六
翌日の土曜日。
約束の時間に向けて、總子は待ち合わせ場所へ向かった。
(うう、例え安全のためとはいえ、親切を断るって心苦しいなぁ…)
初夏の週末にふさわしく良く晴れた気持ちのいい陽気なのに、總子の心は逆に暗く沈んでいる。かといってひっこめるわけにもいかない。
はぁ~、とため息をつきながら歩いていると、目的の場所に既にジュールは着いていた。
總子を認めると、
「總子さーーん!」
と、大きな声で名を呼んでブンブン手を振って合図を始めた。
(は、恥ずかしい!!やめてー!)
見た目が目立つ子が、土曜日のビジネス街でぴょんぴょん飛び跳ねているのだから周囲の視線を集めまくっている。
「そーうーこーさーーん!」
(また呼んだ!!)
總子はびっくりして足が止まってしまっていたが、それを「自分に気づいていない」と勘違いしたのか、さらに大きな声で叫び始めた。
これは自分があの場所にとっととたどり着くしかない。そう覚悟して、ジュールのもとへダッシュした。
「じゅ、ジュールくん、出来ればその、そんな大声は…」
「良かったー、俺に気づいてないのかと思っちゃったよ」
(そんなわけないじゃん…)
總子の独り言は当然ジュールには聞こえない。冷や汗をかく總子の手をパッと握って、ジュールは歩き出した。
「まだランチには早いよね。どこかでお茶する?それともお散歩する?」
デートか!?いや違う、違うから!
当初の目的を果たすため、勝手に歩き出そうとするジュールを引き留めようとしたが、力が強いうえにはしゃいでいるジュールは總子を掴んだままどんどん歩いていってしまう。
「赤坂駅って乗り換えしかしたことないんだよね。地上に出たの初めてだよ~」
(すっごい楽しそう…、どうしよう)
本来の目的そのものが總子の心を暗くしていた。その上こんな笑顔を見てしまっては、水を差すことが躊躇われた。
(この前のお礼でご馳走するつもりでいたし…。少しくらいいいか)
「あ!あの高いビルって何?」
大通りを挟んだ向かいに聳えるビルを指さしてジュールが言った。
「ああ、赤坂サカスでしょ。TBSとかが入ってる…」
「へえ~、それでみんなあっち行くんだ」
興味があるのかと思ったら、それとは逆の方向へ歩き出した。
「總子さん、少しお散歩しよう?知らないところ歩くの好きなんだ、俺」
少し猶予が出来た總子は、笑って答えた。
「そうね、いい天気だし。でも私もこの辺りは詳しくないよ?迷子にならないといいけど…」
「迷子になったときはGoogle先生に聞けばいいよ」
スチャッとスマホを取り出して、ジュールは得意げに笑い、その顔を見て總子も笑った。
「じゃあ、迷子になったらよろしく」
ジュールも頷くと、二人はそっと互いの手を握りなおして、散策へと向かった。
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