第一章 赤崎ふみる

古風な造りのお店はそこにあった。

ひっそりと隠れるように佇んでいた。

私はその店の扉を開いた。

中はステンドグラス出できたライトが天井からぶら下がっており室内を照らしていた。

目の前には対談用の机があった。

丸い木でできたテーブルに花瓶が1つ。

背の高い椅子の上に寝ている白猫は鳴く。

まるでドアベルのようだな、と思った。


ようこそ。


奥のテーブルから少女がこちらに来た。

紺色のスカート、白色のブラウス。

肩より少し長い黒髪を耳にかけ、淡い光を放つピアスをつけた綺麗な少女が言う。


ここは、三途の川を渡った先の死後の世界。

そこには死んでしまった元人間が住んでいます。


少女は笑う。


現世では幽霊と呼ばれる存在です。

ここは死後の世界の郵便局。

死者が生きている人間に最後に伝えたいことを手紙で伝える郵便局です。


少女は訴える。


出せる手紙は最初で最後、たった一通だけ。

そこにどんな思いを綴りますか?


私は言った。

手紙を書きたい相手がいると。

少女は言った。


では、始めましょうか。


少女はにっこりと笑った。


お客様が手紙を出したい理由をお教え下さい。


私たちは取引を始めた。


||||||||||||||||||||


「お邪魔します。予約した赤崎です。」

「いらっしゃいませ。死者郵便局へようこそ。」


古風な店の扉を開けるとそこには黒髪の少女がいた。

紺色のスカートと白いブラウスを着たどこか大人びた少女が。

少女はにっこりと笑うと入口の目の前にある木でできた丸いテーブルに案内してくれた。


「ただいまお茶をお入れしますね。紅茶や緑茶、コーヒーもありますがどちらになさいますか?」

「紅茶でお願いします。」


かしこまりました、と少女はお茶を用意しに別室に向かった。

店の中はきれいに整理されていて棚が多くここへ来た死者の手紙などが保管されていた。

案内された机の隣のデスクには書類やなんやらが沢山置かれていた。

ここは少女の仕事用のデスクらしい。

そのデスクの上には白猫が眠っていた。

書類の上で。

机の隣にネコ用ベッドがあるのに。


「お待たせいたしました。」

「あっ、ありがとうございます。」


紅茶を私の前におき、少女はデスクからファイルを取り出し席に着く。

そこでコホンと咳をした。


「では、始めましょうか。改めまして、私はこの郵便局の役員の深見といいます。」

「赤崎ふみるです。」


深見と名乗った少女はファイルを開くとあるページを差し出した。

そこには、お客様情報と書かれていて、私の簡単なプロフィールが書かれていた。

そして死んだ原因も。


【赤崎ふみる】

11月3日生まれ

血液型 O型

家族構成 父、母、姉

死亡原因 交通事故による頭部強打


「こちらの情報でお間違いないでしょうか?」

「…はい。」


私は交通事故で死んだ。

相手側の居眠り運転だった。

彼氏からのプロポーズを受けた後だった。


「お手紙を書きたい相手は?」

「彼氏…吾妻洋平です。」

「了解いたしました。ではレターセットを選んでもらいましょうか。」


深見さんはそう言うと席を立ち、レターセットがある部屋に案内してくれた。






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