八
ジュールの言葉に圧倒されて、結局彼の提案をそのまま受け入れてしまった。というか、總子の提案は却下された。
はい、と手を伸ばされて、反射でその手を取ると、ジュールは引っ張り上げるように總子を立たせて、そのまま歩き出した。
「そろそろお腹空かない?何か食べにいこうよ」
頷いたらそのまま總子の負けだった。手をつないで一緒に歩き出す。
「何食べたい?木曜のお礼もしたいから、ジュールくんが食べたいものご馳走するよ」
「え?!悪いからいいよ」
「ダメ!これは譲らないから。というかもっと早くお礼したかったんだけどね」
「もう一人のお兄さんには?」
「そうなんだよねー、また会えたらお礼したいけど、毎日お礼の品持ち歩くのも…」
「まあいいか。じゃあ、もう一人の人の分も俺が奢ってもらおうかな」
「うん!そうしてくれると助かる」
あははと笑って繋いだ手をぶんぶん振る。
「なんで奢るほうの總子さんがお礼言うんだよ」
あ、でも、とジュールは急に真面目な顔つきになった。
「總子さんが俺に奢ってくれるのは今回だけだよ。次回からは俺持ちだからね!」
(ん?次回?)
次回があるのか?
總子の顔に「?」マークが浮かんでいるのを見て取ると、ジュールは「いいからいいから」と言って、スマホを操作し始めた。店を探しているらしい。
總子は、年の離れた弟が出来たようで、朝の気重さはどこへやら、少しずつウキウキした気分になり始めていた。
◇◆◇
ジュールが選んだのは、ハンバーガー屋だった。
よくあるチェーン店ではなく、本場アメリカの直営店で、普通サイズのハンバーガーが縦も横も倍ぐらい大きく、付け添えのポテトフライも一人分が山盛りだった。
パティもバンズもトマトも分厚く、手も顔もべしょべしょに汚しながら食べ、お互いの顔を指さして大笑いした。
總子はハンバーガーは何とか完食出来たが、ポテトにまで手が回らなかった。ジュールはそれもペロッと平らげ、ホットドックを追加注文していた。
「すごーーーーい…、さすが高校生の胃袋」
「そう?普通じゃない、これくらい?」
「ジュールくんにとっては、ね。私には無理よー」
「總子さん小食すぎ。あ、デザートあるよ?」
「あ、そっち食べようかな。プリンあるー」
デザートと聞いてメニューに飛びついた總子を見て、ジュールがプッと噴出した。
「別腹ってやつ、本当にあるんだ」
「え?だってデザートは食べるでしょ?」
「んー、あまり甘いものは食べないしなー。学校でも、ガーッと食って、終わり?」
「学校は、お弁当?」
「ううん、学食か、購買かな。校門前にコンビニもあるからそっち行くこともあるよ」
「今はコンビニも色んなもの売ってるもんね」
「總子さん、会社でもデザート食べてそう」
「う…、食べてる…。やっぱりだめだよね~、ダイエットしなきゃ」
「何言ってるの?全然必要ないじゃん。スタイルいいよ」
さらっと言ってくれるジュールに、總子は目を白黒させる。
(純粋なのか、まだ子供だからかな…。お世辞でも嬉しい。でも恥ずかしい…)
ちまちまプリンを突く總子を見ながら、ジュールは生まれて初めて芽生えた感情をゆっくり咀嚼していた。
(年上だし、大人の人だし、まだ知り合ったばかりなのに。俺、この人を守りたい)
理解されたい、甘えたいという思いは子供の頃から抱いてきた。叶うことはなかったが。
だが、相手に何かをしたい、という種類の気持ちは、今初めて味わっている。
痴漢から守れた快感が尾を引いているのかもしれない。
年が離れているのに、思いの外話しやすい總子の人柄のせいかもしれない。
しかし、初めて得た自分の「居場所」のように思えて、不思議な居心地の良さが、ジュールを包んでいた。
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