第12話 『わるもん』育成すくすく
【前回の『荒ぶる好奇心』復習】
立ち去り際に、オオヌキさんが「繁殖させちゃだめだぞ」と言った。
私の部屋でそんなことをさせるものか!と思った。
二人が帰ったあと、ダッシュでペットショップまで行って、中型犬が入るくらいのオリを二つ買った。「隔離してやる!お前らの恋路は私の部屋にいる限りは叶えてあげない!叶えてあげられないのだ!!ごめんけど!」と少し罪悪感を抱きながらも思っていた。
【自己紹介】
私は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ二十三歳!(稀崎明音)
私は、正義の味方として、日常をクズみたいに生きるんだと決意した『わるもん』カップルを自宅に軟禁している女の子!飼い主の責任として、きちんと彼らに名前をつけてあげたわ!!
私は決死の覚悟で無断欠勤からの出社!
理由を語らず部長の泣き落とし作戦決行!
それに勝利を納め、定時で帰る途中で痴漢にあって女子高生に説教をされ、腹立ち紛れに外灯を破壊!!
その後変身ヒーローたちの、月いちミーティングでインターンシップの学生がやってくるって話をされて、愕然!価値観の違いを痛感して、チカちゃんという友達とその情報を共有しあったわ!そこで、つい『わるもん』カップルを自宅に軟禁してることを告白して、チカちゃんの上司のオオヌキトシエさんから、自宅の手入れを受け、ビールを御馳走したわ!
で…
一ダース目ありがとうの十二話目
今週も大貫さんはやってきた。
なぜか、勝手に合鍵を持っていて勝手に扉を開けて入ってくるので「プライバシー!」と叫んだら「プライバシーよりも、国家の安寧が優先されますー」と鼻歌まじりに答えられた。
(彼氏がいるとかだったら、アカネさんの繁殖時期に入るときには自重しますがね…)と聞こえないくらいの声で呟いていた。
「ほう、繁殖活動は制御されてますね」と、オリの中に入った『わるもん』を見つめながら言った。「これなら、よく観察できますね」とご機嫌でオリに近づいていった。
オオヌキさんを認めた『わるもん』つがいは、両方とも地獄のような絶叫を上げながらオリをすり抜けてベッドの下へ逃亡した。
オリが、用をなしていないということを初めて知った!
「あ…」と、ため息まじりでがっくりと肩を落とす私に、「液体生物ですもんねぇ…正義のヒーロー騙されるって感じ?」とオオヌキさんが、ため息まじりに言った。
「ねぇアカネさん、オリとこの部屋の中、自由自在に出入りしてたんですね…なんか、大きくなってますよ?このツガイたち。何食べさせてるんですか?」
そう聞かれて、初めて気づいた。
「私、餌をあげてない!」
ちらと、私を横目で眺めて、オオヌキさんが呟いた。
「虐待ですよ?」
「えっ?!でも…」
「はい…でも、丸々と太ってきている…あなたの部屋の中でなくなっているモノはありますか?」
「ありません!」
「でしょうね…この部屋で無くなっているものがあるとしたら、一瞬で気づきますもんね、殺風景なこの部屋で」
即答してしまったことをちょっと後悔して言った。
「もしかしたら、うちの冷蔵庫の中から、何か無くなってるかも!」
「いえ、さっき見たけど、先週と一緒でした。何も入ってません。草っぽい味がする豆乳以外!」
「勝手に人の冷蔵庫の中でビールとか探さないでください!!もう!!」
「ちょっと、繁殖活動をしているか確認してみましょう」
そう言うと、手持ちのタブレット型端末を操作して、12倍速で再生をし始める。
「ちょっと!!オオヌキさんっ!!ここ、勝手に盗撮…!!」
「国家安寧!」と私の言葉に、被せ気味に怒鳴るとにやりと笑った。
なんやねん!!この…脅迫じみた…。
その時、チカちゃんから電話がかかってきた。
「ごめん!大貫先生、そっち行ってる?私、遅れてちゃって!何かトラブル起こしてない?先生!」
「チカちゃん!オオヌキさんは存在自体がトラブルだわ!!盗撮されてた!」
チカちゃんは私と同じように「プライバシー!」と絶叫した。
チカちゃんは、程なくやってきて一生懸命にオオヌキさんに倫理観を説いていたけれど、オオヌキさんは、そんなやりとりを無視しながら、「アカネさん『わるもん』可愛がってますね…」と眉間にシワを寄せて言った。
「早回しするとわかります…ほら…あなたが『わるもん』におはようって言ってアタマを撫でたあと…ほら、ここですよ。体積が増えてますよ!」
そのひとことで、私とチカちゃんは、ついつい、タブレット端末を覗き込んだ。
時々『わるもん』に歌を歌ってあげたシーンでも、体積の増加が認められた。
モニター上では「オペラ歌手とか『わるもん』声だよねー」と言いケラケラ笑いながら、アイチューンで、音楽をかけて練習させてみていた。『ルチアーノパバロッティ』の『だれも寝てはならぬ』とか、オペラティック・ポップ楽曲の『君と旅立とう』とかを聴かせて、歌わせたりしていたんだった…。
全然綺麗な声ではなくって、めちゃくちゃ恐ろしい声になってビビったけど。
私が会社へ出かけたあと、自由に部屋を動き回っていたけれど、私が帰ってきた時にはオリにきちんと戻った。私の足音を聞き分けているとしか思えない。
私はモニターの中で帰ってきてすぐ「せまかったねー、ちょっと外で遊ぼうか」と言って、オリから出してあげて、『わるもん』つがいは喜んで私に抱きついてきた。
その時にも目に見えて体積の増加が認められた。
私がいない時には、そっとオリから出て、パソコンを開いて『君と旅立とう』を『ザコキャラオブザイヤー』と『タダグイジョシコウセイ』は、一緒に練習したりしていた。全然上手になっていない、いつも悪人が呻いているような声だった。
苦情がくるぞ、この声量で歌ってたら…と心配になった。
「かわいがってますね!」
それを見ながら、オオヌキさんが目を見開いて笑顔で言った。
ちかちゃんも「かわいがってる…」と深刻な顔で言った。
「なに?なんなの?ふたりとも!だめなのっ?!
可愛がっちゃだめなの?!」
ふたりとも、茫然と私を見ていた。
オオヌキさんが言った。
「アカネさん…アカネさんが可愛がると、このツガイは成長するようです…」
「はぁ?!」私は愕然とした。
「かわいがっちゃ…だ、だめなの…?」
そう、呟いた。
次は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ(稀崎明音)さん『ひきずられて座学』…の巻
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます