用語集・人物紹介
用語集
#97までに出て来た本作の用語説明です。
【
人間の臓器の一つ。主に、前世の記憶の貯蔵を司る部位。2020年代に初めてその存在が確認された。現段階で他の動物には見られず、人間独自の臓器。脳の記憶や空間学習能力に関わる海馬が脳にあるのに対し、遡臓は心臓にきわめて近い位置に存在する。しかし形状は海馬同様に細長く、層構造をなしている。唯一心臓とのみ血管で結ばれている。長さはおよそ10cm程度。
前世で経験したことと似た環境に置かれたときや、なにか強いショックを受けたときにその働きが活性化する。
摘出すると前世の記憶は失うが、代わりに生まれ変わることもできなくなる。
【遡臓検査】
前世がどんな人間だったのかを探る検査。特殊な機器で遡臓をスキャンして行う。
前世があれば当時の姿を映像として抽出することができる。すでに前世の記憶を思いだしている者は映像の解像度が高い。個人情報保護のため、被験者の前世映像は機械によって処理され、内容はAIが要約して被験者に通達される。
記録は国立記憶科学研究所(後述)で保管され、原則として国立記憶科学研究所と被験者のみがその映像の閲覧を許可される。18歳になる年に検査を受けることが義務付けられている。
【睡眠検査】
遡臓検査を補佐する目的でおこなう。
睡眠導入剤を飲み、数時間眠る。前世のある人間は前世の姿を夢で見るため、睡眠中の脳の動きを観察し、夢が記録される。遡臓検査で得られた映像と重ねあわせることで前世を特定する。
【ルーキー】
前世の記憶を持たない者の呼称。前世記憶の有無による差別は禁止されているが、就業経験の有無や知見の広さなどから就職の場において敬遠される傾向にある。
【前世犯】
前世で罪を犯した者の呼称。犯した罪の内容によっては密かにICTO(後述)によって行動を監視される場合がある。ルーキー同様に差別を受けることがあるため、前世犯である事実を秘匿する者が多い。
【国立記憶科学研究所】
遡臓の研究・国民の遡臓検査実施を担う研究機関。世界各国に存在し、日本は東京に本所を置く。本所のほかに探査室・解析室・鑑定室がある。ICTOの本部・支部と同じ敷地にある。
組織はピラミッド型の構造をなしており、上から順に所長・室長・専門官・専門科長・研究員主任・研究員技師・研究員・一般職員となっている。多くの職員が退職までに研究員主任になれば御の字とされている。
一般職員以外は遡臓検査映像を閲覧する権限を持つ。犯罪者の犯行動機が前世の記憶によるものとされるときは警察と連携することもある。
検査映像の閲覧に際して、事故・事件に関係した人物の検査映像は研究目的であれば「研究員主任」以上、捜査目的であれば「専門科長」以上でないといけないなど、細かいルールが定められている。
なお捜査目的であっても「専門科長」は上官が指定した対象人物しか閲覧が許可されない。自分の見たい人物の映像を見るには「専門官」以上に上り詰める必要がある。上の地位になるほどショッキングな映像を見る機会も増えるため、メンタルヘルスの複利厚生は他の研究機関よりも手厚く、給与も高い。いっぽうで、精神を病み離職する者もいる。離職者には厳しい守秘義務が課される。
現在のトップは日本の遡臓研究の権威である
<Topic:事件に巻き込まれた前世記憶の取り扱い>
各種事故・事件に関係した者の遡臓検査は記憶研職員によって確認後、状況に応じて各室へと映像が回される。
まず探査室が遡臓検査の映像を見、被験者がどの年代をどこで生きた者か特定する。解析室は探査室の情報を受け、どの事件に関係がある人物かを探る。最後は鑑定室が内容を精査し真偽の判定を行い、本部が承認をする。
事件性がない前世は機械による要約で終了する。遡臓検査の検査結果が早ければ平穏無事に前世を終えており、遅ければ遅いほど重大な事故・事件に巻き込まれた可能性が高いとされる。
【ピリオド】
遡臓顕現後、ある特定の条件を満たした者に宿る異能の総称。1人につき1つ、前世の追体験をしたとき、もしくは前世の記憶を鮮明に思い出したときに表出する。
表出時に特殊なシグナルを出すが、現行の検知システムは一定の基準を超えないと拾えないため「じゃんけんが強い」「道に迷わない」といった類のピリオドは検知できない。検知できたピリオド保有者はICTOにより保護される。保護ののちは遡臓摘出あるいはICTO加入のどちらかを選択する必要がある。異能の種別によって具現型・変異型・特殊型に分類される。遡臓を摘出することでピリオドは消滅する。
ピリオドの存在は世間には公表されておらず、存在を知る者には秘匿義務が課される。
・具現型
なにかが武器化したり物質が出現したりするピリオド。
・変異型
自身の肉体や物質に変化を生じさせるピリオド。
・感覚型
人間が生来持っている感覚が驚異的に強化されるピリオド。
・特殊型
上記のどれにも当てはまらないピリオド、もしくは人間の思考に関与できるピリオド。4種の中で最も稀少。
<Topic:ピリオドの弱体化>
具現型ピリオドによる遡臓への物理攻撃や遡臓の機能を一時的に弱める弾丸(減退弾)によってピリオドは弱体化する。ただし、減退弾の弱体化は一時的に過ぎない。具現型ピリオドによる攻撃は、感覚型ピリオドに対しては半永久的に継続する場合があり、他のピリオドに対しては一時的な減退にとどまる。感覚型ピリオド保有者は、その特性から4つの型の中で唯一弱体化後に一般社会への復帰が認められている。
【異能犯罪者】
ピリオドを有した者が一般人に危害を加えたときに呼称される。ICTOの制圧対象であり、内容によっては「記憶削除」あるいは「遡臓摘出」といった措置が取られる。過半数は前世記憶を思い出したショックによる突発的な犯行が多いが、中には意図的に他者へ加害する者もいる。
【ICTO】
正式名称はInternational Criminal Trace Organization。記憶研と連動し、遡臓研究の推進及び前世犯の監視にあたる名目で設立された。実際は異能犯罪者から一般市民を守る役目を務める国際組織である。国内には地域ごとに支部が分かれていて、都市部ほど擁する人数は多い。
支部は都道府県ごとに中隊扱いとなり、異能犯罪者が多い東京都は本部を含め4つの中隊で構成される。現在の日本総裁は第12代目の
組織構成はピリオド保有者による機動部のほか、一般人の救護や輸送を手配する管理部、怪我人の治療を請け負う医療部、遡臓研究を行う研究部、各種機器の開発を担う技術部、総務部などがある。記憶研職員は研究部に属する。機動部以外は非戦闘員であり、ピリオドを保有していない者もいる。
扱いは国家公務員であり、刑事訴訟法における「特別司法警察員」に該当し逮捕権を有する。事件によっては警察と協力する場合もあるが、警察組織とはあまり良好な関係とはいえないのが実情。
【東京本部】
国立記憶科学研究所の本所と同じ千代田区に位置する。管区は新宿・渋谷・世田谷といった都心とその南部。東京本部長・
【祓川隊】
東京本部長・祓川が指揮を執る精鋭部隊。人数は20人ほど。エリア支部長や中隊長クラスは元祓川隊員が多い。
【東京本部第一中隊】
都内東側及び都心の北寄り(豊島・練馬・板橋方面)を管区とする。記憶研第1支所(探査室)と同じ敷地内にある。
【東京本部第二中隊】
三鷹市と武蔵野市から、西は昭島市までを管区とする。記憶研第2支所(解析室)がある。
【東京本部第三中隊】
町田市や八王子市から奥多摩までの西部一帯と島しょ部を管轄する。記憶研第3支所(鑑定室)がある。
<Topic:中隊構成と階級>
各中隊はトップに隊長がおり、その下に副隊長、さらに下に班長という構成。班長はピリオドを持つ実働隊員6名~8名を率いる。各班は実力差が出ないよう構成され、管制担当が1人つく。
管制担当は中隊本部で全員の視界をカメラで把握しつつフォローを入れる役割を担い、中にはピリオドを持たない者もいる。
班員は実力によって特級・1級・2級・3級に分類される。特級は各班班長クラス、1級~3級は各班に2名~3名ずつ配属される。分類基準はピリオド練度・近接格闘・射撃・グライン(後述)操作の度合いを見て、
怪我をすると3級に降格となるが、完治の度合いによって元の級に戻る場合がほとんどである。総合力を見て決定するため、ピリオドの威力がさほど強大なものでなくとも1級となることも可能。ただし新入隊員の過半数は3級スタートが普通とされる。
【級付け】
新入隊員の訓練期間終了後、配属前に行われる。内容はランダムに選出された先輩隊員3名との模擬戦闘。銃・ナイフ・ピリオドのすべてが使用可能で、銃はペイント弾、ナイフはゴム製のものを使用する。胸部に1撃を食らうと終了となるが、模擬練と違い制限時間は設けない。3対1の状況で訓練生が圧倒的不利であるため、勝敗よりも内容が重要視される。極端な力の差が出ないよう、選抜隊員は特級を0として3名の級を足した合計が5から7に収まるように選別される。
訓練隊員には本番5日前に相手の3名が通達される。いっぽう、選抜隊員3名は直前に通達がなされる。これは級付けが昇格試験を兼ねており、当日知らされたメンバーとどう連携を取るかも審査内容に入っているためである。
管制担当に等級は付与されないが、実働への移籍を希望する場合は級付けが実施される。
等級付与の審査は訓練隊員の教育担当・中隊長・副隊長・本部長の4名で決められる。優秀な成績を収めれば即座に祓川隊配属になることもある。既存隊員との相性や、育った場所によっては他地区への転属もありうる。
【グライン】
ICTO技術部が開発した装置。特殊な気体を射出し、浮遊状態での移動を可能にする。通常はアタッシュケースの形をとっているが、認証するとパワードスーツのように隊員の身体をまとい、飛行や浮遊を可能とする。
脱着はフルオートでAIシステムを搭載。映像と音声は管制室でモニタリングでき、管制者の半径5m以内にいればリモートでの操作も可能。その名称は「グライダー」と「ドローン」が由来になっており、他国のICTOでも活用されている。
充電式バッテリーはフル充電で3時間駆動する。浮いた状態での移動もできるが、バッテリー消費が大きく空中戦ではそう長く使えない。あくまで地上戦で相手より早く動くことを主眼に作られた装置である。
装着するとオープンフィンガーグローブの形をとり、操作は主に右手で行う。軽微な方向転換は足の体重移動でも可能。利き手や好みで左手をメイン操作とする者も多く、起動時の設定で変更ができる。
電極が埋め込まれていて指の細かい動きを察知して反応する。脳からの電気信号を読み取る技術も搭載されており、装着者の意に反する動きは取らない。頭部への衝撃が想定される時はフルフェイスヘルメットがオートで形成される。
動きながら細かく方向転換や気体射出量の調整をしないといけないため、個人差もあるがマルチタスクが得意な女性のほうが操作は上手い傾向にある。
【クレイウイルス感染症】
2020年代に世界的なパンデミックを引き起こした感染症。最初の患者が確認されたのは記録上2028年となっているが、遡ればそれ以前に死亡した者の中にも罹患者が存在するとされている。
感染すると身体の末端(主につま先)から麻痺が始まる。麻痺の範囲は身体を浸食し、多臓器不全や心臓麻痺で命を落とす。麻痺を起こした箇所がまるで乾いた粘土(clay)のように固く変異することから、「クレイウイルス」の名がつけられた。
麻痺の開始から内臓の機能停止までの時間は人により異なる。高齢者は遅く、若者ほど早い。快復しても身体には麻痺が残り、やむを得ず足を切断するに至った患者も少なくはない。
感染経路が謎に包まれている奇病として有名である。吐瀉物・排泄物からの感染、食品や動物を経由しての感染、特定の物質に対するアレルギー、注射の回し打ちや性交からの感染といった可能性が検証されたが相関関係は見つからず、感染者は偶発的に世界各地で発生し、各地で神仏に祈りをささげる者が増えた。クレイウイルスのパンデミックにより新興宗教が隆盛した。
アメリカの製薬会社・ザグレウス社が特効薬を開発して事態は沈静化した。研究に一役買ったというアメリカ人研究者と日本人研究者はノーベル賞ものだと絶賛された。
しかしながらクレイウイルスは生物兵器だという説が流布し、一転して日本人研究者は糾弾された。研究者は日本へ帰国後行方不明となり、数日後に家族とともに水死体で発見されている。なお、殺害の主犯と思しき3人グループも現場近くで自殺しており、謎の変死事件として伝わっている。
クレイウイルス予防接種は現代日本では義務となっている。生まれてすぐに1回、5歳で1回、成人してから1回、妊娠したら1回、60歳を超えて1回と法で定められており、現在の罹患者は年に100例を下回っている。その罹患者もワクチン未接種者であるとされ、ワクチンによる抑え込みに成功している。
【
遡臓の顕現・クレイウイルスの流行とともに勃興し、その後も着実に信者を増やしていった新興宗教。教祖は
理念は「前世の罪をすべて
設立当初こそ胡散臭さがあったが、世間に受け入れられるのは早かった。内容はスピリチュアル寄りだが、慈善活動を積極的に行っていたのもあり世間的なイメージは良好であった。当時は幾人かの著名人も信仰を公言してした。
もっぱら宣伝活動に勤しんでいたのは教祖・志賀新助の父親と母親である。信者の目印は左手中指の白い指輪で、教団から信頼を得た者でないと貰えなかった。入信して間もない者は代わりに左手首に白い布を巻いていた。
信者は一般市民を教団本部に連れてくることで広がりを見せた(信者の推薦がないと入れなかった)。連れてこられた者は教団内部だと落ち込んでいた気持ちが自然と上を向くという経験をし、それが重なることで浄前教そのものに特別な力があると信じた。が、不思議な体験だと感じた気分の高揚も行動も奇跡などではなく、教団内で精製していた違法薬物を嗅がされていたに過ぎない。
教団を隠れ蓑にした違法薬物の製造と密輸で得た金を、浄前教は方々に寄付して名声と評価を得ていた。製造と密輸は熱心な信者でないと関わることができず、その証が先述の指輪でもある。指輪を有する者は個人情報や資産を教団に掴まされていた。
【浄前教信者大量殺人事件】
2045年に発覚した、日本有史最大の連続殺人事件。浄前教教祖・志賀新助によって浄前教信者のべ125人が殺害された。先述の違法薬物精製を長野県警が摘発した際、総本山付近の湖で大量の頭蓋骨を発見したことで明るみとなった。見つかった頭蓋骨は125名分だが、これは浄前教入信後に行方不明になった者の数と合わず、実際はもっと多かったとされる。
浄前教では脱退ができないよう、信者同士で互いを監視させていた。教団の中で生活をさせ、万全のセキュリティの中で逃げることもかなわず忠誠を誓わせる。戒律を破った者は突き出され、教祖と話し合いの場が持たれた。戒律破りを認めると教祖の元へ連れていかれ、志賀新助によって殺害されていた。殺害までには信者たちが手分けをして手錠をかける役、部屋に連れていく役、志賀を呼びに行く役、部屋の掃除役と分担し、全員を共犯者にしていた。
処刑された者は首を鋭利な刃物で切られていたが、凶器は見つかっていない。頭部は遺棄され、胴体のうち腎臓・脾臓・眼球といった死後も提供可能な臓器は売買に用いられていた形跡があった。
主犯の志賀新助は逃亡しその後の行方は分かっていない。志賀の両親及び姉は護送中の事故で死亡している。なお、その事故で警察関係者も複数名死亡した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます