。
そこには淡いピンクの花が印刷されている手紙があった。
「ここにレターセットがあるので理想のが見つかると思います。」
「ここの中から…」
結構広い部屋の中から理想のレターセットを探す。
しかも2階吹き抜け。
「では、ごゆるりと。」
深見さんはそう言うと談話室に戻っていった。
「このなかから探せって…」
私はとりあえず目についた引き出しから開けてみた。
そこには現世で有名な青いネコ型ロボットの絵が印刷されていたレターセットが入っていた。
ここにはキャラクターものもあるらしい。
「やぁ、お嬢さん。探し物は見つかったかな?」
ふと頭上から声がしたので上を向くと2階の手すりに寄りかかっている青年がこちらに向かって手を振っていた。
クリーム色の髪をした美形の青年だ。
「えっと、数が多くて…」
「君の送りたい相手を想像してみて。その人はどんな人だった?出会いは?思い出は?性格は?仕草は?その人を想像してみて。」
私は青年の言う通り洋平のことを思い出した。
出会いは大学1年生の梅雨時。
洋平は本を読むのが好きで外で遊ぶのは好きじゃない。
デートは大抵どっかのカフェだった。
私は洋平が本を読んでいる姿が好きだった。
私の誕生日の日は必ず水族館へ連れていってくれた。
人混みが嫌いなはずなのに付き合ってくれた。
性格は朗らかで優しかった。
照れた時は必ず顎をかく癖がある。
洋平のことを思い出すほど想いがあふれてきて泣きたくなった。
もう、そんな幸せだった時には戻れないんだろうって。
「お嬢さん。ほら、見つかったよ。」
青年は夜空と海とイルカが描かれているレターセットをくれた。
「これ…なんでこれにしたんですか?」
私は青年に尋ねた。
青年はふわっと笑うとこう言った。
”この部屋が選んでくれたんだよ”と。
私はレターセットを抱きしめた。
「あの、ありがとうございました。えっと…」
「僕はセス。最高のものが見つかってよかったね、お嬢さん。」
セスさんはそう言うと私をもとの談話室に戻してくれた。
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